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向日葵


神流姉さんが相澤と付き合った。

今まで姉さんに告白してきたやつは悉く私が振ってやった。呼び出ししてきた男の元に入れ替わった私がいく。大抵の男は私と姉さんの区別がつかなくて、それをバカにしながら振ってやるのだ。私たちの区別がつかないやつに姉さんはもったいない。私にきた告白も姉さんが同様に振っていた。私は姉さんが大好きだし、姉さんも私のことをとても大切にしてくれている。区別がつかないやつらは、私たち個人ではなく見た目しか見ていない。どちらでもいいのだ。それが許せなかった。

私の個性は相手の心の声すら聞こえてしまう超聴力。相澤が姉さんのことを好きなことは知っていた。姉さんは私よりも個性の制御が苦手で知らなかったみたいだが。しかし相澤に私たちの区別がつくなんて思ってなくて、他のやつらと同様に振ってやろうと思っていた。だが、呼び出し先に行った瞬間に私が妹であると気づかれる。

「……樋口妹だろ、姉の方は?」

「わかるの?」

「当たり前だろ、俺はあいつが好きなんだから」

そう言える相澤を格好いいと思った。隠れていた姉さんが顔を真っ赤にして私たちの前に姿を現す。相澤は姉さんが隠れていたとは思っていなかったらしく、少し照れて頬を掻いた。姉さんに向き合うと口を開く。

「あー、改めて、お前が好きだ。俺と付き合ってくれ」

「…っ!私で、よければ」

至極嬉しそうな顔の姉さんは、元から相澤のことが好きだったらしい。家に帰ってからそう嬉しそうに話した姉さんは可愛かった。なぜらしいなのかといえば、私たち双子はお互いの心の声は聞こえない。たった二人の姉妹なのに。話がずれた。こうして相澤と姉さんが付き合うことになったわけだ。

どうしてこんな話をしたかといえば、片割れが奪われた寂しさを感じていた私の隣に腰掛ける男のせいだ。同じクラスの山田ひざし。こいつも姉さんのことが好きだった男の一人で、相澤の自称親友だった。山田は親友として、笑顔で相澤のことを祝福していたが本心はどうなのだろうか。ぼんやりと、一緒にいる相澤と姉さんを眺めている男の心の声に耳を傾ける。

『消太なら仕方ないかぁ』

普段喧しい男の心の中は思っていたよりも静かで、そしてさっぱりとしたものだった。それは本当に姉さんが好きだったのかすら疑うほどで、拍子抜けだ。だからなのか、つい私は口にしてしまった。

「ねえ、山田。私じゃだめ?」

キョトンとこちらを見た山田は、なんのことかわかってないようだ。「声聴いちゃった」といえば、困ったように笑う。

「……お前は樋口だけど、樋口じゃないだろ?」

「姉さんの代わりにはならない?」

「なりてえの?」

『代わりになんてならねぇけど』

聞こえてきた心の声に目を瞑る。彼も相澤と同じなのか。そう思ったら、いつの間にか言葉が溢れていた。

「山田の隣にいたい」

「……」

テンポよく交わしていた言葉が途切れる。声を聞かないようにして、次の言葉を静かに待つ。

「……俺は、樋口の姉が好き。樋口をあいつの代わりには見れない」

「そっか」

「けど」

「けど?」

「樋口が俺の隣にいたいって言ってくれたから、その気持ちを無下にしたいとも思えない。……だから、俺に樋口を知るための時間、くれない?」

俺、あいつのことしか見てなかったから。そう笑う山田に心の中で知ってたよと答えて、できる限りの笑みを一つ。

「よろしくお願いします」

「…うん」

山田に静けさは似合わない。どうか笑って。


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