こうこうせい!




(・高校生の夜桜君とキス)


青春の一ページになりえるだろう、高校生活初日の帰り道。本来ならばもっと、穏やかで和やかに過ぎていくだろうときは、まだ、慣れない帰り道を一緒に辿る男によって破壊された。
「どういうこと」
呟いた自分の声は随分と、遠くから聞こえてくるような錯覚がした。目の前の夜桜はニコニコ笑っている。いつもの、高笑いとは違う。何も答えない、夜桜に対してもう一度「どういうこと?」と先ほどよりも強い口調で詰問するように詰め寄ると、夜桜が真っ赤な口を覗かせて「あはっ、名前と同じ高校に来ただけ〜」と言った。いや、そんなのは、見ればわかるから!私がこれから通う高校の男子の制服を着ていれば、誰だってわかる。大体、私の疑問はそこにあるわけではない。


「なんで同じ高校に来たのよ……」
「え〜?だって、名前が中学の時いっただろ?ここの高校受験する、って」
相変わらずの笑顔を振りまく。納得はしていないし、ちゃんとした説明がない限り私はこいつを受け入れられそうにもない。ここに来る、なんて一言も言っていなかったじゃないか。というか、同じクラスってどういうこと?何かの陰謀としか思えない。まさか、夜桜のやつ私と同じクラスにしろ、とか喚いたんじゃないだろうな。疑いの眼差しを、中学の頃よりも大きくなった夜桜に向けた。


「見つめるなよ、照れるだろォ!」
……もういいや、面倒くさい……「誤解だ」と弁解するの。夜桜は私の言いたいことがわかっているのか、表情を崩さない。
「……光良君はもっといいところ行けたんじゃないの?……サッカーやっていたんだし。色々優遇してもらえただろうに」
本当…光良君は、行動も意味不明だね。と付け足すと、僅かに表情を強張らせた。
「そういえば、別の所に、推薦してくれるって先生言っていた気がするな。でも、興味ないからやーめた。あははっ!」
……推薦を断った?!マジキチ疑惑が度々かけられていたが、此処までとは……。もったいなすぎる。夜桜のことだ、きっと此処よりもっと上に行けたはずだ。
「なんで今日一日ずっと、光良君って呼ぶの?いつものように名前で呼べよ」
「……いやだ」


「あ?もしかして、怒っているから?ふふ、あははっ!」
「当然。なんで、私に黙っていたのよ」
「あははっ!名前をびっくりさせようと思って!」
なんと、びっくり。私をびっくりさせたいがためだけに黙って来たのか。確かに私を驚かせる……という意味では成功だ。大成功だろう。……唖然とするほどにあまりにも、くだらなさすぎるが。
「まあ、それもあるんだけどな……名前の浮気防止と、名前と同じところに行きたかったから来た!」
「あんたねぇ……。私に合わせて後悔する日が来たらどうするのよ……」
「後悔していないから、へーき!」
思わずその答えに呆れながらも、夜桜を可愛く思ってしまった自分がいた。


「名前、もしかして名前は嫌だった?俺、俺……」
夜桜の瞳が不安に揺れて、急に不安定になった。こういうところ、中学の時から本当変わらない。ヒステリーを起こしたり、攻撃的になったり、感傷的になったり、笑い出したり、泣きだしたり。コロコロ表情を変える。ただ一つ言えることと言えば、夜桜は不安定だ。バランスがすぐに崩壊する。
「……夜桜……」
「あはっ!名前呼んでくれたぁ!あはははははっ!」
……心配に思って名前を呼んだ瞬間笑い出した。不安定を超越している。というか、今のは騙された気がしてならない。確信犯のような気がする。
「……そうだぁ!ね、キスしてよ!」
「今?ここで?」
きょろきょろとあたりを少しだけ見渡す。ここは通りのど真ん中。夜桜は気にもせずに「あはははっ、大丈夫、大丈夫」と言って、私の手を引いて、路地の暗がりへ連れ込む。


「はい、これでオッケー。あはっ、俺を不安がらせた罰だ。名前からしろよ」
ケラケラ笑って、私からするように言った。
「えええ……。よ、夜桜ぁ……」
許しを請うように、ちょこっと見上げれば夜桜が目を細めて見下ろした。無慈悲にも再度「あははっ、だーめっ!名前からじゃなきゃ許さない」と言った。こ、これは腹をくくらなければならないようだ。私は覚悟を固めて「じゃ、じゃあ、目を瞑ってよ」と、戸惑いながら言った。夜桜は素直に「わかった」と言って瞼を閉じた。し、仕方ない……やるしかない……って、届かない!


「夜桜!屈んで!届かない!」
私の声が届いたのか、夜桜が一度だけ瞼をあける。それから、私の姿を確認して「ああ……」と納得した様に一度だけ、頷いて少しだけ屈んで再度目を閉じた。はあ、と溜息をついた後に、夜桜の唇に一度触れる程度のキスをした。数秒程度のそれが終わると夜桜が目を開けて不満げに口をあけた。
「あはっ!それ、キスじゃない。俺がいつもしているようなのは出来ないの?」
冷たい手のひらが私の、顔を固定した。外でそんなこと出来るわけないじゃない。と抗議するよりも先に口をふさがれて、ねっとりと絡みつくようなキスをされた。




あとがき

思えば、高校生などの設定…近未来のことは書いたことが無かったと書いていて、気が付きました。高校生…いいですね…!夜桜がついてきたら可愛いなぁ…と思って書きましたが、少し不安定になってしまいました。三郷様有難うございました。


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