我ながらよく出来たと思う綺麗に盛り付けられた料理を目の前にして自分で作っときながら涎が出そうだ。キッドが何気なく呟いた「ハンバーグ食いてェ…」という独り言を聞き逃さずさっそく作ってしまったこの甲斐甲斐しさといったら。キッドの女房役は渡さねェぜキラー!ほかほかのハンバーグの上に乗ったケチャップみたいに赤い髪をしたキッドもビックリした顔をしつつも嬉しそうだ。キッドの女房以下略


「さァどうぞ!」

「お粗末さまでした」

「はい、ご馳走さまでした。って何で!?」


いざ実食!という瞬間に手を合わせ発せられた台詞に思わず乗っかってしまった。いやいや台詞逆だし、え、何でそんな物凄い臭い靴下を洗濯機に入れる時みたいな顔してんの?あの嬉しそうな顔はあたしの幻覚?てかあたしが作ったハンバーグってそのレベル?


「さァどうぞ!」

「対処の仕方が分かんなかったからって冒頭の台詞を繰り返すな」

「これぞエコ」

「違ェ違ェ」

「いや何で食べてくれないの!?食べてよモリモリと!おかわりは無いけど!」

「無いのかよ。無理。何故ならお前の料理は見栄えも味もいいが食ったら100%腹壊すからだ。腹を満たすより腹を癒す料理を作れ。以上」

「追求の必要が無い回答ありがとうございました」


どうやらキッドが靴下顔をしていたのは過去の腹痛を思い出してのことらしい。なんかごめん。
間違いなく加害者はあたしで被害者はキッドなんだろうけど、でもどうも納得がいかないところがある。行儀が悪いと思いつつもお箸の頭の方をキッドに向け出来うる限りの真剣な表情を作った。


「被害者の証言には矛盾する点があると思うのですが」

「何気取りだお前は。矛盾ってどこがだよ」

「あたしは自分の料理を食べてお腹を壊したことはありません。キッドのお腹がBaby並なんじゃないんですか」

「ベイビーの発音いいな。じゃあキラーもトラファルガーもあの麦わらでさえもベイビー並の腹ってことだな」

「キッドがベイビーって言うの超面白い」

「ぶっ殺すぞ」


残念なことにインタビューごっこはベイビー発言が思いの外面白くて1分と持たなかった。今更だけどキッドがハンバーグ食べたいって言ったのも超面白い。実は寝言で言ってたの聞いただけなんだけどね!

ってそれはどうでもよくて、ルフィまでもがお腹を壊したということはあたしのお腹が異常な上に料理まで異常な殺傷能力を持っているということだ。このWパンチのダメージはなかなかデカい。キッドの女房役はやはりキラーに譲るしかないようだ、アーメン。ヘコむ。


「お前あいつらに食べ物与えてテレビにでも出るつもりだったのか?」

「あたしの作った物は集団食中毒テロ起こせるレベルですか?」

「何食わせたんだよ」

「プリン」

「は、ちょ、プリンって俺のは!?」

「抹茶プリンだったから無いよー。キッド抹茶嫌いじゃん」

「…そうだけどよ」


プリンと聞いて乗り出してきた体をまたソファーに沈めてぶすくれているキッド。プリン食べれなかっただけで不機嫌になるなんてどんだけ甘党だ可愛いなコノヤロー。あたしの料理はディスりまくってるくせに怒る意味が分かんないけどさ。床抜けそうなくらい貧乏揺すりされても恐いだけなんですが。


「お前のそういうデリカシーのカケラもねェとこ物凄い臭ェ靴下並に最低だな」

「デリカシーの無さだけはキッドに指摘されたくないです」

「あ゛ーまじムカつくわ」

「…プリンならまた作ったげるよー」

「いや作るな」

「どっち!?」


え、プリン食べれなかったから怒ってんじゃないの?なのにもう作るなってあたしどうしたらいいか分かりませんキッドさん。
こんな風だけど結構キッドに怒られるのは堪えるから自分が思っている以上にしょぼくれた顔をしてたのか、あたしの方をチラリと見たキッドは「あ゛ー」と頭を掻いてその右手をあたしの頭の上に置いた。というより押さえつけた。あの、首痛いです。


「キッド?」

「あのな、別に抹茶プリンでもコーヒーゼリーでも冷凍みかんでも好きに作ればいいけどよ」

「それ全部キッドの嫌いな物だよね。冷凍みかんとか最早料理でも何でもないよね」

「いいから黙って聞け」

「はい」

「んなテロじみたもんの被害者は俺だけでいいんだよ。…俺以外の奴に食わせてんじゃねェよバカ」


微かに小さくなった語尾は普段言わない本音の証拠だろう。怒っていたほんとの理由とあたしをキッドじゃなく自分の膝と会話させた理由が分かって、あたしの顔もキッドに見えないだろうから思いっきりニヤけてやった。まああたしにはガラスのテーブルに映った赤い髪と顔が見えてるんですけどね。クッソ、可愛過ぎるわまじどんだけ!


「じゃあさじゃあさ、このすっかり冷めちゃったハンバーグも食べてくれるの?」

「いや無理」

「だからどっち!?」

「でもまあ、ちょっと殺傷能力が高過ぎるってだけで食い物自体には罪はねェからな、食い物自体には」

「強調されるたび胸が痛む」

「食い物は粗末にしたらいけねェよな?」

「それは、はい」

「だよな」


結局食べるの食べないのどっちなの。やっと解放された頭上の手の先にハッキリしろと言ってやろうと顔を上げれば、それはそれは悪い顔をしたキッドと目が合った。あ、カッコイイ。じゃなくて!

この顔は良からぬことを企んでいるに違いな過ぎて微かな抵抗として後退りしてみるものの、腕を掴まれ引き戻されてそれも意味のない行為となってしまった。思わず俯いてしまったけど容赦なく耳元で囁かれた台詞に、言い分が矛盾してるとは分かっていても案の定、くらりときてしまう。

テーブルの上の赤はどれがどの赤なのかもう分かったもんじゃないくらい赤でいっぱいで、どれも多分、幸せの色なんだと思った。(…あ、ヤバい鼻血出た)






どうしてもって言うなら
(加害者のお前と一緒に食ってやるよ)


(お粗末さまでし た、)


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101122
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