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愉快なお友達に鉄拳制裁!

溜まり場、またはサボるためにしか生徒に使用されない空き教室がある。だがこの空き教室がある時季になると賑わうことがあるのだ。教室の壁という壁部分に沢山貼られた写真が、その原因だった―――。

「まーさーむーねー! こっちのやつにも写ってるよー」
「でけェ声で叫ぶな、聞こえてる」

空き教室内の許容量を超える人の波に呑まれながら、私はどこかその辺にいるであろう政宗を呼ぶため、必死になって手招きする。ぴょんぴょん跳ねちゃったものだから(チビだから埋もれちゃってんだ)、隣にいた生徒に鬱陶しそうに眉を顰められたけど気にしない気にしない。

……嘘です気にしますごめんなさい。そうですよね。おしくらまんじゅう状態で跳ねられたら、邪魔以外の何物でもないですよねスミマセン。普段使われていない掃除もろくにされていないこの空き教室がどうして賑わっているかと言うと、この前行われた「春の大運動会」という、運動オンチにはツライ行事のせいなんですよ奥さん。

あ、私は運動オンチじゃないからツラくはないよ? ただ面倒臭いだけで。体動かすのは好きだし、普段から何かと煩い男を蹴落とすまたとないチャンスだし。それもスポーツマンシップに則っての正攻法で。正々堂々やって負かすんだから、文句も言えないじゃない? と、話が脱線しましたね。

んで、そのときカメラマンに撮ってもらった写真が、教室の壁に貼られているわけ。ここで何番の写真を買うか決めて、お金を払うというわけです。にしても凄い人だわ。時間ずらせばよかったかな?

「お、劇的瞬間のやつだよコレ」

私が見ている写真には政宗と幸村が写ってる。ただし二人の顔は、気持ち悪いほど真っ白だ。それもそのはずで、この写真が撮られたときの競技は「飴玉探し」。白い粉の中に入ってる飴玉を手を使わずに口で探すという、見ているほうは笑いが止まらない楽しいもの。やってるほうは大変だろうけどね。これはそのとき二人が真剣に粉の中の飴玉を探しているときに撮られた写真だったのだ。

このカメラマン、笑いのツボを心得ているのか、それとも人を陥れる方法を会得しているのかどっちだろう? 政宗的には面白くない、可能ならば今すぐにでも燃やしたい写真だと思うから、きっとこれは買わないだろう(私は買うけど)。

「華那は買うなよ?」

ほら、私の性格を理解しているから、こうやって念押ししてきたよ。

「無理言わないでよ。つらいときや泣きたいときには、この写真見て腹抱えて笑おうっていま決めたんだから。大体こんな競技で真剣になるから、こんなにも面白い写真になっちゃったんだよ?」

どの競技に出場するか決めていたホームルームでのこと。この競技だけ誰も参加したがらなくて(当然だ。小学生じゃあるまいし、飴玉一つのために顔を真っ白にはできない)結果的にクジで決めることになったんだけど、運悪く政宗がそのアタリクジを引いちゃったわけですよ。クジには逆らえず出場することにはなったんだけど、やる気は皆無に近い状態だった。

……幸村がこの競技に出場、あろう事か自分と同じレースに出場していると知るまでは。ライバル意識が強く、何かと対立しているこの二人のことだ。後の展開は目に見えてくるだろう。

「白粉塗ったみたいで面白い、購入けってーい」

これは……十三番ね。隣でギャーギャー言ってる政宗を無視して、私はチェックシートに十三番と記入する。

「………次は、と。お、これにも写ってるじゃん。しかもこれツーショットだ」

今度の写真には私と政宗が写ってた。これはあの飴玉探しが終わった直後のものだ。顔を真っ白にした政宗がテントに帰ってきて、私がタオルで顔を拭こうとしているシーンなんだけど、こうして客観的に見ると他の生徒さん達の視線が鋭いなぁ。女子なんて手にタオル常備してるし。ああ、狙ってたんだねみんな。でもこういうのは……カ、カノジョの特権っていうやつじゃない? 言ってて恥ずかしいけど。

「…………ん?」

別に普通の写真なんだけど、どこか違和感を覚えてじーっと凝視する。じっくり見ても別段、何もおかしいことはない。政宗が私の腰に手を回している以外は。………でも政宗の両手はちゃんとあるよね。右手で私が差し出したタオルを受け取ろうとして、左腕の肘で額の汗を拭ってんだから。

「………政宗、アンタいつの間に腕三本になったの?」

呆然とした、しっくりこないなんとも力の抜けた声で随分と阿呆なことを言ったと思う。隣にいた政宗も表情失くしてるし。辺りは喧騒に包まれているはずなのに、私達の周りだけやけに静かに思えてきた。

「……Is a head all right?」

なに、その哀れみの目は。哀れんでくれなくてもいいよ、自分で分かってるから。

「だって私の腰に手ェ回してるじゃない? アンタじゃなきゃ、誰だっていうのよ?」
「What?」

政宗も写真に目をやり、私の腰にある謎の手を睨みつける。ってなんで睨みつけてんの?

「オレの女に手ェ出すとは……死にてェらしいな、こいつは」
「政宗……」

………ちっがーう! ここはときめく場面じゃないぞ、きゅんとするな私の心臓! 嬉しいけど、それは後にとっとくんだ……って意味分かんないしッ!

「……けど妙なんだよな。手は見えても、誰もいないぜ?」
「へ? まぁ確かに誰もいないんだよね。誰もいないから政宗かなって思ったんだけど」
「オレの腕はに、ほ、ん、だ。三本もねェ」
「そりゃそうだ。じゃあ残る可能性は……」
「Ghost」

そう、それ! それしかないよね。よくあるじゃん、心霊写真とかさ。多分これもその類のやつじゃないかと思ってたんだよ。

「っていやァァアアア!? なんでよりによってこの写真なの、せめて他のやつにしてェェ! 政宗だけのやつとか、政宗だけのやつとかァァ!」
「なんでオレ限定なんだよ!?」

けどそんな簡単に心霊写真なんて写るもの? ああいうのって心霊スポットとかに行かないと写らないんじゃないの!? それともアレか。この学校には昔処刑場だったんだよ的な忌まわしい歴史があったりするのか!?

「………って待てよ。ねぇ政宗、前にもこんなことなかった?」
「An?」
「遠足のときにも心霊写真騒動があったじゃない? あのときは佐助と元親先輩のイタズラだったって分かって、二人を制裁と称してボコボコにしたよね、アンタ」
「Yes じゃあ今回のこれも、あの猿の仕業ってことか?」

元親先輩はこのとき次の競技に出場していたはずだから、ここにいるはずがないので除外する。となると佐助しか残ってない。……さ、佐助のヤツ、後で見つけて必ずシメる! 前の制裁よりも更に激しいものをお見舞いしてやらァ!

「けどこれ、猿の仕業じゃねェぜ?」
「……どゆこと?」
「猿もオレと一緒の飴玉に出場してたんだよ。オレと真田の次だから、このとき丁度走ってる頃だろ」

じゃあ……この腰の手は、どなたの手なんですか? 怪談といえば夏、なんて常識は今日限りで打ち切りたいと思います。

完