好きと嫉妬と はあ、折角今日は二人きりだったのにな。 何でこんなに察しが悪いんだろう。 「なあ神流、ひよりどこにいるか知らねえ?」 ひよりちゃんは私たちに気を使って雪音君と買い物に行ったよ。 聞いてなかったのかな。 「もう、知りません!」 彼女は私なのに、夜トはひよりちゃんが良いのかな。 「夜トのバーカ!!」 「は、ちょ、神流!?」 気付いたら、夜トの元を飛び出していた。 自分でも少し短気すぎるとは思ったけれど、折角二人でいるのに夜トったらひよりひよりまるで親を呼ぶ小鳥のよう。 それは私だって、夜トとひよりちゃんの出会いは知っているし、特別気にかけていることだって知っている。 それにしても、もう少しこちらを見てくれたって良いのではないだろうか。 「仮にも彼女なのに…」 呟いた言葉は誰にも届くことなく消えていく。 「…自分で言ってて悲しくなってきた」 空を見上げれば、まるで私の心を表すかのようにどんよりと曇り空。 まるで雨でも降って来そうな天気に、一層私の気持ちは落ち込んだ。 「なんであんなのが好きなのかなー」 自分で呟いた言葉を反芻する。 思い出されるのは、頼りないように見えても私たちを心配してくれて、必死に救ってくれた夜トの姿。 「…心から人を想える夜トだから、きっと私は好きになったんだろうな」 はたと歩みを止め、思わず頭を横に振った。 「何言ってるんだろう、恥ずかしい」 幸い辺りには誰もおらず、安心して息を吐く。 なんだか自分が馬鹿みたいに思え、やはり夜トの元へと帰ろうと振り向いた時だった。 「あら、あなた神流さん?」 「えっ…?」 声のする方へと視線を向ければ、昔夜トの神器であった野良がこちらを見つめていた。 笑顔を張り付けたまま、座っていた塀からトンと降りる。 思わず一歩後ずされば、野良はそれを追うように一歩踏み出した。 「馬鹿な人…あなた一人じゃ戦えないくせに、自分から一人になるなんて」 言うが早いか、野良は攻撃を仕掛けてくる。 彼女の言うとおり一人では殆ど力なんか使えない訳で、必死に逃げ回る。 元々が狭い道であったことも手伝い、逃げ場がどんどん失われていく。 「っ!!」 足元の砂利に躓き、体制を崩した。 戦いの中で、そんな一瞬の隙は命取りで、野良の攻撃が目前に迫る。 「…あは、立てないや」 そのまま倒れこんでしまった私は、野良の攻撃が自分に当たるのを待つしかなかった。 「夜トと喧嘩別れなんてやだな…」 「誰が別れるって?」 「…え?」 声と同時に、ふわっと体が浮き上がる。 声の主を見上げれば、ライトブルーの瞳と視線が交差した。 「…夜ト?」 「おう…大丈夫か?」 臨戦態勢を取りつつも、心配そうな表情で覗き込んでくる夜トに、思わず涙腺が緩む。 「あーあ、夜トが来ちゃった。それじゃあまたね、神流さん」 野良は夜トがいては勝ち目が無いと考えたのか、攻撃をやめ早々に立ち去った。 それに安心してしまい、緩んだ涙腺は簡単に決壊する。 「ちょ、泣くなよ!?」 夜トは少し慌てながらも目尻の涙を拭ってくれる。 私は年甲斐もなく夜トに縋りつき、暫し涙を流した。 ♂♀ 「それで、なんで急に出て行ったんだよ?」 そのまま泣き続けた私が落ち着いたのを見計らい、夜トが尋ねてくる。 自分の中で整理が済んだ内容ではあるが、嫉妬したからなんて言い辛い。 そのまま黙っていれば、夜トはニヤリと笑った。 「もしかして…嫉妬か?」 「はっ!?」 ポンッと一気に顔に熱が集まるのが分かる。 それを見て、夜トは笑みをますます深めた。 「図星か?可愛い奴だな〜」 ぐしゃぐしゃと頭を撫でてくる夜トに必死に抵抗する。 それを軽く笑う夜トに、またも涙が浮かんだ。 「もうっ!ばかばか、ばかぁ…」 「お、おい!なんで泣くんだよ!?」 焦り出す夜トに抱きついて、ぐりぐりと顔を押しつける。 「だっ、て…夜ト、いっつも、ひよりひよりって…!ひよりちゃん、が…大事なのもっ、分かる、けどっ…!夜トの、彼女、は…私でしょっ…?」 夜トは私を抱きとめながら、絶え絶えに呟かれる言葉をしっかりと聞いてくれた。 私が息をついたのを見計らって、夜トは抱きしめる腕の力を強める。 「…不安にさせてたんだな、悪かった」 神流が嫌がるから控えてたんだけどなと言う呟きは、私の耳には届かなかった。 それを思い知らされたのは少し先の話である。 ♂♀ 「神流〜!!」 「ひゃっ!?ちょ、みんないる!皆いるからっやめ…!」 あの日以来、夜トは今までひよりひより言っていた以上にべたべたとくっついてくるようになった。 二人きりの時は勿論、雪音君やひよりちゃんがいる時でもお構いなしで、恥ずかしいの一言に限る。 それを白い目で見てくる雪音君や温かい目で見てくるひよりちゃんがいるのだから尚更だ。 少しでも抵抗を見せれば、夜トはニッコリ笑った。 「神流に愛情示しておかねえと泣くだろ?」 「〜〜〜夜トのバカッ!!!」 ああ、私は選択を間違えた気がする。 それでも嬉しいと思う私はきっとどうかしてる。 ←→ BACK/HOME |