[出逢う話]
「侵入者め!」
「!」
一斉に発砲された。
日がなリボーンの気まぐれ乱射を体験していなかったら恐らく今ごろボロ雑巾のような姿になっていただろう。
けれど奏多はそうなってはいなかった。
自身の盾にと創り出した匣兵器は、彼女の回りを『硬化』の炎でコーティングされた壁で固めていた。
「なっ…なんだコイツ…!」
「魔法か!?」
周囲の男達が戦慄するのがわかる。
アニマル匣を使えば今周辺にいる連中くらいなら倒せそうとも思うが、向こうの力が未知数な今下手な動きは出来ない。
奏多は銃を構えたまま、ただ待った。
「面白い武器ですね」
そこに、なんとも場違いなおっとりと柔らかい声が降ってきた。
回りの男達が慌てた様子で視線をそちらにやるのに危機感無いなとも思ったが気になったので奏多もついつい目をやってしまう。
「しかし見慣れない格好だ。どちら様ですか?」
視線の先にはマントやらなんやらで体の大部分を覆った、若い男が立っていた。
優男と言われる部類に入るであろう綺麗な顔立ちだが、体格は悪く無さそうだ。
「司令官!」
そんなことを冷静に分析していると、周囲からそんな呼び声が上がった。
コマンダー、と言っているが咄嗟に意味が思い浮かばない。
が、彼の落ち着きようと周囲の慌てようから名前を呼び捨てにされているのだということは無さそうだから役職名なのは間違いあるまい。
綱吉を首領、ドンと呼ぶようなものだ。
ボスでもいいが。
「下がりなさい。…貴女は、どうかそこで動かずに」
男をじっと観察しているとやがて彼はそう告げた。
周囲は互いに顔を見合わせ戸惑っているようだったが、やがて奏多を睨んでからゾロゾロと立ち去っていく。
奏多も銃から手を離すことはしなかったが壁は仕舞った。
ちょっとばかり肩の力を抜き、男がこちらに歩いてくるのを待つ。
男は思っていたよりも身長が高かった。
180くらいはあるのだろうか。
目測でしかないが。
「どうも、こんにちはレディ。僕はこのオートザム軍の責任者で、イーグル・ビジョンといいます」
目の前までやってきた男は実に優雅な仕草で腰を折りそう言った。
わずかに傾げられた首があざとくもなにか可愛らしく見える。
「…御丁寧にどうも。私は奏多。秋城奏多」
奏多は警戒を解かぬままにとりあえずは名乗った。
イーグルは構わずにっこりと微笑む。
「カナタ、ですか。素敵なお名前ですね」
「…ありがとう。イーグルというのも格好良いと思うよ」
「ありがとうございます」
腹の探り合い。
奏多としてはそのつもりなのに、どうにも相手は何枚も上手らしいと直感的にそう思う。
これは、適当なところで保身に回るべきか。
「先程の盾、」
「え?」
悶々と奏多が考えているとふいに声がした。
瞠目しながらもそちらを見やればイーグルは変わらず微笑んで続ける。
「先程の防御の壁です。もしよろしければもう一度見せてはいただけませんか?」
「………」
はてさてこれはどういうことなのかと奏多は迷った。
元来、疑われるのが自分の仕事であって疑うのはあまりないのだ。
裏を読むことは得意とは言い難い。
「そんな警戒しないでください」
イーグルはそんな思考を見透かしたかのように爽やかに笑った。
それからそうだと手をひとつ打ち、ごそごそとマントの中を探る。
「こんな場所で立ち話もなんです。この近くに会議に使う部屋がありますから、そこでお茶でも如何ですか?」
イーグルが取り出したのは長方形のプレートのようなものだった。
何に使うのかはわからないが、さしずめ鍵か何かだろうか。
まぁそれはなんでもいいとして、本気でイーグルの思考が読めなくて困る。
奏多は脳内で綱吉に叫んだ。
1分でいい、超直感を貸して欲しい。
「……そうね」
もちろん貸出されるはずもなく、こうなりゃ自棄だと奏多は頷く。
対するイーグルは機嫌良さげにではと手を差し出してくる。
イタリアで、しかもボンゴレという巨大組織に属していては当たり前のようにあったエスコートに慣れていて良かったとぼんやり思った。
引かれるがまま歩いていけば、何やらバイクのようなものに乗せられる。
「しっかり掴まっていてくださいね」
「はぁ」
とりあえずイーグルの腰につかまり、奏多はきょろっと当たりを見渡した。
改めて見てみればどこもかしこも何とも近代的な造りだ。
ボンゴレやミルフィオーレの技術でも、これら全てを再現できるかどうか。
考えているうちに二人を乗せたバイクのようなものはフワリと浮き、通路を滑空し始めた。
便利なものだ。
動力源はなんだろうか。
奏多はイーグルの腰に腕を回したままじっと観察を続けた。
イーグルが横目でこちらを見、左耳につけたピアスにおやといった表情を浮かべていることには気付かずに。
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