赤く濁ったカトレア



夕日が、眩しく照りつける午後3時半の教室。
右側を見ると、べったりと腕に絡みついたままの夜桜。
「名前〜」
「なあに?」
甘ったるい彼の猫撫で声。
「アハ、何でもなぁい」
ニコニコと、無意味に、私の名前を呼ぶ、その声。
彼は私に、依存していた。


カタン、と音を立てて椅子から立ち上がる。
教室の扉まで進んだところで、「名前」夜桜に呼び止められた。
「どこに行くの?名前」
振り向くと、不安そうな夜桜の顔。
「ねぇ俺のこと置いて行くの…?」
見る見るうちに、彼の目には涙が溜まっていく。
「お手洗い、行くだけだから」
私が近づいて宥めるように頭を撫でると、うぁ、と嗚咽を漏らしカタカタを震える。
「俺、名前が俺のこと、置いてどこかへ行っちゃうのかと、思って…」
すん、と鼻を啜りながら、途切れ途切れに話す夜桜。
「俺、名前がいないと、生きていけないよう…」
そう言う夜桜を、私は何も言わずに抱き締めた。


*****


「そうだ、ねえ聞いて夜桜」
「ん〜?なあに、名前」
帰ってくると、彼は既に笑顔に戻っていて、帰ってくるなり「おかえりぃ」と私の腕に絡みついた。
「あのね、私昨日告白されたんだ」
そう言って見た夜桜の顔は、まさに顔面蒼白だった。
「それでね、私、付き合ってみようかと思うの」
ほら、私ずっと夜桜と居るから、あんまりこういう機会無いでしょう?と続けたが、夜桜には全く聞こえていないようだった。
唐突に、腕を強く掴まれる。
「っ!痛い、痛いよ夜桜。離して…」
「やだ…やだよ?俺、名前がいないとだめだよ?生きていけないよ?」
まるで絶望に打ちひしがれたように、目を見開いて私を見つめる。
「何で…何で?何で何で?名前は、名前は俺のこと、嫌いになっちゃ、ったの?」
違う。私は夜桜を嫌いになったわけではなかった。
「どうして?俺、何かしたの?どうして嫌いになるの?」
ただ。
「ねえ、名前…」
ただ、彼の気持ちを確かめたかっただけだった。それなのに。


私の目いっぱいに映るのは、鋏を持って泣きながら笑った、夜桜だった。
とす、と鈍い音がして、視界から鋏が消え失せる。
一つ遅れて、喉に熱を感じた。
空気の漏れる音がする。
「アハッ…名前が、名前がいけないんだよ?俺の傷つくようなこと言う、から」
そんな事言う声ならいらないね、と笑う。
同時に、頬に彼の涙が降りかかった。
「アハハ、俺を置いて行っちゃう足も、いらない、ね?」
喉から引き抜かれた鋏を開き、アキレス腱に沿わせる。
「ぁ、う…ぇて…」
やめて、と言おうにも、喉が熱くて上手く声が出ない。
刃の冷たい感触と共に、痛みが走る。
喉よりも痛みをリアルに感じて、じわりと視界が滲む。
「名前、泣かないで。アハッこれで、ずっと俺たち、一緒なんだよ?アハハッ」
こんな結末は、私の望んだものではなかった。
私が望んだのは、もっと可愛らしい嫉妬。
そして、夜桜と、結ばれることだった。
私は、出ない声で、それを必死に伝えようと足掻いた。
「ぃ、て…ぅあ…」
その声が、酔いしれた表情の彼に届くことは、無かった。


幸せそうに笑う彼の双眸からは、冷たい雫が零れ落ち続けていた。


(依存していたのは(愛していたのは)どっち?)





土下座レベルです。
本当にすみませんでした。


永樹様、リクエストありがとうございました。
光良君、と言う指定だけでしたので、皆無に等しい想像力をフルに使って書かせていただきました。
暗いお話がお好き、ということで頑張ってはみましたが、コレジャナイ感が尋常ではありません。
本当に申し訳ありません。
書き直し、修正は幾らでも承ります。


永樹様のみ、お持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました。
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もえ様のサイトの1000HITフリリク企画で頂きいました!そ、そういえば、どんな傾向〜とか書くの忘れていましたね(書こうとはしていたんですが;…確か依存だとか付き纏うだとかそんなこと書こうとして忘れて;)…すみません;夜桜の病んでいる感、凄く良かったです。特に後半が私は好きですね(夢主の後悔というか…その辺が特に救われなくて好きです)。あと、私が言ったこと覚えていてくれて有難うございます。好みのどストライクでした。1000HIT改めて、おめでとうございます。

永樹

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