件名:わたしも好きです





「冬花ちゃん、おひさー」
「こんばんは、名前ちゃん」


受話器の向こうの彼女が鈴のなるような声でそう返してくれる。
私は思わず頬を緩め、お気に入りのクッションをぎゅうと抱きしめた。
冬花ちゃんと話をするのは、とても久々だ。彼女が学校を休んで、フットボール何とかの日本代表のマネージャーとしてライオコット島に旅立ったのは、一体何日前の事だっけ。
私はスポーツに詳しくないからあんまりサッカーについては分からないけれど、それでも、日本代表の試合の時は必ず、携帯片手に中継番組を穴が開くくらい見つめることにしている。
だって、なんだか、クラスメートがテレビに映っているのって感動するじゃないか。
それも、結構親しい子なら尚更だと思う。


試合が終わった後は必ずメールで連絡することにしてて、勝利の喜びも、敗北の悲しみも、二人で分け合っている。
今日もそんな約束を守って、私は絵文字で飾り付けたメールを送った。
それで、冬花ちゃんが今なら電話できるっていうものだから、私から彼女へと電話をかけたのだ。
久々に聞く彼女の声。何故だかとってもどきどきした。


「勝ったね!おめでとう!」
「ふふ、ありがとう」
「正直最後までどっちが優勢でどっちが劣勢かは分からなかったけど、面白かったよ!」
「いい加減、ルールを覚えても良いと思うんだけど?」
「いやー、あんなエフェクトの激しい技ばっか使ってると、ボールを見失っちゃうんだよね」
「もー。覚える気ないくせに」
「まあね」


たわいのない会話がとっても楽しいと思えるなんて、私は友人に餓えていたりするのだろうか。
だけれど、その言葉もあながち間違いではないような気がした。
冬花ちゃんがいない学校は何処かつまらない。
そりゃあ彼女以外に友達はいるのだけれど、彼女とはどこか違う。


「今の所は順調なんだよね?その、なんというか、優勝までというか」
「うん。でも、音無さんが言うには、これからもっと強敵と戦うことになるみたい」
「おとなしさん?」
「あ、えっと、同じマネージャーの子。テレビに映ってなかった?赤いふちの眼鏡かけてる女の子」
「あー、そういえば、うん、見た見た」


あの子が音無さんって言うんだ、そう思いつつ、どうしてか私の胸はざわついていた。
すっきりしない感情に一人首を傾げる。
なんでだろう。なんで、冬花ちゃんに音無さんの話をして欲しくないだなんて思っちゃうんだろう。
知らない内に私ってこんなに酷い事考えるようになっていたんだ、なんて、悲しくなった。


「マネージャーかあ」
「音無さん以外にも、木野さんもいるよ。ヘアピンしてる子」
「あの、茶髪の子かー」
「うん」
「私も」
「え?」


「私もついて行ってたら、マネージャーになれたかな」気がつけば私は、そんな事を口走っていた。


「名前ちゃんが?」
「そう、そうしたら、私、冬花ちゃんを、」


「独り占めできたかな」冬花ちゃんの口から私の知らない人の名前が出るのが怖くて、悲しくて、苛立たしくて、ああ、もう、どうしてこんなに私は酷いんだろう。
受話器越しの冬花ちゃんを困らせることはしたくないのに。


「名前ちゃん」
「……ごっ、ごめん!切るね!」
「ちょっとまっ」


ぶちっ。つーつーつー。焦りながら私は電源ボタンを押していた。


「はああ…馬鹿だ、馬鹿だー」


ベッドにごろごろと転がって自分をひたすら罵ってみる。
ただそんな事をしても今さっきの言葉は冬花ちゃんの耳からは消えてくれない。
本当、どうしたんだろう。冬花ちゃんに電話をかける時はとっても待ち遠しくて、楽しみにしていて。
なのに、なんであんな変なことを言ってしまったんだろう。
冬花ちゃんも絶対変に思っている。それだけならまだしも、私の事を嫌に思っていたらどうしよう。
勝手に電話切っちゃったし、もし、嫌われてしまったら…最悪の状況を想像して、さあっと顔が青くなる。


「あ、謝らなきゃ」


蹲っている場合じゃない。
もし絶交なんてされたら、私死ぬ。
と、私の携帯の着信音が静かだった部屋に行き成り鳴り響いた。
慌てて携帯を取りディスプレイを確認する。『久遠冬花』。震える指でボタンを押した。


「も、もしもし」
「もしもし。私だけど」
「さっ、さっきはごめん!」


いつもだったら「私だけどってもしかして私私詐欺ですか!」なんて冗談を言うことも出来たのに、今そんな余裕はない。
舌を噛みそうになりながら必死に私は声を振り絞った。
声音からして怒り心頭ではないだろうけど、気分を害しているなら大変だ。
しかしそんな私の気苦労とは裏腹に、当の本人は「え?」なんて声をあげた。


「なんでごめんなの?」
「え、いや、なんでって…私変なこと言ったし、行き成り電話切ったし」
「電話切ったのは悲しかったけど、別に変なことは言ってないでしょ?」
「えっ」


何なの、本当、意味がわからない。冬花ちゃんが続ける。


「嬉しかったよ。私、名前ちゃんに大事にされてるなあって思ったもの」


そんな事を言って、冬花ちゃんは笑う。


「でも、名前ちゃんがマネージャーにってのは、やだったな」
「ご、ごめんね!?」
「だから、何で謝るの?私怒ってないって」
「でも、やだったなって…」
「嫌だったけど、別に、名前ちゃんにたいしての嫌じゃなくて」
「じゃ、じゃあ何に対するのさー」
「だって。名前ちゃんを音無さん達に見せたくないもの」


「名前ちゃんは私のだから」きっと受話器越しの彼女は微笑んでいるのだろう。それとは裏腹に、私の頬はぼぼっと一気に真っ赤に染まった。


「わわ私は物じゃないよ!」
「あれ、そうだっけ?」
「ひっひどい!」
「ふふ。…あ、ごめん。お父さんに呼ばれちゃったから、切るね」
「うん、分かった」


色々あったけど、絶交とかにはならなかった。ほっと一息ついて、私は笑う。


「おやすみ、冬花ちゃん」
「うん、おやすみ、名前ちゃん。好きです」
「えっ!?」


ぶちっ。つーつーつー。
途切れた電話をもったまま、呆然と立ち尽くす。
好きです、って。そんなの、幾ら頭の悪い私でも分かる。
…違う、よね。きっと、あの、友達として!そう!あくまで親しい友人としての好きって意味だよね。
勝手にそう決めつけながら、それでも私は、少しだけ赤くなった頬を抑えつつ、メールの新規作成画面を開いた。


件名 : 私も好きです(*゚ー゚*)



永樹様より、冬花で百合夢でした!最後のタイトルの顔文字はメールっぽい感じを出したくて使いました。本文でデレちゃうヒロイン、良いと思います。では、二万打リクエストありがとうございました!


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黒霧様有難うございました!
終始ニヤニヤしながらスクロールしてました!
だって。名前ちゃんを音無さん達に見せたくないもの
の台詞がやばかったです。勿論いい意味で!
2万ヒット本当におめでとうございます。
これからも影の方で応援させてくださいませ。    永樹

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