トワイライト



(・同い年の岬が大人に見える)

その日は特に何ら変わり映えもしない、学校だった。特に変化を求めているわけでもないのだけれども少しだけ退屈に思ってしまう、そんな日々。昨日と同じように教科書を開いて、ノートを写して宿題を提出する。昨日と違うことと言えば、今日の朝、先生が昨日の午後五時ごろに変質者が出たから気を付けるようにと言ったことくらいだ。あと、今日は二時間ぶっ続けで体育の授業があることくらいか。今日もゆっくりと何事もなく時が過ぎていく。私はぼんやりと時の流れに身を任せている。



同じクラスの岬君はちょっぴり怖い人だ、というか、サッカー部の人たちのあの熱いノリが何となく怖い。今日も体育の時間のサッカーでは、やけにはりきっていて無茶苦茶な技を使っていた。よくわからないけどトビウオらしい。はっきりと見ていないけど、多分そう。サッカー部の本領発揮というやつだろうか。やっぱり、中学一年生ってほんの少し前までは小学生だったわけでとても年相応で子供っぽいなと思ってしまう。かくいう自分も同い年なのでそうなのだけども。それから、これは全くの別件なのだが最悪なことにほどほどにやっていたはずなのに、体育で足を捻ってしまった。うーん、ついていない。一応、保健室に行って手当てを受けたのだがあまり状況は芳しくない。



下校の時刻に成った。教科書をかばんに詰めて、準備をする。部活は文科系の部活なので、一応出た。玄関先にまで出ると、ちょうどサッカー部も先ほど練習を終えたのか、タオルを首にかけて汗を拭いていた岬君に出会った。汗で張り付いた髪の毛が少しだけ色っぽく見えたけれど顔はあどけなさを残していてやっぱり幼く思った。それにしても、今日すでに二時間、体育でサッカーをやっていたのによくやるなぁとか本当にサッカーが好きなんだなぁと思った。「ああ、苗字。今、帰りか?」岬君がこちらに向かって話しかけてきた。あまり話す方じゃないので社交辞令のような会話に成ってしまったが受け答えた。「そうだよ。岬君は?」「俺も、今終わったんだ。一緒に帰らないか?」そう申し出てくれたので、私は二つ返事で了承した。



帰り道は、やや暗かったけれども街灯があったのでいうほど暗くなかった。「岬君って、こっちの方角だったけ?」素朴な疑問に対して、髪の毛を風になびかせて岬君が笑った。「違うけど、お前、足怪我しているしなんかあった時に対応できないだろう?」岬君が案外、周りを見ているという事に気が付いて私は驚いた。先ほどから、怪我をして足の遅い私を気遣うような動作、仕草も多い。そして、それは気のせいではないのだ。「何かって?」「今日の朝、先生が言っていただろう?変質者が出るって」岬君はうまくぼかしていたが、私の質問にはきっちりと答えた。成る程、私が怪我をしているから万が一に対応できないと考えたらしい。「大丈夫だよ、私そんなに可愛くないし」「何、言っているんだか」呆れたそぶりを見せながらも、足は大丈夫か?と言った。



じりじりと家への距離を詰めていく、やっぱり変質者なんてそうそう出会うものではない。出会ったところで岬君はどうするんだろう?きっと怪我をしたというだけで送ってくれる優しい彼の事だ、撃退してくれるのだろう。ほんの数時間前まで、子供っぽいなぁとか思っていたのにすでに考えが逆転し始めているところに気が付いた。そうだ、人間とは一つの顔でできているわけではない。時にきらきらとした純然な子供の顔を向けて、時に気難しい大人の顔をする。成る程、私は岬君の側面しか見えていなかったのだ。「……岬君は凄いね、今日散々サッカーやったのにさ」「そりゃ好きでやっているからな。それに……雷門に負けたし、強くなりたいんだ」「そっか」ただ、強さを求めているだけじゃなくてサッカーを好きな岬君ならきっと強くなれるんだろうな。



やっぱり変質者になんか遭遇することはなかった。家の前で恭しくたったままの夕日をバックに岬君がはにかんだ。「変質者に遭わなかったな」「そんなものに遭遇しないってば、それに沢山いるわけじゃないんだし」相当確率低いんだからねと笑うと岬君もそれもそうかと納得したように頷いた。それにこの日本が沢山の変質者で埋もれていたとしたらずいぶんと生きにくい世の中に成ってしまったのだと思ってしまう。「まあ、良かったよ。今日、怪我したって聞いてちょっと心配したし」「へ?なんで?そんな大したことじゃないよ」だって、ただ足を捻っただけだものと病状を教えてあげれば岬君は何とも言い難い、少しだけ複雑そうな顔をしていた。それは何に例えられるものでも無かった。けれど、複雑そうなのだけはわかった。



「そりゃ、好きな子が怪我したって聞けば心配するだろう。男ってのはそういうもんだ」反応が鈍っていて、脳に伝達されるのがやや遅れてしまった。取り敢えず好きな子がどうとかの件を脳内で処理するのはずいぶんと時間がかかりそうなものだった。「……えっと、取り合えず送ってくれて有難う」処理は多分今日中に終わらないと判断して、送ってくれたことを感謝して礼を述べた。岬君は満更でもないような顔をしていたが「ああ」とだけぶっきらぼうに答えた。やっぱり、岬君の顔は年相応の中学一年生に見えた。先ほどの、大人っぽく見えた岬君が嘘のように思えた。「さっきの話だけど、俺にとっては可愛い女の子だ」って、言葉は上擦っていて冷静さにかけていた。勿論、それは私も同じだけれど。



あとがき
大人っぽいっていうのが何かわからなかったのでこんな感じにしてみました。不意に大人っぽいところを見せられるとコロッと参りそうですね。岬君は可愛いくて、うちでもスタメンでエースストライカーなんですが、書く機会は少なかったりします。七篠様有難うございました。


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