龍の慟哭




(・やることはしているが達観している龍崎と夢主、うまくかみ合わないで制御している。後悔)
15推、それを思わせるような描写があるので。


情事の最中に、一度も愛を囁くことは無かった。俺と名前の関係が今までと同じものだったら恐らく、俺は飛び切り甘いものを囁いたかもしれない。それこそ、血液が砂糖水で出来ているかのごとく、終わった後に赤面して後悔をしてしまうような物を。名前もまた、俺と同じように俺に対して言葉を投げかけることは無かった。「……名前、」無意味に名前を呼んでもいつものように、笑いかけてくれることは無かった。ただ、俺に冷たく背を向けて拒絶しているようにも思える。ならば、何故俺に抵抗もなく抱かれたのか?初めてだったじゃないか?と問いたくなったが虚しくなってやめた。この虚無を今埋めてくれる人間が存在しなかった。最早、俺の独りよがりに近い物なのだろう。「何?」一応返事は返ってきたが、素っ気なく何処か冷たさを帯びていた。



「なんで、」俺の考えを見透かしていたのは、恐らく俺と今まで一緒に連れ添ってきたからだ。多寡だか一年ちょっとの歳月だったが俺がシードになって帝国に来てからずっと一緒だったから、ある程度の事は理解している模様だった。だけど、俺は長いこと一緒に居ながらにして名前に俺がシードだという事を打ち明けなかった。だが、それは名前も一緒の事だった。だから、俺一人を責めてくることは無かった。そう、同罪だったからこそお互いが何も言えずにただ、黙って天井や壁を見上げているだけなのだ。終わった後の、会話もろくに無しに。こんな冷え冷えした関係だったけ。これならまだ、動物の方がましだ。理性なんか備わっていないように思える癖に自分の欲求にストレートだ。「黙っていて、悪かった」



違う、言った後にこんなことが言いたかったわけじゃないんだと悔しさに唇を震わせた。自分が情けなくて仕方が無かった雷門に痛い敗北を喫した挙句の果てに彼女とは、敵対関係にあった。それをお互いが見抜けずに温い楽園に居た。本来ならば特別な日として迎えたであろう日をあろうことか、こんな風に過ごすなんて思いもよらずに、恋人ごっこを楽しんでいたのだ。名前の考えが見えない。名前は果たして俺の事を心の底から俺のように愛してくれていただろうか。俺も名前も今日が最後だと知っていた。お互いが、今日で離ればなれで、もう逢えないであろうことを理解していた。それでいて、この行為だ。いっその事自分の感情やら何もかもを切り離してすればよかったんだ。



「皇児は、どうして私を抱いたの?」背中から震えた声が聞こえた。怖かったのかもしれない、本来ならば愛情を伴う行為だ。もっと慈しんで、愛をささやくべきだったのだ。「……最後だったから」「そう、もう何もかもおしまいだね。今日で。私は楽しかったよ。皇児は私の事、好きだった?」好き、たった一言だけのその言葉の重さは今までのどんな言葉よりも、重たく感じられた。これが何も知らない状態だったのならば若干照れながらも、「好きだ、馬鹿。変なこと聞くなよな」とか、言って軽い握り拳を彼女に当てたのだろうか。一見なんら他の恋人と変わらないような行動で、自然に。「好きだったさ」言葉は出てこなかった。そう、喉につっかえたまま詰め物のように。



此処で、最後に無意味に抵抗するように、足掻くように「好きだ」と繰り返して口づけたところで、先ほどの行為は戻ってくるのか?いや、戻ってなんか来ない。名前の初めても、俺たちの関係も何一つもとになんか戻らない。本当ただ、ボタン一つ掛け違えただけなのに、馬鹿げている。だって、明日からは俺はもう別の学校への派遣が決まっていて名前とは逢えなくなる。逆に虚しくならないか?それでも「好きだった」今度はきちんと言葉になって、外の空気へと放り出された。だった、これ以上を言えない。嫌らしい意味など持ち合わせていない、純然たる思いだったのに「……そっか」名前は俺の精一杯の最後の抵抗への答えを冷たく閉ざしたまま出さなかった。名前は相変わらず背を向けたままだ。



人間とは、今までの経過を後悔するという生き物らしい。俺がもっともっと素直に、情事の最中に「好きだ」と囁けば状況は変わったのだろうか?例えば、俺がもっと子供のように、自身の感情を持て余しながら求め続ければ何かが変わったのだろうか?同じだったとしても少なくとも今より後悔は残らなかったんじゃないだろうか。俺たちを裂きに朝はもうじき明け、やってくるだろう。白々と、明るくなって玉虫色の色彩を作る。風がカーテンを揺らした。それが目に染みたのかやけに胸が苦しくなって背を向けられていることをいいことに、ばれない様に涙をそっと流した。見っともない、まさか、後悔しているだなんて微塵にも悟られたくなかったのだ。俺は薄いシーツを手繰り寄せた。



きっと下等な生き物なんだ。自分に素直になることもできずに制御して、結局何もかもが終わった後になってから後悔をするのだ。ゆっくり自分を殺めるように。タイムリミットが近くなる。名前が痛む体を労わるでもなく乱雑に起こして、俺を今日初めて、真っ直ぐに見つめた。今日はずっと俺を見てなんかくれなかった。赤くなっていて、それでいて少しだけ腫れぼったい瞼だった。俺は此処でようやく、何かを悟った。それから、俺の瞳に一度だけ涙を掬うような淡いキスを落として「泣き虫」とだけ言った。「あんたもな」また、俺は後悔を生むのだろうか。最初で最後の名前との行為は、甘い物ではなかった。ただ、俺はこの日を忘れないだろう。本当に言いたいことを最後まで胸に秘めたままに、また違う場所へ赴くだろう。ああ、確かに好きだったさ。言い訳はしない。



あとがき

龍崎だったのでノリノリで書きました。今は龍崎君がとっても私の中で熱いです。しかし、変にキャラが固定されつつあるので軌道修正を試みています;此度は、5万企画へのご参加有難うございました。楽しかったです。


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