避暑地




(・大人な雰囲気で星降)

やや不健全気味



夏の到来、涼しげな場所は大抵ガラの悪そうな誰かに占拠されていて居場所はなくなる。日影が恋しい。香宮夜も暑いのか長い髪の毛を一つに束ねて首元に微風を送った。「……暑い、溶ける」「そうだな。……、暑いな」ミンミン余命僅かの蝉が、元気に外で泣きわめいているのを聞き届けて、香宮夜が立ち上がった。「……俺、良い所知っている。人もいないし中々いいよ」「へぇ?そんな場所あるの?川付近?」天河原の校舎を結ぶ川は、涼しいので羽目を外した男子なんかがたまに水浴びをしているのを見かける(そして、大抵先生に怒られる)。あの辺は涼しいので、夏場は人気スポットになるのだ。ただ、冬は寒いため逆に人が居なくなる。「いや?校舎内。名前も来る?」「行く行く」是非、そんな場所があるのなら教えてほしいと、香宮夜に続いて立ち上がる。「じゃあ、行こうか」といつもの教室を後にした。



階段を上って二階に行く、旧校舎の廊下を歩きながら香宮夜に話しかけた。私の声に反応して、前を歩く香宮夜が振り返ると高い位置で結われていたポニーテールが、ふわりと揺れた。「ねぇ、何処へ行くの?」「内緒。俺の避暑地だからばらすなよ」この辺は、移動授業が無い限り来ないから、あまり地理を把握していない。香宮夜はある程度理解しているのか、サクサク進んでいく。それから、少し歩いて香宮夜が不意に立ち止まって制服のポケットに手を突っ込んだ。更にそのまま香宮夜を眺めていると、カシャカシャ金属音が聞こえて、銀色の鍵がポケットから出て来た。此処が香宮夜の避暑地なのかと上を見上げると、資料室と書いてあった。「……資料室?……此処にあったんだ」それすら知らなかった。「……天河原にだって、資料室あるけど?……第二資料室とかもある、けど、此処が一番涼しい」丁度陰になっていて、ひんやりしているし。と付け加えて、鍵を差し込みまわした。「さ、先にどうぞ」香宮夜に促されるままに、資料室に初めて足を踏み入れた。



確かにひんやりとしていて、涼しい空気が体に纏わりついた。教室でうだうだしているよりも、数倍は心地よい。少々、紙や埃のような独特のにおいがするけれどそれを除けば快適そのものだった。「涼しい」「でしょ」香宮夜が得意げに、ドアを閉めた。それから、役目を終えた鍵をポケットにまたおしこめた。「鍵、よく手に入ったね」「ん?女の先生に、貸してって頼んだら貸してもらった」コツは生意気そうにではなくこうやって、下手に大人しく従順にと再現してくれた。「……ああ、うん。成る程、確かに香宮夜の顔で下手で上眼遣いなんてされたらコロッと貸してくれるかもね」「喜多とかなら疑われないだろうけど、俺みたいなのは正攻法じゃ無理だから。真面目な先生に頼むと、まず耳のこれを外せって言われる」そういって耳に手をやってカフスに触れた。「そりゃ、そうでしょ。最初私、香宮夜の事怖い人だって思ったもん」「……全然怖くないのに、それ偏見」



「耳になんか付けているし、サッカー部の人は皆怖い人だって思っていたよ」偏見だったのは認めるし、実際に付き合ってみて香宮夜は怖いと言うよりもどちらかというとマイペースな人だという事が発覚したわけで。「……それ聞いたら喜多が一番傷つきそう。西野空と隼総は事実だけど。俺は心外」「香宮夜も事実だと思うけどな……」「見た目で判断しているだろ」あんまりいうと拗ねるから、って口を尖らせた。しかし、実際問題、香宮夜もサボったりすることが多くて申し訳ないとは思いつつも優等生だとは言えないはずだ。「ご、ごめん」でも、確かに偏見はよくないよなあと置かれていた段ボールの上に腰掛けた。ひんやりと冷たかった。香宮夜が私の様子を見て、少し屈んで唇を塞いだ。「っ、」声が漏れたが、人目も無かったので受け入れるように香宮夜に応えた。「涼しいのもあるけど、人目が無いっていう所が一番いい」そういって笑って、首筋にキスをした。ゾクゾク震えたのに気が付いたのか、前のボタンを少し外して胸元に今度は落とした。



なすがままに成っていたが、ふと時間が気になった。香宮夜は兎も角、私はサボったりはしないので早めに帰らなければならない。此処に来るまでに時間を少し潰してしまったし、旧校舎から教室への移動は少し時間を食う。「そろそろ授業始まりそうだから戻らないと」「……一緒にサボろう」ね、いいでしょって上眼遣いで私を見つめた。きっと先生にしたのと同じ手口だ。「いや」帰ると言おうとしたらまた、口をふさがれて唇を舐められた。「私、サボったことないよ」「サボり初体験だ、何でも経験経験。名前、真面目すぎ」それに、もうタイムオーバーだって唇の端を持ち上げた。香宮夜の後ろの方で鐘の鳴る音がした、校内に響き渡っている。私が慌てて香宮夜の体を押しのけてドアに駆けより、扉を勢いよく開けようとすると何故か開かなくて香宮夜の方へ振り返った。ドアが壊れたのか立てつけが悪かったのか、はたまた、私が見ていない間に何かをしたのだろうか(これが濃厚な線)。「……香宮夜?開かない、」香宮夜が私の肩を強く掴んだ。「残念だったね。断られても、元々此処に入った時点で俺は名前を帰すつもりは無かったから。大丈夫、ちゃんと鍵をかけてあるし、人なんか来ない」さあ、続きをしようか。そういって手を胸元に滑り込ませた。すっかりそういう気らしい香宮夜が扇情的な顔を覗かせた。やっぱり、怖くはないけれど香宮夜は優等生なんかとは程遠い。悔しくなったので、香宮夜の少し汗ばんだ白い首筋に噛みついた。




あとがき

大人の雰囲気…意識して書くとボロボロになりました。実の所普段、特に傾向や何かを意識して書くことがあまりなかったりします。;気の向くままに思いついたことばかりを書いているので;大人の雰囲気との事なのでやや不健全気味にしました。明星様、企画へのご参加有難うございました。


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