退路は無い




(・滝総介にアタックされておろおろする大人しい夢主)


あんなに大人しくて、目立たないようにと日々心がけていたし、どちらかというとクラスの中でも地味だと思っている。が、どうも此処最近、滝君に目を付けられたらしい(弟君たち曰く、気に入られたとの事で別の意味で困った)。よく話しかけてくるし、よく行動を共にする。私は滝君が少し苦手だった。よく慣れない言葉をかけてくるし、私を戸惑わせてくる。それに私と彼の性格は天と地ほどに差があって、滝君はどちらかというとアクティブに動き回っているし、言葉遣いもやや乱暴で丁寧さには欠ける。スポーツもやっているというのだから、接点を探せ!と言うほうが難しいのである。だから、なんでこうなったのかがわからないのだ。「よぉ、名前」ビクッ!と肩を大げさな程にびくつかせて、本をテーブルに置いた。見上げると滝君が居て私は間合いを取った。



「挨拶しただけだろうが。なんだ、この距離は。本当に照れ屋だな」やや、この距離に対して不機嫌そうに、鋭い瞳を細め距離を縮めて、もう逃げないようにと柔らかく腕を掴んだ。「え、いや、その」言葉にならない言葉を作りながら、慌てて謝罪して怒りを沈めてもらおうと考えたが、先に発言されて掻き消された。「おう、それより返事はまだか?」「お、お返事ですか?」何のことでしょう、まさか例のあれの事でしょうか。一か月程前に聞いた、答えに酷く困る例のあれでしょうか。思えば、あれから滝君は執拗に私の元を訪ねてくる。ただ、からかっているだけなんでしょうか。それはそれで何て返せばいいのかわかりませんけど。「返事つったら、あれしかねーだろ?」顔をわざと近づけてきて、早く答えてくんねーと困るんだけど、俺もそんなに長く待ってやらねーぞ。と脅しかけた。思わず叫びたくなったのだが、此処は図書室だということを、脳が訴えかけてきて敵わなかった。その代りオロオロと滝君から目を背けて周りに助けを求めるという行為に、転じたのだ。どちらかというと内向気味な方が多いのか、さささっと音もなく逃げて行ってしまった。実際自分だって同じ立場なら、助けられないと思うのに薄情だと涙を溜めた。



「た、たきくん、ごめん、なさ」取り敢えず腕を離して、距離を取ってください、心臓が痛いです。男の子にこういうことされたことないんで慣れていないんです。頭の中では沢山言いたいことがあるのにもかかわらず、いざ言葉にしようとすると掠れたものに変わる。「俺の言ったこと忘れのか?」「いえ、その」逃げても無駄だ、耳を塞ごうか、そう思った矢先に片方の手は持っていかれていたと思い出した。「名前が好きだ」瞬間的に意識をシャットダウンしようともしたが、間に合わなかった。何度か滝君自身から聞いた言葉だった。「っ、あ、あの」私の何処が、「すぐ、真っ赤になるなお前。鏡で見せてやろうか」クツクツ、愉快だと笑い声が零れた。「いえ、け、結構です」「その顔が一番好きだ」そそられるって、色気を含んだ黒い眼差し。人気のなかった図書室の扉が乱暴に開いた。「ちっ、」舌打ちをしてあからさまな敵意と共に扉に目を向ける。誰かがこちらに駆け寄ってきた。



誰かを確認する間もなく助かった、と胸をなでおろした。声が聞こえる、私よりも小さな位置からハキハキと元気そうな声だ。「兄さん!また、苗字先輩を困らせている!絶対に此処に居ると思った!やめろよ!」兄さん、それは滝君をさしているようで。滝君は思い切り顔を顰めて、下を向いた。「なんだよ、人の恋路を邪魔するなよ。あっちへ行って絵本でも読んでいろ」しっしっと邪険に弟である快彦君を追い払おうとする仕草を見せた。絵本なんて流石にないと思うんですが。怯むでもなく対抗するように、下から快彦君が睨みつけた。「兄さんは苗字先輩が困っているのわからないのか?!」苗字という人名に反応をして、私を見つめた。真剣な眼差しにはいつもドギマギしてしまう。「…………困ってねーじゃん」「困っているよ!兄さんのせいで!」兄弟だというのにも関わらず、随分と滝君を責めるような勢いのある喋り方だった。



滝君兄弟が、言い争い始める。私は蚊帳の外で、放り出されたままだ。果たして決着はつくのだろうかとかオロオロしながら、宥める言葉を掛ける。ただ二人とも言い争うと大体、聞いてくれない。困った、応援が必要かと思い誰かを呼びに行こうとしたときに滝君に引き留められた。「待てよ!名前は、……俺が迷惑、なのか?そんなわけないよな」いつもは自信と余裕に満ちている黒い瞳が今日は、別の物を含んだものになっていた。そんなわけない、の箇所も自分を言い聞かせるようなニュアンスだった。それがやけに胸に蟠って晴れなかった。「迷惑ですよね?!もう、この際です。言って兄さんの目を覚ましてください」下から、私のスカートの裾をちょんちょんと引っ張って、滝君に示すように言われた。きっと誤魔化したりはぐらかしても無駄なのだ。この状況を憂いたくもなるけれど、滝君兄弟に挟まれていてそうもいかない。身動きが取れないとはまさにこの状況を指し示すのだろうと思った。



私は滝君を嫌だと思っているのだろうか、孤独な自答自問の渦の中。滝君の先ほどの瞳を思い出した。いつものように本気か偽りかを見抜けないような愛をささやかれるのも困るけれど……私は滝君にあんな顔をしてほしくない。「え、……っと、わたし、そ、その……い、嫌じゃ、無いです」今日ほど勇気を振り絞った日は無かったかもしれない。滝君は兄弟そろってポカンと情けない程に口を開けたまま私を凝視していた。互いに口を利かなかったがやがて、滝君が興奮し勝ち誇ったようにガッツポーズを取った。「ほら見ろ!嫌じゃ無いとさ!両想いじゃないか!名前大好きだ!」話が飛躍した。私は、滝君のあれには答えを返していないし、慣れたつもりはない。できれば頻度は抑えてほしいと思っている。取り敢えず小さな快彦君に縋るように後ろに隠れた。また、滝君が騒がしくなった。




あとがき

滝君は書いたことが無かったのですが、アタックされてオロオロとの事なんで若干押せ押せ!という感じで書いたんですが、崩壊している気がしますね。;滝君と言えば、弟君もセットみたいな勝手なイメージにより、弟君も出しました。梅津様、企画への参加有難うございました。


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