[発見の話]
「イーグル!!」
けたたましい足音は部屋の前で止まったと思ったのも束の間。
平和なセフィーロには到底似つかわぬ爆音を響かせて扉が開かれる。
「どうしました、カナタ」
扉の前で拳銃構え、雷を帯びた多数の猛獣たちを従えた奏多にさすがのイーグルも目を瞠った。
しかし当人の方はカツカツとブーツの音も高らかにイーグルに詰め寄り、きつく眦を吊り上げて詰問する。
「モジャ毛の子供見なかった!?」
「もじゃ…?…子供は見てませんが」
「チッ」
手懸かりがないと知るや、奏多は踵を返して部屋を出た。
イーグルはきょとんとするも、すぐさまはっとしてその背中を追う。
「あ、ちょっと」
しかし怒りで狂戦士と化したらしい彼女の行動は早かった。
廊下に出るや、地響きをたてる勢いで床を蹴り、また奔走する。
その速いこと速いこと。
あたりに雷を撒き散らしながら、奏多は見えなくなった。
イーグルはおやまぁ…としばらくその場に立ち尽くしていたが、やがてふと思い付いて部屋を出る。
一応セフィーロの人々に今の奏多のことを伝えておかねば。
金属製のブーツの踵をコツコツ言わせ、オートザムの司令官はセフィーロ城内を歩き出した。
†††
「…どこ行った…んのクソガキ…ッ」
吊り上げた眼で鋭く周囲を見渡してはまた走り、時に窓から窓へと飛び移ることを繰り返しながら奏多は毒づいた。
それに同意するかの如く、ずっと奏多の隣を並走する白狼が鼻を鳴らす。
その間も女は全身のバネを使い、跳ぶように駆ける。
そのたび蹴った地面がとても床と靴の接触だとは思えない轟音を響かせるが今現在奏多の頭にそんな発想は浮かばない。
と、その矢先だった。
「にゃははは!」
「!いた!!」
ちょうど飛び出した窓の真下、探していた標的の姿を見付けた。
引き抜いた拳銃の標準がその幼い悪戯者に定められる。
そうとも知らず、ランボはちょこまかと走り回る。
「ランボ!!」
そこに、突如上から聞こえてきた鋭い声にランボは「んぁ?」と顔を上げた。
それと同時、奏多が般若顔で構えた銃から夥しい数の弾が弾き出される。
「ぐぴゃっ!??」
綺麗に幼子の周りをぐるり一周撃ち抜いた奏多は軽やかな音を立てて着地した。
一歩ずつ近付く傍ら、ランボを見据える瞳がギラリと鋭く光る。
と、その時だ。
ボフンと爆発が起こって、煙の中にはひょろりと背の高い少年が現れた。
色気とだらしなさの両方を感じさせる雰囲気のその少年は頭をかきかき、ゆっくりと立ち上がる。
「……やれやれ。ここは一体…」
少年…もとい、15歳のランボは気だるそうに首を回していた。
もったりとした髪が緩やかに揺れる。
「…ん?奏多さん、何故オレの胸ぐらを…」
奏多は煙が晴れるまでこそ立ち竦んでいた。
が、それがなくなるが早いかランボの言葉通り、胸ぐらを掴んで引き寄せその額に愛用の銃を押し付けて低く唸る。
「久しぶりねクソガキ…」
「何故久々の再会でオレは額に銃を突き付けられるんですか」
前回そんな険悪な別れ方しましたっけと少年は引き気味にぼやく。
両手は掲げられ、降参の意を示すが解放される気配はまるでない。
そうこうしているうち、カチリと乾いた音がして銃の安全装置が外され、ランボの顔から血の気が引く。
「ちょっと待ってくださいってば!オレのお守りはもう終わったんじゃなかったんですか奏多さん!!」
「終わった気でいたわ!ほんの30分前くらいまでな!ホント10年前のアンタ嫌だ!!」
「子供のオレ今度は何やったんですか!?まさか奏多さんのパソコン壊したのって今回ですか!?」
「壊した記憶あるんかい!!」
凄まじいまでの勢いでなされる会話、その間も銃はゴリゴリとランボの額をえぐる。
悲しいかな最早気にしていない陰にやられ慣れている真実が見え隠れする。
「あぁ、いた。カナタ、子供って一体どうし…」
と、ギャーギャーとやかましいそこに、ふいに穏やかな声が降って沸いた。
が、180近い若い男に銃を突き付け半ばマウントポジションを取りつつある奏多の姿に、さすがのイーグルも一瞬言葉を見失う。
「…カナタ」
「あ?…ってイーグル?何」
「そちらの方は、一体」
奏多はちょっと狼狽えるように肩を揺らした。
そして半べそかいて膝をついているランボをじっと見下ろし、そこでようやく我に返ったのか何の前触れもなくぱっと手を放す。
「ぐぶっ!」
ランボは地面と熱烈なキッスをかましたようだが奏多は無視した。
そこでようやく眉根を寄せて考え込む。
「……えーと…」
どう説明するか、という事実はこのときになって初めて奏多の頭に浮かんでいた。
キョトンと目を瞬くイーグルの色素の薄い髪が、吹き込んできた風に柔らかに揺れた。
鼻を鳴らすランボはいまだ床に潰れていた。
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