琥珀片のゆらぎ




夏侯淵様の軍に入ったならば弓の一つ二つ扱えずどうする。と弓を構え、粗雑な的に向けて矢を放つ。ヒュン、と風を切る音共に的外れな場所に矢が刺さった。「あちゃー」自分にはやはり向いていないのだろうか。そもそも、夏侯淵様が、私を指名したのは私の武を見て、だ。と言ったから余計に弓も使いこなさねばなと思うのだった。しかし、こうも的外れな方向に飛んでしまえば味方に当たるかもしれないという恐怖心がふつふつ沸いて来た。やはり自分には剣しかないのだろうか。と途方に暮れていた所、夏侯淵様がやってきた。「おっ、やっているな〜!感心感心!しかも弓の練習かぁ。そういや、俺、お前が剣を握っている姿しかみたことねぇなぁ」とポツリ呟く。ギクリと肩を跳ねさせた。その後の言葉が予想できたからだ。未来予知などではなく、純粋に向けられるであろう言葉。



「俺にも見せてくれよ、名前の弓の腕前をよっ」「わ、笑わないでくださいよ……」そう言って構える。キリリ、と音がして。ヒュンと矢が飛んでいく。やっぱり的は外していた。はぁー。と深いため息を吐いて、幻滅しましたか?と尋ねると夏侯淵様はうーんと唸っていて、私の隣に来て、私の体に触れた。「きゅ、急にどうされましたか?」「いやいや、才能とかじゃないぜ。構え方からまず、教えねーとって。こうやって、まずは足を開いて……あーあー、力み過ぎ。もっと力を抜けって」そう言われてもこの密着状態。とても、……その安心感はあるのだが、照れてしまう。



「そう。構え方はそうだ。さ、的に向けて構えて見ろよ」先程教えられた構えをして、弓を力み過ぎない程度に、力を込めて飛ばしてみた。今度は的に当たった。中心ではないが、今までの私に比べれば大きな進歩と言えよう。「おっ、やったじゃねーか!さっすが、俺の見込んだ武将だぜ。おいおい、俺このままだと名前に追い越されねーか?」なんてヘラヘラ笑っているけれどそれはないな、といつも思う。「夏侯淵様、お忙しい中、私に稽古を付けてくださって有難うございました!」と一礼すると夏侯淵様はガシガシ頭を掻きながら「いやいや、大したことしていないって。それより、夏侯淵様は改まりすぎだと思うからもっと砕けてもいいんだぞ?」「といいますと?」「夏侯淵殿とか、あー、もう、様はくすぐったいんだって!」そうむず痒そうに言うので、「夏侯淵殿」と一度呼ぶと、笑顔の花が咲いた。

Title エナメル


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