企画 | ナノ

どうか夢と一緒に

「サンシャイン60で待ち合わせね?また連絡するから」

バイバイ、なんて二コリと笑った臨也君が立ち去ったのは何時のことだっただろう。
数時間前の事の筈なのに、もう何年も前の事のように思えてしまう。
街の外れでは建物が倒壊するかのような音が聞こえてきて、それが臨也君と静雄君の引き起こしたことなんじゃないかと、嫌な予感が頭の中を駆け巡る。
自販機の破壊音やコンクリートが崩れる音はもはや耳馴染みだが、それとは比べ物にならないほどの轟音。
極めつけは、空一面に広がる”影”だ。
セルティを彷彿とさせる影が広がる中、一向に姿を現さない臨也君。

「何時もなら面倒なことになる前に帰るのにな」

私の小さな呟きは、街の雑踏と共に消えていく。
それでも待ち続けるのは、臨也君が好きだからだ。

「…貴方が神流さん?」

私の名前を呼ぶ声に反応して振り向けば、どこか一般人とは違った雰囲気をまとう女の子が一人。

「はい、そうですけど…」

貴方は?と言う問いかけに少女は答えず、淡々と事実のみを口にした。

「折原臨也は重体で、この街から出ました。…けど、きっとこのままでは死ぬでしょうね」

「…え、死…?」

事態が飲み込めず呆然とする私に、少女はくしゃりと顔を歪ませる。

「そう、きっと死んじゃう!ざまあないわね!」

あまりにも嬉しそうに呟かれる言葉に、先ほどまでの機械的だった少女の面影はない。
この子、こんなに楽しそうにも笑えるんだなんて場違いにも考える。

「それじゃあ、私は伝えたから」

まるでスキップするかのように歩きだした少女を止めるすべなんて無くて、ただただ呆然と見送った。

「…あれ、涙…出ないや」

口からこぼれ出る乾いた笑いに自分でも驚いて、トサリと膝をつく。
込み上げてくる笑いに感情がついていかなくて、人の眼も気にせず声を上げた。

「…あは、あははっあっははははははははは!!!!」

ああ、もう臨也君に会えないのかな?
……会いたいよ、臨也君。



♂♀



「…いざや、くん」

目が覚めると、見知った天井が顔を覗かせる。
起き上がればびっしょりとかいた汗に服がくっついて気持ちが悪い。
しかしそんなのは気にしていられないくらい、早く臨也君に逢わねばと気持ちが焦る。

「臨也君…!」

ガチャリと扉を開ければ、珍しく眼鏡をかけてパソコンに向かう臨也君の姿が目に入った。
それに胸をなで下ろし、早足に臨也君へ飛びつく。

「わっ神流!?ちょ、汗凄いんだけど…」

「いざや、くん…いざやくん」

縋るように名前を呼べば、手に持った書類を机に置き、そのまま優しく抱きしめてくれた。
首筋に顔を埋めぐりぐりと顔を押しつければ、臨也君はポンポンと背中をさすってくれる。

「どうかしたわけ?」

少し心配そうに尋ねる声には何でも無いと首を振り、ただひたすら臨也君の体温を感じた。
臨也君は不思議そうにしながらも、それを受け入れてくれる。
ふう、と息を吐く音に顔を向ければ、臨也君はニッコリと笑った。

「神流、お風呂入ろっか」

「…え?」

「そんなに汗かいてたら気持ち悪いでしょ?俺が洗ってあげるよ」

急いで離れようとしても、既にがっちりと腕を回せれていて簡単には離れられない。
そのまま抱っこされ、お風呂場へと連れて行かれる。

「もう、臨也君…!」

最後の抵抗をと叩いてみるが、臨也君はそれを簡単にあしらうと急に真面目な顔になって額にキスを落とした。

「神流が言いたくないなら無理に聞かないけどさぁ、そんな酷い顔してるのに一人にできないでしょ?」

そんなに酷い顔をしていたのだろうか…。
心配をかけて申し訳ない気持ちと、珍しい真面目な顔にドキドキして、つい俯いてしまう。

「臨也君、ごめ…」

「そーれーに!神流のせいで俺の服もぐっしょりだしねぇ」

私の謝罪に被せて、いつもの調子で声をあげる臨也君に思わず笑みがこぼれた。

「もう!臨也君の馬鹿!」

いつもの調子で声を上げれば、臨也君は優しく笑った。

「うん、そっちの方が神流には似合ってるよ」

いつの間にか、視界には臨也君しか無くなった。



この素敵な現実を壊す可能性が、悪夢と共に消えてしまえばいいのに。




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