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最後の夜に

「銀時、いる?」

深夜、襖越しにか細い声が響く。布団の上でぼんやりと蝋燭の灯りを眺めていた銀時は、声の主を思い浮かべ、腕を伸ばして襖を開けた。

「おう、入れよ」

神流は胸を撫で下ろし、音をたてないように銀時の隣に腰を下ろす。いつもと違う緊張した面持ちに銀時は首をかしげた。

「……明日だね」

聞き逃してしまいそうな程小さな声に、銀時は納得の表情を浮かべる。明日から銀時たちは攘夷戦争へ参加する。師を取り戻すという大きな目標を掲げて、戦に赴くのだ。待つことしかできない女の神流は不安なのだろう。銀時はそっと神流の頭を撫でた。

「そんなに心配すんなよ」

神流は頷くと、着物の裾を掴み上目遣いに銀時を見つめる。

「今日、一緒に寝てもいい?」

所謂添い寝を願う神流に、昔はよくしていたなと思い出す。最後に一緒に寝たのはいつだったか。すでに思い出せないほど前で、銀時は懐かしさよりも新鮮さを覚えた。

「ん、いいぞ」

神流は頬を緩めるといそいそと布団に潜り込む。銀時も蝋燭の灯りを吹き消すと、それに合わせて布団に潜り込んだ。大人用の布団と言えど、既に成人を越える二人が並んで寝るには少し狭い。二人は抱き合うと、示し会わせたようにクスリと笑った。

「狭いね」

「そうだな」

お互いだけにしか聞こえない小さな声で、些細でつまらない言葉を交わす。どこかこの世にはお互いしかいない感覚に囚われた。

「神流」

きっかけはなんだったのか。掠れた声が銀時から漏れる。神流が顔を上げると、掠めるような口付けが落とされた。銀時、という呼び声はそのまま食われ、二度三度と口付けを繰り返す。次第に深くなる口付けに、神流の目はとろんと蕩けた。荒い呼吸の神流を尻目に、上に跨がり寝間着の帯に手をかける。片手で帯を抜き取ると、神流の裸体を露にさせた。

「あ、ぎんとき……?」

襖越しに淡く照らす月明かりで、銀時の瞳が紅く揺れる。捕食者の輝きをもって裸体を映す硝子玉に、神流は感嘆の息を漏らした。銀時は骨ばった指を裸体に這わす。つつ、と曲線をなぞれば、ぴくりと肩が震え、銀時は愛しげに眼を細めた。銀時は胸に手を宛がうと、柔らかさを堪能するように指を動かす。

「ん、あ、あっ……」

「かぁわいい」

次第に甲高い声に変わる吐息に、銀時は満足そうに笑った。目尻を紅く染め、潤んだ瞳で銀時を見つめる神流に口付ける。くちゅりと唾液を絡ませながら口内をまさぐれば、離れた時に銀の糸をひいた。さらに口付けながらも銀時は空いた手を下へと伸ばし、唯一下着で隠れている割れ目へと指を滑り込ませる。既にしっとりと湿り気を帯びたそこに指を一本突き立てた。

「アッ」

初めての異物感に神流は痛ましげな声を上げる。くにくにと中を行き来する指に、眉を寄せながら銀時を仰ぎ見た。

「痛い?」

「い、たくはないけど……んんっ、変な感じ……」

くねくねと身体を捩らす神流に中に埋めた指を増やす。親指の腹では隠れた芽に触れ、押し転がすように動かした。ぴくぴく身体を跳ねさせる神流に笑みを浮かべる。バラバラに動く指がいいところに触れたのか、神流は一際甲高い声を上げた。

「んー、ここか?」

「あっ、や、ぎん、やめっ……!」

銀時の指が執拗に同じ箇所を刺激して、神流はひっきりなしに声を上げる。銀時は意地悪な笑みを浮かべると、神流の耳元に顔を寄せた。

「そんなデケえ声出すと他のやつが起きて来ちまうぞ?」

神流は思わず口を抑える。銀時はわざとらしくため息を吐くと、口を押さえた手を掴み上げた。

「それは、ダメ」

「ン、あ、い、いじわるっ」

諭すように声をかける銀時に、涙を浮かべながら睨み付ける。銀時はそれをさらりとかわすと、指を引き抜いた。一瞬の刺激に身体を震わせながらも、漸く止んだ快感にホッと息を吐く。しかし銀時には休ませるつもりなど毛頭なく、いきり立つ肉棒を蜜に濡れた割れ目へと宛がった。指についたぬらりと艶めく蜜を舐めとりながら腰を進める。神流は今まで以上の圧迫感に息を詰めた。

「ひっ、あ、ぎん、いたい、よぉ」

「もうちょい我慢して、な」

ゆっくりと肉棒を押し入れながら、神流に口付ける。すべての意識がこちらに行くように繰り返し繰り返し唇を重ね、舌を絡ませた。銀時から絡ませていた舌は、次第に神流からもねだるように伸ばされる。それに応えているうちに、肉棒は根元まで埋まりきった。銀時は名残惜しげに唇を離し、腰を揺する。

「入った」

「嘘だぁ」

ほら、と少し腰を上げればちらりと結合部が視界に写った。神流は夢現にそれを眺めると、もう一度嘘だと声を上げる。

「嘘じゃねえよ」

細い括れに手を添え浅く腰を動かしてやれば、トンと奥を突く衝撃に神流の喉が跳ねた。甘い声が銀時の鼓膜を揺らす。

「ん、ん、あ、ぎんとき、ぎんとき」

銀時を求めるように腕に手を這わす神流を抱き締めてやれば、背中に腕を回し安心したように目尻を下げた。銀時はつんと胸が痛むのを感じながら神流を強く抱き締める。

「神流、神流」

「ぎんとき……?」

「好きだ、神流、好き」

「ふふ、私も、ンッ、すき、だよ」

神流は銀時の背中に回した腕に力を込めると、すき、と繰り返した。甘い響きは水音と混ざり、掻き消える。

「あ、ぎんとき、も、むりッ……!」

「ッ、俺も」

ストロークを速めると、強く腰を打ち付けた。銀時は息を詰め、神流は一際甲高い声を上げる。口付けで声を飲み込めば、残るのは荒い息だけだった。

「は、ぁ……」

欲を吐き出した肉棒を引き抜き、必死に酸素を取り込む神流の身体を清めていく。ドロドロとした白濁液は今の自分のようで気持ち悪かった。眉間にシワを寄せる銀時に、神流は首を傾げる。

「……銀時?」

神流が呼ぶ名前は未だ甘い響きを持っていて、銀時は思考を振り払うように着物を直した。

「何でもねえよ。もう寝ろ」

「……うん。銀時も一緒寝よ?」

素直に頷く神流の頭を撫で布団に潜り込む。再び抱き締めてやればすぐに神流は寝息をたて始めた。銀時はそれに苦笑を溢すと、そっと額に口付ける。

「最低な男でごめんな」

銀時の呟きは闇に溶けた。


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