消失する子供たちの愛情に




(・フェイ(ガル)かSARU。クールなフェイが好きな夢主を大好きなSARU。落ちはお任せ。)



サルの思惑通りに事が運ばなかったせいなのか、サルは頭が鈍く痛むのを感じた。すべての問題は名前である。サルは名前が好きで名前はフェイの事が好きだったのだ。だから、引きはがすいいチャンスであるという理由からも、フェイを単身で雷門に送り込んだのだ。これで、フェイがいない間に沢山名前に堂々とアタックを仕掛けられるなどと思い込んでいたのだが、さにあらず……名前は思いのほか一途であった。サルの甘言も、誘いも全部甘い溜息でかき消した。つまりは、聞こえないのである。フェイの事で頭と胸が一杯なのである。そこでようやく、名前とフェイを引きはがしたのは失敗であったと気が付いたのであった。自分の言葉にまともに反応を示してくれないのであれば、フェイは居た方がましである。



具体的にフェイがいない間にどんなことをしたかというと、皇帝を名乗る割にはとても不器用で案外かわいらしい物が多かった。「名前、前に欲しいと言っていたものが手に入ったんだ」「名前、町に出たときに美味しそうなものを見つけたんだ、僕の部屋に来ない?」とかそのレベルだ。それでもサルは必死だった。周りが見ても必死だなと笑いを抑えきれないほどには必死だった。そして、そんなサルを見てなんて卑怯なんだとフェーダの人間はサルをそれとなく貶した。だが、言葉も耳に入らない程にサルは彼女に夢中であった。名前が唯一サルの言葉に耳を傾けた瞬間と言えば、彼の事だ。



「ふぇ、フェイはうまくやっているだろうか?きっと、フェイの事だ、うまくやっていると思うけど、名前はどう思う?」「ふぇ、い……、フェイ?ああ、フェイ……きっとうまくやっている、そう信じているわ。とっても心配だけど、私もいけたらよかったのに」ふるふると長い睫毛を伏せてそういった。「ああ、きっと、うまくやっているさ」彼は嫉妬に揺れながらもそう何とか答えて見せた。だが、それも少しつつけば崩れてしまいそうな、脆い物であった。張り付けた笑顔はぎこちなく、そこからまた会話は途切れてしまった。僕の伴侶に成ってほしいだなんて、口が裂けても言えなかった。死ぬ前に一度彼女に言いたいのになぁ、と唇を軽くかみしめた。いっそのこと彼女の中からフェイの存在を抹消してしまいたかった、だけど、これはあまりにも卑怯な手段であった。サル自身これだけはしたくないと思っていたのだから。



フェイが帰ってきた。何かを思いつめているようだったが、表立っては言わなかった。一番に駆けつけて喜んだのは名前だったが、フェイはそれを軽くあしらった。自分ならそんなことは絶対にしないのになぁ、とフェイを睨めばフェイが淡い溜息を零した。どうやら、雷門に居る間に少しだけ心がうつろいでいるようだった。「フェイ、フェイ!おかえりなさい!無事かしら?あ、あ、怪我なんかしていない?!」「ああ、別に。何処も怪我なんてしていないよ。僕は疲れているんだ」とても大きな任務をこなしてきたからね、って無愛想を発揮した。名前は少しだけ寂しそうに笑んでそれから、それならよかったとホッと溜息をついた。「……、僕、部屋に戻るね。今度の試合君も出るんだろう、準備は怠らないでくれよ」そういって、じゃあと別れを告げるので名前が止めた。「あ、のさ、フェイ。悩んでいることがあったら私にいつでも言ってね、私なんでも力に成るし、……」「君が僕より力があると思えないんだけど」「そ、そうだけど」「用はそれだけ?」「う、うん……」名前は引き留める理由を失ってしまった。ただ、部屋へと戻っていくフェイの背中を愛しげに見つめるだけだ。自分は邪魔な存在なのだろうか?フェイの心のよりどころに、フェイを支えてあげることはできないのだろうか?ただ、それだけが疼痛となって襲い掛かってくる。



ようやく決意を固めた、サルが用意した小ぶりのダイヤモンドがはめ込まれている指輪は古来から行われてきた一種の儀式であった。「僕の伴侶に成ってほしい」何度も部屋で練習した言葉だった。たったこれだけの言葉にどれだけの思いが詰まっているのだろう。それは他の誰にも計り知れない事だった。唯一サルだけが知っている。名前はフェイの部屋の前に立って、ノックをしようかどうかずっと迷っていた。それを見つめ、溜息をついた。握りしめる。「ふぇ、い……」「名前、」ほぼ同時であった。が、ややサルの方が遅かったように思える。声はかけられた。だが、それでは遅かったのだ。名前の呼びかけにフェイが顔を出してしまいサルは後れを取ってしまった。仕方なく角に身を隠す。後ろ手に小さな箱を携えて。



「名前何……」「……あのね、フェイ。私、フェイの事を支えたいの」その先の言葉がサルにはうまく聞こえなかった、いや、脳が聞くのを拒絶したのだ。薄桃色に染めた彼女が睦言を囁く物だから、これさえ言ってしまえば、流石に中々気づけない鈍感なフェイですらもわかってしまうというものだった、フェイが突然今までの毅然とした態度を崩して狼狽した。オロオロと視線をさまよわせて、「……きつく言ってごめん」とそれだけ言った。「ううん、いいの、私フェイの為に頑張りたいから」「有難う、名前」カタン、何処かで何か軽い物が落ちる音が聞こえた。だけど、それは何よりも重たい、フェイと名前が音の成る方へ、目線を動かした時にはもう誰もいなかった。




おまけ。


「名前、」「……えっ、サル?」フェイに声をかけるよりも先にサルが、名前に声をかけた。フェイの部屋の前であるしサルは内心、心穏やかではなかったが、今、渡せる最高の物を名前に突き出した。「これ、……その、僕のは、伴侶に、成ってほしい……なんて」サルにしてはらしくもなく、自信の欠片すら見当たらなかった。名前はキョトンとした様子で突き出された宝石のはめ込まれた指輪を見つめている、それから、頬に朱を宿して「……考えさせてください。私はフェイが好き。だから、……考えさせてほしいの」今は受け取れないよ、とサルに突き返してそれでも考えると言った。サルは「それでもいいんだ、今は!僕は名前が……、大好きだから」そういってはにかんだ。



あとがき。

本当はSARUさん落ちにしようと思ったけどフェイ書いたことないな、とフェイ落ちに成りました。ですが、SARUさんがあまりにも不憫だったのでSARU落ちのおまけも作ってみました。お気に召したら嬉しいです


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