泣き虫彼氏の泣き止ませ方




(・泣き虫神童が甘える)

私の彼氏、神童拓人はとても泣き虫だ。本人は割と否定しているのだけど、事実なのだから、否定したところで覆せるわけがない。現に今も何が悲しいのか知らないけれど涙を浮かべている。この光景を見た数は……両手で数えきれないくらいだ。拓人に今日はなんで泣いているの?と聞けば拓人は緩やかにウェーブのかかった髪の毛を少しだけふり乱した。
「泣いていない」
「じゃあ、その涙はなんなの……?」


ぷにぷにと弾力のある柔らかい頬を人差し指で突きながら、指摘した涙を拭う。ぐすっ、と涙が零れないように上を向いて、私の手を大きな手のひらで覆いながらすり寄る。拓人の手は綺麗で、細くて長い。たまに手のひらを合わせて大きさを比べたりもするのだが、敵うことが無い。私はこの繊細で少し大きめな私の手のひらを包んでくれる手が大好きだ。
「涙は零れていない」
「零れていなくても、泣きそうじゃない」
一応零れない程度に留めてあり、堪えているようだが、泣きそうなのには変わりがない。ソファーに座っていた私に対して体を倒して甘えるように頭をおなか辺りに押し付けた。腕を巻きつけて項垂れている。拓人はいつも、なんだかんだで私に触れてくる。拓人曰く「名前に触れていると安心する」とのことだ。
「……よしよし」
幼い子にやるようになでなでしてあげると、拓人が嬉しそうに目を細めた。可愛いなぁ、と声には出さずに泣き虫を慰める。前に「拓人、可愛い」と言ったら怒られた。それからは、心の中だけで、言うことにしている。……因みに、拓人の場合は怒るというより半泣きになる。非常に面倒くさいことに発展する。できれば避けて通りたい道である。



「今日は何があったの……?ほら、話してごらん」
話すように促しながら背中を優しく、擦ってあげると少しだけ目を赤くした拓人が私を見上げてくる。もうごまかす気はないのか、涙が蛍光灯の光に反射した。
「……名前が……」
「えっ、私が原因なの?!」
まさかの原因は私という……予想外だった。拓人が涙目で私の名前を出すのは初めてじゃないけど……今回は別に誰かと沢山会話した〜とかそういうことはなかったから、本当に全然わからなくて戸惑うばかりだった。拓人のつむじあたりを見下ろす。なんだか、おなかのあたりが湿っぽい。拓人の涙がしみ込んだんだ……と予測するのは簡単だった。



「……だって、名前が学校の中ではあまり話しかけてくるな……って……。グスッ」
……あー……思い出した。そういえば今日、友達に拓人とのことを「名前〜、神童君といちゃいちゃしたり私たちの前で惚気たりするならあっち行ってよね〜。熱苦しいよ!ラブラブなのはよおーくわかったからさぁ!」などと茶化されてそれに近いこと言った気がする。気じゃない、言った……だ。日本語は正しく使おうね!でも、少しだけ言い訳させてほしい正確には「お願いだから学校で、抱き着いたりするのはやめて」と言っただけであって、近寄るな、とか話しかけるなとは言っていない。あの時の拓人はしょんぼりした様だったが、なんとなく理解してくれていたような雰囲気があったので、私の羞恥心を理解してくれたんだ……と思っていたんだが、そうではなかったらしい。動かしていた手の動きを止めた。


「……理由は話したじゃない。あと、話しかけるなとは言ってないでしょ?少し抑えてって言っただけで……」
言い訳のように拓人に言い聞かせるように諭す。話が飛躍しすぎているのだ。先ほども言ったが話しかけるな、なんて断じて言っていない。そんな酷いことを拓人に言えるわけがない。寧ろ人の見ていない前だったら、拓人に甘えられるのは好きだし。ただ、所構わず甘えてくるのがいけないんだ。友達の前とかでも平気でやってくるからいけないんだ。恥ずかしいったらありゃしない。そりゃもう、蒸発したくなるくらい恥ずかしい。多分、湯気が出ているよ。恥ずかしさのあまり。


「……人前じゃないなら私だって拓人とずっと、こうして居たいよ」
「本当か……?俺が嫌になったとか、じゃなくて……?」
疑うように私を訝しげに見つめる。私は本音を言っただけなのに、疑ってかかられる。安心させるために頷いてよしよし、と撫でる作業を再開する。いいシャンプーでも使っているんだろうなぁ、と思えるようないい匂いがするしなんか、柔らかい。
「……まさか、拓人が好きなのに?」
「じゃ……じゃあ……今は誰もいないから……いいんだよな?その、……こうしていても」
私の顔色を窺うように覗き込む。力は一切緩まない。要約すると、甘えたいということらしい。目じりにたまっていた涙は蒸発したのか、枯れて乾いていた。
「本当は、ずっとこうしていたいんだ」


流石に今の台詞は恥ずかしかったのか、私の胸に顔を埋めてしまって見えなくなってしまった拓人をギュ、と抱きしめ返す。耳が真っ赤だよ、と囁いて笑うと泣き声の変わりに腕の力が強くなった。


あとがき

泣き虫な神童君可愛いと思います。シチュ見たとき思わずテンションあがってしまいました。女々しくなっちゃいましたけど…ご希望に添えられていないようでしたらすみません。華威様リクエスト有難うございました!


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