Clap | ナノ
Clap
※年下シリウス

私の友好関係にはスリザリンの生徒が多い。
私はグリフィンドールなのだが、グリフィンドール生としては珍しいらしく、なんで、だとか、やめたほうがいい、だとか言われることもある。
それでも私の親友はスリザリンのナルシッサ・ブラックなので特にこれからもこの友好関係を改めるつもりはない。
そんな親友であるナルシッサの従弟が今年、ホグワーツに入学するらしい。
変わり者だから不安だわと心配の色を宿した瞳が綺麗だ。

「落ち着いて、シシー」

安心させるように肩を撫でればそうね、と息を吐いた。

「そろそろ時間だわ」

ナルシッサはそう言うと、また後でとスリザリンの席へと歩き出す。
そういえばもう入学式の時間かと、自分もグリフィンドールの席に向かった。
スリザリンが特別好きというわけではないが、ナルシッサと一緒に居られるのならスリザリンが良かった。



ぼんやりと組み分け帽が寮の名を上げていくのを見つめる。
各寮なかなかの盛り上がりを見せているが、大した興味もない。
早く終わらないかなぁと机に伏そうとした時、ふと聞き覚えのある名前を耳にした。

「ブラック・シリウス!」

はて、ブラックとはナルシッサのファミリーネームではなかったか。
かの従弟とか彼のことかとぼんやりと顔を上げた。
見れば、シリウスとやらはブラック家特有の整った顔立ちに、ナルシッサとは似つかない黒い髪、グレーの瞳。
従弟でこんなにも違うものなのかと驚いたが、顔立ちは確かに似ているし、名家特有の気品も確かに存在した。
まあどうでもいいかとすぐに顔を下げる。
どうせブラック家ならばスリザリン、私が彼と関わることはナルシッサが関わらない限りないであろう。
しかし、そんな考えとは別に、帽子はグリフィンドールと叫ぶ。
思わず間抜けな声が出たが、それは周りのざわめきにかき消された。
一方シリウスは嬉しそうに笑い、私の隣…空いた席へと腰を下ろす。
困惑を残していた他の寮とは違い、グリフィンドール生はすぐさま正気を取り戻した。
口々におめでとう!の歓声が聞こえ、早速人気者かとぼんやり考える。

「なあ、あんた」

我関せずで座っていた私に、シリウスは声をかける。
何か用かと振り向けば、もしかしてナルシッサの…と小声で聞かれた。
何故彼が知っているのかとも思ったが、ナルシッサが話したのだろうと勝手に結論づけ、それならば下手なことはできないなと思いそうだよと答える。
そうかこいつがなどとブツブツ呟くシリウスに思わず怪訝な顔をしてしまったが、見られてはいないらしい。
それから話しかけられることは特になく、もういいのだろうかとそっと視線を戻した。



そんな入学式から一週間くらい経ったある日、たまたま、シリウスと鉢合わせた。
存外、一年生と五年生では会うことは少ない。
特に用もなかったため、目も合ってしまったことだし軽く会釈をして通り過ぎようと思っていたら、何故か声をかけられた。

「後で少しいいですか」

初対面とは違い敬語で話しかけてきた彼に、(ナルシッサの従弟であるから)邪険にはできないと思い了承の返事をする。
するとシリウスは嬉しそうに笑って、では後でと授業に向かってしまった。

「なんだったんだ…」

思わず漏れた言葉は、誰にも聞かれることはなく雑踏に溶けていった。



そして夜、シリウスとの約束の時間である。
門限ギリギリの時間に呼び出された中庭には誰もいない。
嫌がらせだったのだろうかと思えば、サクサクと草が踏み込まれる音がした。

「遅くなりました」

友達に捕まっちゃってと頭を掻くシリウスはやはり年下なのだなと思わせる幼さを持っている。
大丈夫だよといえばホッとしたように息を吐いた。

「それで、何か用かな?シリウスくん」

名前を呼べば、びっくりしたような、嬉しそうな、なんとも言えない顔でこちらを見てきた。

「名前、知っていたんですね」

「まあ、シシーの従弟だからね」

ちょっと話を聞いたことがあるよといえばなるほどと頷いた。
話が進まないなとそれで?と先を促せば、ああ、とシリウスは居住まいを正した。

「先輩に、言いたいことがあって」

何だろう、ナルシッサに近づくなとか、そういうことであろうか。
入学式のことを思い出して、ぼんやりと考える。
それで、ともう一度促せば、意を決したのように口を開いた。

「俺、先輩のこと好きみたいです。付き合ってください」

なんともストレートな言葉に思わず口が開く。
あのブラック家のご子息が純血ではあるがグリフィンドール生の私を好きと言ったか。

「あー、その、なんの罰ゲーム?」

思わず口を出た冗談にシリウスは首を振った。

「そんなんじゃないです。俺の気持ちが本物だって、分からせましょうか?」

にっこりと笑った瞳の奥はギラついていて、ぞくりと背筋を震わせた。

「いや、いい。信じるよ。……でも、私たち喋ったことないよね?」

小さな疑問を零せば、先ほどのギラついた瞳をやめて、楽しそうに喋り出す。

「確かにないですけど、ナルシッサにいろいろ聞いてて、それから、初めて会った時からずっと見てた。ブラック家だからって特別扱いしないとことか、ナルシッサを見る愛おしそうな目が好きで、俺のことを見て欲しいと思ったんだ。だから、」

だから、の後の言葉はいつまでたっても紡がれない。
顔を覗き込めば少し震える唇に、この子は背伸びしていたのかなと少しおかしくなった。

「私の一番は、今の所シシーだけど」

それでもいい?と首をかしげれば、シリウスは目を輝かせる。

「絶対、一番は俺だって言わせるから」

楽しみにしてろというシリウスに男を見て、かわいいなぁなんて考えた。
私の彼氏様となった彼に、簡単に落とされてしまうのは、そう遠くない未来の話。


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