へたくそな言い訳




(・シード連載番外で隼総、甘め。)



私だって隼総君が大好きだ。でなければ、一緒に居るという未来を選ぶことだって無かったわけで。昔の私と違って愛やら恋やらも理解していないというわけでもない。ただ、言えないだけなのだ。例えば、私たちには隔たりがあってそれはどう足掻いても失われるものではない時。トラバサミに足を取られて身動きが取れずにいる、小動物のようである。理性と素直な気持ちの間をユラユラリ、揺蕩っている。とはいえ、このまま、何も伝えずに隼総君にだけ思いを吐露させ続けるのは私自身が許せなくなる。「でもなぁ、」言っていい物なのだろうか。多分、道徳的にアウトである。でも、隼総君がこの間がっかりしたように或いは寂しそうに「名前は俺に何も言ってくれないよな」って言っていたのがひっかかるのだ。



あんな顔が見たかったわけではない、とはいえ、素面で言うのは矢張り色々問題が生じてくる。こんな手段に出るのは私だって、本当は嫌だ。でも、まだ隼総君が中学生のうちは、私から好きだというのはとても憚れてしまう。前のようにシード全体に向ける愛情とは違っているわけなのだから。ああ、困ったものだ。駄目な大人でも構わない、隼総君に言うんだ。これの力を借りてでもね。冷蔵庫から、必要以上にそれらを取り出して。プルトップを起こした。隼総君が帰ってくる前に回してしまえばいい。大丈夫……、グイと口に含んで嚥下した。ゴクゴク、美味しくも無いそれをのど越しだけで楽しむ。



「ただいま」隼総君の帰宅を告げる声が廊下にこだました。おかえりなさい、と気分よく声を張り上げて言ってソファーに座ったまま立ち上がらなかった。ふらふらしていて、とても迎えられそうになかったからだ。こんな醜態を隼総君に晒すのは確か二度目だ。二日酔いになって潰れていた時それ以来だ。だけど、今回は違う。目的がある、ちゃんとある。視界のがグルグル回っていて嫌に成ってしまう。私の上機嫌さは異様だったらしい、隼総君がすぐに何事かとリビングに入ってきた。「おかえりなさい、はやぶさくん」それから私の様子を見てすぐにほっと息をついた。少し心配させてしまったらしい。異様だからだろう。「なんだ、飲んでいたのか。……ま、適度に飲んで切り上げろよ、な?まあ、介抱とか、晩酌位なら付き合ってやるけどよ「すきだよ」「は?」「だから、すきだってばぁ、」人に絡んでしまうのは悪い癖だが、ふわふわしていて、隼総君が恋しくて仕方なくなる。「……ああ、俺も好きだよ」今まで見たことないような幸せそうな破顔だった。それから、ギュウと外から帰ってきたばかりの隼総君の匂いが私を包み込んだ。



「……ごめんねぇ、こんなやりかたしかできなくて。でもわたしの、ほんしんだから、うそはついていないから。ほんとうは、ちゃんといいたいのに。どうしてもいいたかったけど、としがきになっていえなくて」「何泣きそうになっているんだよ、泣くな、ほら。俺は怒っていないし、今、寧ろ嬉しいから」隼総君の体温を感じたまま、瞳を情けなさやら何やらで潤ませていたら、ギュウと腕に込められていた力が強くなった。「俺の言葉、気にしていたんだな、他のシードじゃなくて俺を選んでくれたことも、名前の気持ちも嬉しいと思う。俺も好きだ、有難うな」沢山のシードが、私によくしてくれた。隼総君も例外じゃない、私は恵まれていた。その中で隼総君といようと思った理由を私は言っていない。ただ、曖昧に言葉をはぐらかした。逃避するのだけは昔からうまくてずるい。



「いつも、ありがと、はやぶさくんはいつもわたしのだめなところふぉろーしてくれるし、たすけてくれるし、おもいやりもあるから、だいすき」もっと言いたいことはあるのに頭がふわふわしていて、よく言葉が出てこない、喉元に突っかかったまま、どうしようと考えていたら隼総君が恥ずかしそうに頬を薄らと染めた。「ちょ、急に!照れるだろ」今言わなきゃ、って思っているに制された。



翌日に成って目が醒めて強い喉の渇きと同時に羞恥心がやってきた。タオルケットを被ったまま「うわああっ」ハリネズミ君のぬいぐるみに顔を押し付けたまま足を軽くばたつかせた。素面じゃ無理だからと、お酒を飲んで隼総君に思いを伝えた、まではいいとしよう!ずるい大人のやり方だが。お酒のせいにもできるし!最悪の場合あの時は酔っていたから変なことを言ってしまったで済ませられるし!しかし、翌日に成っても鮮明に事細かに覚えているとは何事か!私は隼総君にべったりした記憶がまざまざと脳に残っている。「名前、その様子、覚えているんだな?昨日の事。嬉しかったんだけど」そこでようやく顔を上げた。そして隼総君の嬉しそうな顔を見て、良かったと思い直した。「本当……?ならよかったんだけど、酒癖悪くてごめんね、」「大丈夫だ、名前の酒癖悪くても俺が居るからな。だから、俺がお酒飲めるようになるの待っていてくれよ?」「うん」いつか素面で好きだと言える、そんな素敵な未来を描いて。

あとがき

よくわからないことに成りました。シード番外との事なので張り切りはしたんですが、夢主がデレてくれそうになかったんで…このような形で。隼総君が好きとのこと、シード連載では、あまりいい出番をあげられなくて申し訳ないです。シード連載を好きと言ってくれて有難うございました。少しでも楽しんでくれたら幸いです。

title 箱庭


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