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いつまでも―、


授業がダルくって、サボろうと思って屋上に行った。
誰もいないからゆっくりできると思ってたら、先客がいて。

すごく綺麗な歌声が聞こえた。










昨日はあのまま帰ってしまった。
俺が入って行ったらなんや、あの歌声が消えてしまいそうな気がして。
顔は見えなかったけど、綺麗な黒髪やったことだけは分かる。
もう一度会いたいんやけど、また行ったら居るやろか。

授業に集中できんくて、俺はまた屋上へ向かった。



「…居った」

綺麗な歌声が今日も響いていた。
すごく、人の胸に響く声。

「〜〜♪…え?」

歌声は途中でとまって、黒髪に隠れた顔が見えた。
思わず呆然としてもうた。
…ごっつ美人やん。

「え、あの…大丈夫ですか?」

ずっと固まっとった俺に声をかけてきた。

「おん、大丈夫や。…なあ、自分何年なん?二年では見たことあらへんのやけど」

折角のチャンスやから、質問をぶつける。

「あ、私は三年です。最近こっちに来たので…」

へえ、転校生か。
それにしても、綺麗な声やな。

「な、自分歌好きなん?」

「はい、大好きです」

それから、俺らは他愛のない会話を続けた。
するとあっという間に時間は好きで、授業終了のチャイムが鳴った。

「あ、戻らなくちゃ。それじゃ、さようなら」

「おん」

黒い髪を靡かせて、先輩は帰って行ってしもうた。

「…あ、名前聞いてへん」

折角再開できたのに名前聞き忘れるとか…俺、アホちゃうか?



♂♀






「ざーいぜん!」

頭の上から降ってくる聞きなれた声。

「…なんですか謙也さん」

「部活の時間やで!」

そんなもん知っとるんやから態々迎えに込んでもええんに。

「はいはい、今行きますんで少し待っとってもらえますか」

取り合えず、机に入ってるものを全部鞄に詰めてラケットを持つ。

「さ、行きましょか…あれ?謙也さん?」

「遅いで!早うきいや!」

…待っといてって言うたんに。





コートに行くと、いつも以上にレギュラー以外の部員がうるさかった。
話を盗み聞きすると、どうやら部長が彼女を連れてきているらしいとのことだった。
あの女子が苦手な絶頂部長が?と思うのが正直なところだ。
でも、部長を見ると、隣にいるのは紛れもなく女の人。

しかも、

「…あの人」

屋上に居った人やん。
なかよさげに話す二人を見て、柄にもなくお似合いだと思う反面凄く嫌に感じる。
ああ、俺あの人に惚れとったんか。
名前も知らへんかったのに。

二人のことを呆然と見ていると、あの人は俺の存在に気が付いたかのように駆け寄ってくる。

「財前君!」

初めて名前を呼ばれた。
教えていないのに。

驚いていると彼女はクーちゃんに聞いたんですと楽しげに笑う。

「あ、自分…名前なんていうん?」

そう言えば言ってなかったですね、とまた笑った。

「樋口神流です」

神流って呼んで下さい、そう言うと神流さんは部長のもとに戻って行った。
名前が心に沁みて行く。
それと同時に少し切なくなった。

名前を知ってすぐ失恋かいな…。

少し沈んだ気分で着替えに行こうとすると、既に着替え終わった謙也さんがやってきた。

「なあ財前しっとるか?樋口な、白石と従兄妹なんやて!似てへんよなあ」

しみじみ、と言うふうに言った謙也さんにそうなんすか、アンタと氷帝の忍足さんもやろと返してからふと考えた。
ん?従兄妹…?

――従兄妹って親戚やん。










それから、神流さんとは屋上でよくあった。
さすがに千歳先輩程授業をさぼっている訳ではないが、それでも結構な頻度で授業をさぼっている気がする。
神流さんが毎回歌ってくれる歌はどれも素敵で、でも…どこか悲しかった。

そんなある日、神流さんはふと歌うことをやめ俺の方を向いた。

「ねえ、財前君。……話、聞いてくれる?」

頷いた俺に神流さんはゆっくりと話始めた。
神流さんはそれなりに裕福な家庭の生まれで、今まで幸せに暮らしてきた。
でも、そんな中で神流さんの家の会社の一部が買収され、多大な損失が出たらしい。
それで父親が大荒れ。
そこで母親が神流さんを安全なところに置きたいと親戚の白石家がある大阪に引っ越してきたらしい。
母親は父親とともに会社の復興。

