また会う日まで


私と総司が北の地で暮らし始めてから1年余りが過ぎてから総司は労咳に勝てず、還らぬ人となった。


医者として生きてきた中でたくさんの人を救ってきたのに、一番大事な人を救えなかった。
後悔の念が押し寄せてきて、泣き続けた。


医者として、新選組に携わるようになって総司に出会った。
変若水や羅刹のことも知った。


“女なのに医者になるなんて…”家族や世間から蔑まれ、私がようやくつかんだ仕事は変若水の改良と、新選組での怪我人の治療。
たくさんのけが人や体調を崩す人がいて大変だったけど皆が私のことを医者として見てくれていた。
女だからといって治療をさせてもらえないこともなかった。
変若水の研究もしっかりやって理性を少しでも保てるようにした。


それなのに…!!
総司を助けられなくて…。


私のせいで総司は死んだんだ。
私が労咳を治せれば生きていられたのに…。


総司が私に託した刀を見つめた。
武士の命ともいえる刀を私に託してくれた。


いっそのこと、この刀で総司のもとにいこうか。
刀を鞘から抜き取り首元にあて、目を閉じた。



「なまえ…」



愛おしい声が聞こえた。
迎えに来てくれたんだ。
今、向かうからね。待っていて。


刀を握る手に力を込めるとその手に微かな感触がした。
刀を握り続けたせいでまめだらけの、でもあの優しい手が。


目を開けるとそこには総司の顔があった。


悲しそうな顔をしてこちらを見つめている。


『総司…大丈夫だよ。すぐいくから。待っていて』
「ダメだよ…。僕が言ったこと忘れちゃったの?」


総司は穏やかな声で私に語りかけた。
首にあてた刀を下ろしながら。


「僕は言ったはずだよ。ちゃんと見守っているから生きるんだよって。」
『でも…私のせいで総司が死んじゃったから…。総司がいないと生きていけない…!!』
「ダメだよ。なまえはちゃんと生きなくちゃ。…ね?」
『嫌…』
「大丈夫、傍にいるから。だから、こんなことは二度としないで。」


不意に口調が強くなり総司の目が厳しさを帯びた。


「なまえならわかるよね?」
『うん…』
「うん、いいこ」


私の頭を撫でながら総司は私に笑いかけた。


「忘れないで。僕はいつだって君を愛しているし、見守っている。なまえの傍にいるんだ」
『私も総司のこと愛してる…』


総司はその言葉を聞いて満足そうに微笑むと闇に溶けていった。



目が覚めたとき私は布団の中で眠っていた。


あれは夢だったのだろうか。
辺りを見渡すとふと昨夜総司がいた場所に一輪の花が置かれているのに気が付いた。


よく見ると野春菊だった。
総司がよく持ってきていた花だ。
確か花言葉が…“また会う日まで”だったかな。


『フフッ…』


随分久しぶりに笑った気がする。


昨日のことはやっぱり夢じゃなかったんだ。
こんな素敵な贈り物を探してこれるのはあの人しかいないもの。



外に出ると綺麗な青空が広がっていた。
新選組の羽織のような綺麗な浅黄色だった。



『大丈夫、私はちゃんと生きるよ。ありがとう、総司。』



優しい風が頬を撫でて吹き去って行った。



 
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