悲しみシンメトリー




王異の親戚設定


私の親の仇。それが私の恋人である。馬岱はまさか一族郎党皆殺しにしたはずの人間が居ると思っていないわけで、作って張り付けたようないつも作り笑いをしている。私は、こいつが孤独に恐れおののいていることを直ぐに見抜いた。何故かは知らないけれど、「馬岱殿は一人じゃないですよ、馬超殿が居るじゃないですか」って言った。そういえば王異はどうしたんだろう。生きているんだろうか?生前仲良くしていただけに、彼女の死は聞きたくなかった。彼女の屍を探して、死体の山を退かしたけれど王異の死体はでてこなかったのを覚えている。……きっとどこかで生きているんだろう。そう思いたい、思わなければやっていけない。



だって、こいつの孤独に飲みこまれてしまいそうになるから。私は馬岱が大嫌いである。孤独に捕われて、瞳に闇を宿し、心を閉ざしているそんな彼が大嫌いである。親と王異の為に馬超を殺してやりたいのだが、私は奴の底知れない実力を悟っていたので馬岱に取り込んだのだ。馬岱は私を見るなり目をまん丸くさせて、それから「やぁ、君は新人さんだね!俺は馬岱よろしくね!」って信じられないくらい底抜けの明るさで私を出迎えてくれた。それが偽りであると知ったのは直ぐだった。人を殺してきた人間が決壊もせずに、笑みを絶やさないなんてあり得ないのだ。



恋人までの道のりは少しだけ長かった。でも苦に思ったことは無かった、何故だろう。私たちは何処か似ていた。似ていて非ずなるものであったが、それでも似ていた。左右対称、シンメトリーのように。だから、恋人に成るのだって、簡単だった。お互いが依存しあうような形でお互いを求めだしたのだ。それは寂しさを、孤独を癒すための行為であり、好意は無かったのかもしれない。愛は無かったのかもしれない。だけど、私たちはお互いを求めて、心を抱きしめた。でも、私にとって彼の一族は私の仇であった。それだけが胸に蟠って、幸せに成れなかった。だけど、心の底から憎むことが出来なかった。同じような境遇にある、奴を。



その晩は月が大きく見え、煌々と赤く燃えていた。「馬岱」名前を呼ぶ。それに応えるように抱きしめる腕に力が籠る。それから、「どうしたんだい」「私は貴方を裏切るよ」「そんなこと言わないでくれよ、君は……俺にとって」一番大事な人だ。っていつもの茶化すような声ではなく、震え怯えた声色で言った。愛などない癖によくもまあ、べらべらとその舌は嘘を吐く物だ……と内心で毒を吐いた。「それでも。私は貴方を裏切るよ。ごめんね、馬岱、今まで黙っていたけれど私の本当の名前は名前よ」これが終幕の合図だった。馬岱がバッと体を離した。跳ね退くような仕草に、初めて彼の武人らしさを見た気がした。「ええ、でも、何もする気が無いわ」「どうしてだい?俺を殺す事できたはずでしょ?」



「貴方は私と似ているから、だからかもしれない、」それか若しくは本当に愛してしまったか、情が移ったのか。孤独に慄く貴方に最後の贈り物をしよう。「さようなら、馬岱。私は貴方に復讐をする、精々、本当の孤独に慄いて頂戴」護身用に持っていた、剣が月の光に照って眩しかったけれどそれで首を掻っ切った。ひゅうと呼吸の音がした気がしたが直ぐにそれもわからなくなった。馬岱が泣いているように見えたけれどきっと気のせいだろう。孤独が怖いだけ、それだけだ。それだけ…………。「置いて行かないでくれよ、名前……全部反則だ、」薄れゆく意識の中、段々と冷えていく私を彼は温めてくれた。「愛していたよ、」ああ、聞きたくなかった。



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