神流さんの歌がどこか悲しげだったのはそれが理由だったのかと納得した。

「ごめんね、こんなこと話しちゃって」

「別にかまへんですわ。それよりも、なんかあったら俺にも相談してくれてええんで」

「ありがと」

溜まっていた物を話して少しすっきりしたのか、神流さんの顔は最近の表情よりずっと綺麗だった。



♂♀





「文化祭でバンドを組んで欲しい?」

文化祭一カ月前、謙也さんがいきなりバンドの話を持ち込んできた。
部長とバンドを組もうかと言う話になったらしいが、ギター、ベース、キーボードはいるがドラムがいないらしい。
そこで俺に回ってきたようだ。

「な、ええやろ?」

「善哉一週間分で手を打ちましょ」

「く、まあええわ。その条件で頼むで!」

練習は今日の放課後からやで!と叫んで謙也さんはクラスに帰って行った。
周りの目が一気に俺に集まる。
…迷惑な男や。





「え、神流さん?」

放課後、指定の場所に行くと部長と謙也さん、神流さんが居った。

「私ね、キーボードとボーカルやるの」

納得。
それにしても神流さんはキーボードもできるんや。

「で?なんの曲やるんですか?」

「財前が作詞作曲した曲があるやん?アレがええと思うねん」

ちょっと待ってくれ。
俺が作詞作曲した歌なんていっぱいありすぎてどれのことかわからへん…。
なんたって、俺は人気ボカロPやからな。

「ほら、財前この前新曲Upしたやろ?『Rainbow Days』」

「ちょ、部長なんで知っとるんですか!?」

「それは秘密や」

部長に俺がぜんざいPっちゅうことがバレとる…。
なんでや。

「取り合えずアレな?」

「…はあ」

謙也さんや神流さんは作詞作曲なんかできるだと驚いている。
純粋に感心されて、まあ…嬉しいけど。
部長、侮れん人やわ。

「ほな、ちゃっちゃと練習しましょうか」

「せやな」








練習は部活前に毎日続けられた。
すると皆呑み込みが早くて、10日目にはすでに完成していた。
練習している期間はテニスをやっているのと同じくらい楽しかった。
けど、神流さんの表情は日にちが経つにつれてどんどん曇って行った。

「どないしたんですか?」

「なんでもないよ」

聞くと必ず笑顔で返される。
相談してって言うたんに。












文化祭当日、神流さんが実家に帰るということを部長から聞いた。
会社が立て直せたらしい。
ごたごたも無くなって、家に帰って来いと言われたそうだ。

神流さんにそのことを言うと、黙っててごめんねと、寂しげな顔で笑った。











俺らがやったバンドは人気一位を獲得して、賞状と賞金を貰った。
文化祭も終わり、皆で騒いでいると神流さんに呼ばれた。

「ね、財前君」

二人で部室の裏まで歩いてくる。
神流さんはそこまで来ると口を開いた。

「今まで、ありがとう。財前君がいたから、最初すごく不安だったけどここまでこれたんだ。
両親のこととか、不安で誰にも話せなくて…聞いてくれて、すごく嬉しかった。


私ね、財前君のこと―――」

神流さんのセリフに被せるように花火が打ち上がる。
神流さんは躊躇いがちに空を見上げた。
色とりどりの花火が打ち上がる。

なんだか、このままでいると神流さんがいなくなりそうな気がして。
俺はうちでくすぶっていた想いを伝えた。

「神流さん、俺も好きですわ」

花火に見入っていた神流さんは一瞬間の抜けた顔をする。
言葉を理解したと同時に頬を染める彼女が愛おしい。

「ね、また…会いに来ても良い?」

「勿論ですわ」

思いが伝わってすぐに離れ離れになるけど、いつまでも神流さんのこと想ってますから。

また会いに来て。



池谷様のリクエストで財前君でした。
本当はもっと素敵な内容のリクエストだったのですが…力不足ですみません><

お持ち帰りは池谷様のみです。
宜しければお持ち帰りください^^

リクエスト有難うございました。



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