Short | ナノ

金平牛蒡

なんで俺までこんなところに。

マルコは人知れず頭を抱えながら、遊郭の受付に立っていた。無理矢理彼を連れてきたサッチは既に部屋の中。帰ってもいいが、後を考えると待っていた方が面倒がない。かといって遊郭に興味があるわけではなかったマルコは時間をもて余していた。なにか暇を潰せる場所があればいいのだが、遊郭で売っているモノがモノなだけに一人で暇を潰せるような物はない。とりあえず辺りをみて回るかと歩きだす。大きな遊郭以外には、これまた遊女と遊びにはいるような施設が点在していた。

どうするかねぃ。

心の中で呟きながらぼんやりと歩を進める。自分以外の人といえば、厚い着物を着込んだ女を侍らせている野郎だけだ。陰鬱とした気持ちを抱えながら、マルコは一つのお店を見つけた。

「女郎喫茶、ねぇ」

女郎と言いながらも、お茶を飲みながら女と話すだけの喫茶店であるらしい。これくらいなら別の構わないかと、マルコは暖簾をくぐった。

「いらっしゃい」

遊郭の女と同じ着物を纏った、20代くらいの女が顔を出す。カウンター席へ案内され、椅子へ腰掛けたが、どうやら客は自分だけらしい。そっと差し出されるメニューを眺めれば、やはりそれなりのお値段が並んでいる。しかし、普通に女を買うよりはよっぽど値段はせず、まあいいかと妥協した。

「女郎喫茶って書いてあったけどよい、ここは遊郭とはまた別なのかい?」

適当に飲み物を頼みつつ、1人しかいない店員に話しかける。女はマルコの言葉に苦笑しながらグラスを取り出した。

「ここはあの大きな遊郭の子供みたいなものでね。あそこの遊女が持ち回り制で商いをしているんだ。遊郭で遊ぶのはっていう人や、あんたみたいな暇つぶしの人とかがたまに来るよ」

「へぇ、あんたはよくここにいるのかい?」

「たまにだよ。私にも客はいるしねぇ」

女はクスクスと笑うと、飲み物がなみなみと注がれたグラスを差し出した。グラスを置くと奥へ戻り、鮮やかな装飾の小鉢を片手に戻ってくる。

「これ、サービスね。秘密だよ?」

小鉢にはごま油が香ばしい香りを放つ金平牛蒡が鎮座していた。

「これ、あんたが作ったのかよい?」

「そうだよ。基本その日の店番のお手製さ」

マルコはへぇと感嘆のつぶやきを漏らす。黄金色に輝くごぼうと人参はシンプルながらもしっかり味がしみていそうだ。割り箸を割って金平牛蒡をそっと口に運ぶ。ぱらりとかけられたごまが口の中で弾け、香りを増長させた。味は丁度良い塩味と優しい甘み。お酒が進みそうだ。

「うまいね」

「そりゃよかった」

たわいない言葉を交わしながら箸を進める。時折飲み物も煽り、満足げだ。小鉢を開けると残っていた飲み物を一気に流し込む。グラスを置いて時計を見ればそろそろ時間だ。思っていたより長居していたらしい。マルコは適当にお金を出すと、女に差し出した。

「ごちそうさま」

またおいでの言葉にひらひらと手を振って答えをごまかす。マルコは海賊だ。いつまたがあるかはわからない。さて、サッチを迎えに行かなくてはと街に溶け込んだ。



BACK/HOME
- ナノ -