救われないと思う午前2時




(司馬師は死んでいる/夢主が病んでいる)


彼女は緩やかに笑みを浮かべながら言った。司馬師殿の死は確かに堪えたし、苦しかった。私が狗の様に追い掛け回している背が急に無くなってしまったのだから。残された物は何か、何もない。落ちこんでいる私は食は進まないし、仕事ものろのろとこなすようになった。今の所それで支障はきたしていないがその内つけが回ってくるだろう。彼女は嫣然と笑み、さも当然の事かの様に言った。「私が司馬師殿の代わりに死ねばよかったね」と死とはそんな簡単な物ではないのに、それなのに、私が死ねばよかったのにねと口にする名前殿がわからなかった。寧ろ恐怖すら覚えた。何で平然とそんなこと言ってのけるのだろうと。



その痩躯には同じく戦ってきた者として刻まれた傷が沢山へばりついているのを知っている。そして、名前が私を好きな事も知っている。事は、数か月前にさかのぼる。その日は夏の前日の様な気温で、過ごしやすかったのを覚えている。張り付けたような何処か作った笑顔で「こんにちは、諸葛誕殿。突然で申し訳ないのですが、私は貴方をお慕い申し上げております」それは挨拶をするのとさして、変らない様子で告白された出来事だった。私はその時狗と言う単語が頭の中を支配して「済まない、その気持ちには答えられない」と言って断ったのだった。別に名前殿が気に食わないだとか好みではないだとか(顔は寧ろ美人なのだ)ではないのだ。



だからだろう、私の敬愛する司馬師殿が死んだ現実に直面し脆くも決壊してしまう私に対していったのだ。本当に本心から思っているであろう言葉を言ったのだ。「私が代わりに死ねばよかったのにね」と。特別私を追いこもうとかそういう気はさらさらなかったのだと思う。だけど、私はそれにも参ってしまった。名前殿と司馬師殿の命を秤にかけたら司馬師殿の方が上だとわかっているのに、命は平等であるべきだと思っている自分も居て、名前殿の痩躯をきつく抱きしめて私はその日初めて涙を流した。「そのような事を言わないでくれ」「諸葛……誕殿?」「確かに、司馬師殿を敬愛していた。その背を犬のように追うだけで幸せだった。されど、名前殿の命を粗末にしたいとか代わりに死んでほしい等と思っていない!」



そういうと名前殿の体から力が抜けていくのが分かった。「そんなことないですよ。私が代わりに死ねば、諸葛誕殿は此処まで追い込まれることはなかったのですよ。だから、代わりに死ねばよかったんだ。あはっ!」瞳がかち合った。その瞳は私等映して居なかった。代わりに底なし沼のような、濁った瞳が深淵を覗いていた。何故わかってくれないのか、揺さ振りながらそのような事はない!信じてくれ!と叫んだが彼女の心には響かなかったようで、ただ悲しそうに「諸葛誕殿が早く元気に成ってくれることをお祈りしていますね」と私の腕を撫でた。ああ、何故、こんな悲しいのだろう。

Title 約30の嘘


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