[少年の話]
「…なるほど」
10年バズーカのこと、10年前のランボがその当時偶然にもこの世界に繋がるバズーカ弾を使用したこと、そのバズーカ弾の発明は奏多が中心として関わっていたことを洗いざらい話した後のイーグルの反応はそんなものだった。
ただ興味深いですねと微笑むだけの男に、奏多は怪訝そうに眉根を寄せる。
「…私がここに来たときもだけど。イーグルは疑わないよね」
どこか不機嫌さを含んだ声にイーグルは面白そうに口角を吊り上げた。
誤魔化すような雰囲気さえ感じさせる気楽さであっさりと返す。
「人を見る目はあるつもりですから。嘘か真かも、ある程度は」
「……あ、そ」
それは司令官という立場にある者としてのことなのか、はたまた別の意味を持つのか。
どちらとも言い難い、そんな口調だったが奏多はさして関係無いことだとすっと目線を逸らす。
そのことに、少しだけイーグルの瞳に寂寥の色が浮かんだのに気付いたのはランボだけだった。
「ひとつ聞いても?」
「?何?」
そんな切ない色などまるでなかったかのように笑顔を切り替えたイーグルは明るい声で奏多に尋ね掛けた。
ぶっきらぼうながら、真面目な顔で目をまた合わせる女にその眦がわずかに下がる。
「彼とカナタはどういう関係なんですか?」
イーグルの質問に奏多はチラリとランボを見下ろした。
向い合わせのソファーに座る二人と違い、床に正座したランボはぴっと背筋を伸ばす。
「…私はこいつの護衛と教育係。それも1年くらい前には解放されたけど」
「護衛と教育?」
聞き返したイーグルに奏多は頷いた。
「他の幹部連中は私のひとつ上か同い年だからね。一人だけ幼かったコレを、首領が…あー、最高責任者が『自分達が戦うことを始めた、その年齢までは』って私に守るように頼んだんだよ」
「同時に命の危険しか感じないことも多々あったんですけど…」
口を挟んだランボは睨まれて慌てて黙った。
指先が腰の拳銃に伸びていたのは見間違いではない。
「まぁ教育係は数年前から可愛い弟分にバトンタッチしてたんだけど。…そーいやフゥ太は元気?」
「あ、はい元気です…ここのとこ奏多さんに全然会えないから逢いたいって…イーピンも」
「そう」
すいと脚を組んだ奏多は短く言って息を吐いた。
懐かしむように細めた瞳は、目の前のイーグルを映しながらも別のものを見ている。
「……まぁ、ランボといいましたっけ?彼のことは僕の方から導師クレフにそれとなく伝えておきます」
「ありがとう。…面倒かける」
「いいえ」
イーグルがそう告げると、奏多は礼を言って立ち上がった。
ランボの襟首を掴み、そのまま部屋を出て行こうと扉に足を向ける。
「…どちらに?」
「光たちのとこ。挨拶させとく」
「僕も行きましょう」
それを追うようにイーグルも立ち上がり、やや大股に歩いて奏多の隣に並ぶ。
少し迷い、ランボに手を貸して立たせてやれば涙目の少年は急いでイーグルの反対側へと隠れる。
それを見て奏多の目が冷ややかに細まるが、すぐにふいとそれる。
「じゃあ、さっさと行こう」
「はい」
イーグルはしばらくすぐ隣の横顔を見つめていたが、ふと微笑んだ。
それを視界の隅におさめた奏多はやや怪訝そうに眉を寄せる。
が、何も言うことはなかった。
二人の間、意識的にか無意識にか開いた距離がどこか不自然だった。
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