熱に浮かされて ※夢主≠望月ちゃん カタカタとキーボードをたたく音が聞こえる中、膨大な量の書類を整理する。 音の先を盗み見れば、険しい顔でPCと見つめ合う幼馴染の姿。 こいつはいつか倒れるのじゃないかと思った矢先、それは起きた。 「樋口」 「はい、どうしましたか?」 幼馴染――朝霧仁に呼ばれ振り向けば、彼は少しふらふらとしている。 途中の書類を置き、思わず駆け寄って彼を支えた。 「ちょ、どうしたの!?」 公私を分ける仁にあわせ、仕事中は敬語に朝霧さんと呼んでいたのが思わず崩れる。 よくよく見れば頬はほんのり紅くなり、肩で息をしていた。 急いで椅子に座らせ、体温計で熱を測らせる。 電子音を合図に確認すれば、38度9分とどう考えても熱が高い。 どうして仁は平然と仕事を出来ていたのか甚だ疑問だ。 「仁、大丈夫?立てる?」 「…しごと…が、」 「私にできる事はやっておくから大人しく寝て」 「っ、悪い…」 ここまで酷いのも珍しい。 仁を支えながら、仮眠が取れる場所へと導いていく。 その間にも息は荒いし、彼の熱が 伝わってきて不安になる。 市販の風邪薬を飲ませ、簡易ベッドに寝かせれば、仁は少し落ち着いた。 最後に水で濡らしたタオルをおでこにのせ、取り合えず仕事を終わらせようとその場をたつ。 静かに寝てはいるがやはりまだ息が荒いので、早めに仕事を終わらせようと必死に手を動かした。 ♂♀ 仁の確認が必要なもの以外を終わらせると、既に4時間立っていた。 仕事の量にしては早く終わった方だと一息つき、早々に仁の元へ向かう。 扉を開ける音の反応したのか、仁がうっすらと目を開ける。 「…起こしちゃった?」 「…神流、か?」 枕元に腰をおろし、仁の顔を覗き見る。 まだ頬は紅いが、それでも先ほどよりも具合は良さそうに見えた。 「…すまなかったな、仕事」 「大丈夫だよ、仁は早く体調を万全にしてね」 出来る限り笑顔で、仁が安心安心できるような声音を意識する。 ゆっくり休んでね、と席を立とうとすれば、やんわりと手を掴まれた。 「…待て、行くな」 「どうしたの…っ!?」 やんわりと掴まれていた手をそのまま引っ張られ、布団の中へと引きずり込まれる。 いきなりの事に動揺して動けずにいると、強く抱きしめられた。 「寒い、ここにいろ」 それだけ呟くと、仁はまた眠ってしまう。 私のちっぽけな心臓は、ドキドキと脈打った。 「…ばか、すきだよ」 私の気も知らないでと悪態を飲み込んで、そっと目を閉じる。 こうすることで、仁が早く治るなら良いなと抱きついた。 「…知ってる」 いつの間にか眠りについていた私に、優しく微笑んだ仁の呟きは聞こえなかった。 貴方が微笑む夢を見た。 ←→ BACK/HOME |