最後に、君はひとつ息をするんだ




トウ艾殿は何故かこのあたりについてやたら詳しい。聞くところによると趣味で地図を作っているらしいので、多分それだと思うのだが。今は町の視察に回っていて、何故かトウ艾殿と暇を持て余していた、私が抜擢されてしまって。トウ艾殿は不運だな、と思った。トウ艾殿と私はあまり親しくない。寧ろ避けられているのでは?と思う程、距離は遠かった。だから、こうして、一緒に町の視察をするという任務(トウ艾殿風に言えば)は、少しばかり、面倒な物だった。トウ艾殿が、指をさした先に風情のある佇まいの甘味屋があって、あそこで休憩をしようと言うので、なんかトウ艾殿が紳士的に見えて少し胸が疼いた。



店に入ると直ぐに高齢のおばあちゃんが出てきて、私たちを見るなり礼をして、何に致しましょうと言うので「この店はお勧めの甘味があった筈。それが美味いのでそれがお勧めだ、名前殿。自分も食べてみたが、中々美味であった」「ああ、トウ将軍は前にもいらしていましたねえ、ええ、ええ、それに致しましょう」おばあちゃんとは少し顔見知りなのか、直ぐに店の奥に引っ込んで行って、甘味(杏仁豆腐と思しきもの)とお茶を持ってきてくれた。白く震えるそれに、そっと口を付けると甘く優しい味が口内に広がり、幸せだなと顔を思わず綻ばせてしまった。それをトウ艾殿も見ていて「……」沈黙が痛かった。



それから少しして食べ終わると、会計はトウ艾殿が済ませてくれた。「……名前殿があそこまで喜んでくれるならば、苦手な甘味屋を探したかいもあったものだ」そう呟いたのを聞き逃すはずもなくて、「えっ?!」と思わず大きな声を出してしまった。それを勿論聞いていたトウ艾殿はしまった!という顔を珍しくしていて、あれは不意に出てしまった言葉だったのだという事をしってしまったのだった。



遡る事、数か月前。此処らへんの地理を把握していなかった自分は、地図を作るがてら散策していた。所々女性の好みそうな着物屋や、甘味屋等があって、そこに何度か立ち寄らせてもらった。と言っても、自分は男。一人では入りにくいことこの上無かったうえに、自分は顔を知っているものも多く、余計に肩身が狭かった。だが「此処の着物は名前殿に似合いそうだ」と書きながら独り言をつぶやいてしまった。途中で寄った甘味屋も美味しかったので、きっと名前殿が食べたら笑顔を見せてくれるのではないのだろうか、と少しだけ妄想して、いつか、名前殿と行けたらいいな、と思った。


Title 彗星


戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -