シュガーボーイの主食は彼女!




(千宮路で大和で病んだものか、甘い物。)

俺は授業中や、昼休みもずっと名字を見ている。目が合うと逸らしているので多分俺の思いには気が付いていないはずだ。こっちを見てくれだなんて、声を荒げることはしたくないしこれからもしないと思う。みっともないしな。だけども、俺はきっと、思っている以上に名字が好きなんだと思う。例えばだ、接し方が単純にわからなくなったのだ。今までは、普通に物の貸し借り位なら余裕であったはずだ。ただただ、名字の背中が、体躯が遠い。今日は珍しくお菓子なんか手に持っている。今日の家庭科の授業で作った奴だ。えーと、確かマフィンだっけ。俺もやったんだけど、雑すぎてなんかやけに粉っぽくて食えたもんじゃなかったんだよな。まあ、ぶっちゃけまずかったチームメイトに押し付けようかと思ったくらいだ。名字に触れて貰えるならお菓子に成って食われてもいいのにな、とちょっとらしくも無く思った。というか、名字の手作りとか食べたい。この一文で俺がいかに重症かおわかりだろうか。あー、そうだよ、畜生、好きだよ!悪いか!



千宮路君がこちらを見ていることに気が付いた。睨んでいるようにも見える凄味のある、物で若干恐ろしいと思ってしまったが千宮路君の、目線の先は私ではなくてマフィンの入った袋だったので若しかしてこれが欲しいのだろうかなんて思ってしまった。今回の家庭科の授業で結構いい感じでうまくいったので別のクラスの友人に少しおすそ分けなんて思っていたものだった。千宮路君たちの班はあまりうまくいかなかったのか渋い顔をしていて皆が口々にとっても粉っぽいと評されていた。千宮路君や男の子たちばかりで作っていたからかもしれない。意外と千宮路君はお菓子類が好きなのかもしれない……心の中で少しだけ友人に詫びて、千宮路君の机に一歩ずつ歩み寄る。「なんだよ」そっけない声がして、あ、やっぱりやめた方がよかったかなと少し思った。けど、もう手遅れだった。私の口は勝手に意思とは関係なしに言葉を紡ぎだしていく。「マフィン、要る?」「!……、ああ。貰う、俺の班は大失敗だったからな。粉っぽくて食えたもんじゃなかったな」そう言って受け取ってもらえた。



何でそんな反応しか出来ないんだ俺!名字から貰ったまだ、少し温かみのあるマフィンに齧りついた。まだ、実習からそこまで時間が経過していないので温かいのだろうと予想できた。一口目に思ったことと言えば甘い、である。あんまり甘いのは好んで食うわけではない、チョコレートだって食う時は大抵少し苦めのブラックだ。だが、女子好みの甘ったるい味だとも思った。名字が美味しいかと感想を求めてきたので俺はまたそっけなく「美味い」とだけ言った。名字がほっとしたような笑顔を見せたので、俺の脳はそれをジリジリと焼き付けた。あーくそ。



千宮路君の顔があまりにも幸せそうに見えたから、作った側の私としてはとても嬉しいわけで、それから私は毎日のように千宮路君に餌付けをするように、手作りでないにしろお菓子類を与えるようになった。渡すときは二人きりの時を選んだ。千宮路君もきっとそういうの気にするだろうと思って。私と千宮路君の関係はお菓子で繋がっている。甘いにおいを纏わせた砂糖菓子のような関係だ。友人に「名前お菓子、あんまり食べないのに最近よく持ってくるね」と怪訝そうな顔をされたので、笑んで言った。「これで、喜んでくれる可愛い人がいるの」私は千宮路君が喜んでくれるのが。私だけに見せてくれる一面が嫌いじゃない。



どうやら、俺は無類の菓子好き男子に認定されたらしい。違う、お菓子じゃなくてお前がという言葉を甘ったるい菓子を通してかき消した。甘い、だけど、たまにこれだけの関係が寂しく思う。ただ、餌付けされるだけの関係である。もう一歩踏み出せばきっと新しい何かが築けるのかもしれない、女々しいことに相手がどう思っているかとか思うと踏み出せない。だけどバケツ一杯に張った水のようなものだ。ぽちゃん、と水道からまた水滴が垂れて水面を揺らし波紋を作った。そして溢れ出す、少しずつ地面に吸い込まれていく。「お菓子じゃなくて、お前が、名字が好きだ」名字の笑顔が消えて、頬に朱を灯した。これって、脈ありと見てもいいか?見てもいいよな、強引に頬に口づけて「今度俺の試合、見に来てくれよ」どうやら、俺は調子に乗っているらしい。コクンと一度だけ頷いたのに俺は気を良くして、また妙に甘ったるい菓子に口を付けた。


あとがき

いつも温かいコメントを下さるTraum様に悪意をぶつけるのは、忍びなかったので甘いのを目指してみました。甘いのかわからないのですが;まあ、悪意は間違いなくないです。偽物っぽいけど;シードと光良連載に対してもコメント有難うございました。光良連載は、繋ぎ程度で書いているのですが、次の連載はまだという酷い状態です;今回も企画ご参加有難うございました。また機会がございましたら、是非!



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