始まる話


カタカタと無機質なタイプ音が響き、青白い光が暗い部屋を照らす。
やがて、パンと乾いた音でそれに一区切りがついたのか秋城奏多は軽く伸びをした。
節々からボキボキと音がするのは、凝り固まっている証拠か。

「よう。どうだ、進んでるか」
「リボーン」

そこに幼い声がして、ボルサリーノを被った子供が現れた。
奏多はパソコンの画面が見えるように体を脇にずらしながら答える。

「またいくつか移動可能な異次元を発見したよ。…しっかしいくつあるんだか…誰か手伝えよほんとに」

半ば愚痴るような調子で奏多は頬杖をついてぼやいた。
帽子の縁から覗く子供…リボーンの口元がニヒルに歪む。

「スパナにはフラれたんだろ?ロボットじゃないなら嫌だとかなんとかで」
「…戦闘機作るなら声かけろですとよ…ふざけんなよあんにゃろう…」

奏多は同業者であるスパナの発言を思い出したのか恨みがましげに呻いた。
リボーンはただ面白そうに質問を重ねる。

「入江やジャンニーニはどうなんだ?」
「…入江にはこれ以上仕事回したら倒れちゃうからってツナに止められたの。ジャンニーニはフゥ太に「やめとけ」って言われた」

奏多は次々出されるやはり同業者の名前に疲労困憊した声で言った。
爪の先が苛々とデスクを叩き、籠った音を立てる。

「ま、懸命かもな」

リボーンは色々言っておきながらあっさり切り捨てると一応、といった体で据え置かれたソファーに腰を下ろした。
奏多は怪訝そうにしながらもそれを「話がある」合図と受け取って向きを変える。

「お前が今やってんのは平行世界からも外れた異次元へ渡る手段の確保だ。あらゆる研究が進んでいる今、どのファミリーが同じ手段を手にして何を起こすかわからねぇ。…それを防ぐためのな」
「…世界守りますレベルでもツナは戸惑ってたのに、別次元まで守るとか。納得してんの?彼」

奏多は友人であり、自分の所属するこの組織でもある沢田綱吉を思い起こしてリボーンに尋ねた。
当のリボーンの方はそう聞かれるのを待っていたと言わんばかりの口調で答える。

「実は本題はそれだ。ツナの言い分を伝えに来てやったんだぞ」
「は?」

奏多はついていた頬杖からずるりと顎を落として眉根を寄せた。
リボーンの顔がにんまりと嫌な笑みをたたえ、奏多の頭に警鐘が鳴り響く。
次の瞬間、リボーンの開いた口からは見事な綱吉本人の声が流れ出した。

「「勝手に自分達の世界守るとか守らないとか、絶対意味わかんねーってなると思うんだよね。…だから、とりあえずそんなことが起こりうるってことを、その世界の人達に伝えるべきだと…思う」…だ、そうだ」
「怖いよいつのまに声帯模写までマスターしてんのリボーン」

口調までそっくり、と嫌そうな顔でコメントしたがすでに奏多は何やら考え込んでいた。
その様子にリボーンが満足げにもみあげを撫でる。

「…わーかりましたよ」

奏多は投げやりに言って立ち上がった。
ディスプレイからの光に指輪とピアスが輝く。
奏多は床を縦横無尽に走るコードをまたいでクローゼットの前に移動した。
扉を開き、拳銃のセットされたベルトをいくつも取り出して体に装着する。

最後にガバッとした上着を羽織ると奏多は壁からゴーグルを取った。
リボーンの差し出す小型の端末を上着のポケットに仕舞うとまたパソコンの前に戻る。

「…とりあえず一番上から行くかな。えーとバズーカどこ置いてたっけ…」

奏多はいくつかのキーを叩くと、自動的に開いたケースからNo.1と刻み込まれたバズーカの弾を取り出す。
しばらくそれを眺めていたがやがて奏多は踵を返して部屋を出た。
リボーンもそれに続く。

他に人のいない部屋に入ると奏多はちょっとゴーグルを直した。
ガランとした部屋の真ん中に立ち、バズーカの砲口を己に向ける。

「…んじゃ、行ってくるよ。ツナによろしく」
「おう。気張ってこい」

一瞬の間。
そしてドカンという爆発音が響き、リビングに煙が充満する。

「−Buon viaggio.(良い旅を)」

それに紛れてリボーンが小さく呟いたが、聞こえていたかどうかは定かでなかった。
煙が晴れたそこには誰もいなくなっていた。





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