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読書に季節は関係なし

秋―――人によって様々なことを連想させる、ちょっと不思議な季節。食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋など、種類は本当に豊富である。そしてこの時期、全国の学校では生徒にある課題を言い渡すことが多い。その名は、読書感想文。

「って今は秋じゃなくて冬だよ! 秋ならまだしもなんで冬に読書感想文なわけ!? 秋にやっても流行らないけど、冬にやったらもっと流行らないじゃん!」
「流行らないことを垢塗れになるまでやるのがteacherだろーが」

秋といえば読書の秋ですがそれは冬でも当てはまると思うのです。どうせ寒いからという理由で部屋に引き篭もっているみんなには、本を読んで、来週感想文を提出してもらいます。という先生の提案で読書感想文を書く羽目になったのがつい先日のこと。……いまどき読書感想文ときたか、それも無茶苦茶な理由で。私的には読書の秋というより食欲の秋なんだけど、それは乙女としてどうかなと思う。

特に私の席の後ろで本を読んでいる幼馴染の政宗に聞かれりゃ、「Ha! そんなことばっか言ってるから太るんだよ」なんて言いつつ、セクハラ一歩手前のことをやるに違いない。もしかしたら「なんだったらオレがdietに協力してやろうか? お前は何もしなくていいんだよ。オレだけを見て、オレだけを感じてりゃいいんだウンタラカンタラ」……と、あの腰にくる低い声で囁いたりするのかもしれない。うわ、なんかそんな光景を難なく想像できてしまったあたりヤバイんじゃないか、自分。

「で、あんたはさっきから何を読んでいらっしゃるんですか?」

私と会話していても目は文字を追っていて、私と目を合わそうとしない。真剣な眼差しで本を読む政宗……なんかカッコイイじゃん。こいつ、案外メガネとか似合うかも? 今度かけさせてみようかな。そんで写真とかこっそり撮ってさ(なーに、適当に言い訳すりゃ騙されるって!)、売ったりしたらいい小遣い稼ぎにならないかな?

「……オイ」
「へ!?」

まずい、考えていたことがバレたのか? しかしそんな私の心配は杞憂に終わったようで、政宗は「顔、近ェぞ」とぶっきらぼうに言い放つ。そんなに近いか?

「近いだろ」
「そ?」

まぁ下から政宗の表情を窺ってるあたり、一応これはかなりの至近距離なんでしょうね。だってこれくらい近づかないと政宗が何の本読んでるか分からないじゃない。そう言うと政宗は「そーかよ」と拗ねた口調で再び目で文字を追い始める。なんでそんなに拗ねるんですか。そしてなんで頬が薄っすらと赤いんですか政宗さん。

「で、何の本なの、それ?」

すると政宗は一気に疲れたような、呆れた表情で(ようやく)私と目を合わしてくれた。ただその目は蔑んでるというか、馬鹿にしてるというか……なんでそんな顔をされなくちゃいけないのよ。

「分からないのか?」
「分かるわけないでしょ!」

だってそれ、英語じゃん。どう見たって、どこから見たって、例え逆さに見たって洋書じゃない! どっちかというとお馬鹿(だってテストの成績とか、下から数えたほうが早いし)の部類に入る私の頭では、洋書なんてスラスラと辞書なしで読めるはずがない。……辞書があっても読めないけどっ!

「政宗はそれの感想文を書くの?」
「Yes まぁもう何回も読んでる本だからな。ざっと読むだけで内容は頭に入る」

「そう言う華那は何の本を読むんだ?」と政宗に訊かれた私は、フッフッフと呻くように静かに笑う。いきなり怪しく笑い出したものだから、政宗は怪訝そうに眉を顰めた。

「じゃーん! なんと私は既に感想文を書いているのでしたー!」

机の中から数枚の作文用紙を取り出し、政宗の机に叩きつける。彼もまさか私が書き上げていたとは思っていなかったらしく、「Really?」と訊き返してきた。なんかそれ、失礼じゃない? ペラペラとめくり、文字数ぎっしり埋まっているマス目を見て、「Hum……珍しく上出来だな」と褒める政宗に、私は「そうでしょ?」と鼻を高くした。

―――が。

「………What?」

今度はめくるのではなく、何を書いたのかちゃんと読んでいた政宗だけど、段々と目を険しく細めていく。作文用紙を握っている手も小刻みに震えていて、私は政宗に「どうかした?」と訊ねた。

「…………どうかした、じゃねェだろ。こりゃ一体なんだ?」
「なんだって……何が?」
「一体何の本読んだんだって訊いてんだ」
「何って―――電話帳に決まってんじゃん」

すると政宗はカッと隻眼を見開くが、すぐさま「ハァ……」と深い溜息をつき、体中から力が抜けたように項垂れる。その動作に私も腹を立てた。

「なっ! 電話帳ナメるなよ!? 読むのに一体どんなに苦労がいると思ってんだ!? 分厚いしみんな似たようなことしか書いてないし、全部読むのに何日眠れない日が続いたと思ってるの!? 途中何度も眠気に襲われ、そのたびにどこまで読んだか分からなくなって……。電話帳を読破する苦労なんて、きっと政宗には分からないのよ!」
「commonplace! 電話帳だからphone numberしか掲載されてねェし、どれも似たような内容になるのは当然のことだろうが! それに電話帳なんてモンは読むためのモノでもねェし、読むのに何日かかったかなんて知るわけがねェし知りたくもねェ! それになんだ、この感想は。鈴木さんという苗字が多く、高木さんは意外と少なかったって……。こりゃ感想というより検証結果みたくなってんじゃねェか!」

頼むから、そんな爽やかな顔でやり遂げた感を出さないでくれ。Reactionに困る……。読書感想文と言っても、人によって読む本は様々です。

完