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一生の思い出よりも一瞬の欲望

十代の男なんて、所詮こんなもん。―――秋。秋は何かと忙しい季節だと思う。食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋……。どうして秋だけこんなにも沢山あるのかと小さい頃は不思議に思っていた。小学校時代ではそれに乗じてか、本を読んで感想文を書いて来いと言われたり、絵を描いて学級コンクールを行いますとか(なんかしょぼくね?)、秋は感性が高まる季節なんだろうか?

しかしそれは高校生になっても変わらないらしい。秋のスポーツ大会とか学園祭とか、高校でもやっぱりイベントは豊富だった。小学校とは違い予算があるぶん、至る箇所に金がかかっている。けど私にはそんなこと、どうでもよかった。何故なら高校生活最大のイベントが間近に迫ってきていたから……なんだけど。

「かったりィよな……団体行動とか」
「そうそう。準備するのも大変だし、時間行動が第一だから落ち着くこともできないしね。なにより何が悲しくて男と一緒に寝なくちゃなんないのさ〜……」
「俺なんてよォ、センコーに目ェ付けられた上、あのオクラと一緒の班だったんだぜ。感想文なんて「初めてオクラと寝食を共にするという貴重な経験ができました」だぞ?」
「うわ、ご愁傷様……。やっぱり光合成とかしたりした?」
「毎日朝日を拝んでたんだぞ!? 立派な光合成じゃねーか?」
「頭からポンっと花の芽が出たりしないのかなー、なんつって」

………さっきからこの調子だった。お昼休みの屋上では政宗と佐助、それに元親先輩がとても面倒臭そうな口調でこんな会話を繰り広げていた。訂正、声だけじゃなく顔もです。やる気を感じさせない表情で大儀そうに会話している姿は、駄目人間そのものだ。おいおい、うら若き十代の少年達よ……そりゃないでしょうに。

「ちょっとちょーっと、そこのお三人方! 私は楽しみにしてるんだから、そんな顔と声で人の楽しみを削がないでよね」

さっきから何の話をしているかと言いますと、二週間後に迫った修学旅行のことなんです。元親先輩は去年行っているので、ただの感想ですね。ここにいる男子共は行きたくないようで、さっきから「行きたくない面倒臭い」的なことを愚痴っていたのだ。そんな中、私だけすっごく行きたくて、今からすっごく楽しみにしていた。別に行き先が楽しみというわけじゃない。そこに至るまでの過程と、友達と一緒に過ごすっていうことが楽しみなのだ。

そこに至る過程というのは旅行準備のことで、友達と一緒に服や鞄を買いに行ったりすること。一緒に過ごすっていうのは部屋での馬鹿騒ぎのことだ。夜、先生の目を盗んであれこれするのはとても楽しい。枕投げとかも楽しいよね。先生の気配を感じたら一斉に隠れるの、あれは本当に面白い。妙なスリルがあり人を興奮させる。なのにこいつらは!

「修学旅行が終わったら、残るイベントは受験しかないんだよ? 高校最後にして最大のイベントなのに、面倒臭いと言いやがりますかあんたらは」
「Be taken as a mater of course 何が悲しくて野郎と一緒の部屋なんだよ。一体なにを楽しめって言うんだ!?」
「そうそう。女の子の部屋に忍び込むとか女風呂覗くとかしか楽しみがないもんねー」
「………ま、政宗サンに佐助サン、何を仰っているの?」
「健全な野郎の意見だろうが。華那と一緒の部屋なら喜んで行くけどな」

や、健全な男子高校生の意見なんだろうケドさ。なんとなーくわかるけど、でもでも女の子の前でサラリと言うか? こういうのってさ、女の子に隠れて相談するもんでしょ。それとも私は女じゃないと、同性だと思われているからこんなことを言ってたりするのでしょうか? 色々とありえない、死ねお前ら。

「さっきからグチグチ言ってるけどさ、最後には必ず「男とつるみたくない」って言ってるよね。要するに男同士が嫌なだけだよね?」

すると三人は大きく首を縦に振る。もはや下心を隠す素振りも見せないよ。

「華那もこの俺と一緒の部屋がいいに決まってるだろ?」
「全然、一緒がいいなんてこれっぽっちも思いません」

一緒の部屋になんかなったら、何をされるかわかったもんじゃない。政宗と一緒の部屋になったら……色々とヤバイことになりそうだもん。

「第一、一緒の部屋になったらなったら何する気?」
「そりゃ決まってんだろ? Make lov……」
「いい、やっぱ言わなくていいッ!!」

サラリとヤバいことを言い出した政宗の口を慌てて塞ぐ。佐助は苦笑しているだけ、元親先輩は込み上げてくる笑いを堪えるのに必死。笑ってないで助けてくださいよ。よくわからないけど何故か偉そうな顔をしている三人に、私は「はぁ〜」と深い溜息で返した。もう呆れて何も言えません。

「なぁ、華那の部屋は何号室だ?」
「へ、私!?」

政宗の突然の質問に声が裏返る。どうしていきなりそんなことを訊くんだろう。だって男子と女子の部屋は階が違う。男子が三階で女子が四階。私が何号室かって知っても意味がないのに。

「私は六百八十三号室だけど?」
「六百八十三だな。よし!」
「ちょいまて、なーにがよしなんだ政宗クン?」

嬉々とした表情でガッチポーズをしている政宗の肩を、ガシッと後ろから掴む。それも爽やか過ぎる笑顔を貼り付けながら。

「私の部屋を訊いて何するつもり?」
「決まってんだろ―――夜這いだ!」

そんな自信に満ち溢れた顔で言わないでください。キラキラと爽やかオーラを放たないでください。これは単に気持ち悪いだけだけど。

「なァに堂々と夜這い宣言かましてんだエロ宗ェェエエエ!」

叫びつつ政宗の頭部に拳骨を一発ぶちかます。それに乗ずるように、佐助が掴みどころのない声でとんでもないことを言い出した。

「そうだよ旦那。そういうのはこっそりやるもんでしょーに。ついでにオレサマも混ぜてくれると嬉しいなー」
「Shit! なんでサルも一緒なんだよ!?」
「だって旦那ばっかり華那ちゃん独占してズルイじゃん? こういうのはみんな平等になるべきだと思うんだよねー。大丈夫、オレサマ三人でも平気だよ?」
「誰がテメーなんかにこいつをやるか! そもそもいきなり三人はマズイだろ!?」

何がヤバイのかわからないし、三人でも平気って何が平気なの?

「あれ? ひょっとしなくてもまだなの、おたくら?」
「文句あんのか?」

政宗の鋭い隻眼が佐助を射抜く。対する佐助はケロッとした口調で言葉を続けた。

「いや。意外だなーって。竜の旦那、手ェ早そうだし」
「ほっとけ猿飛。多分アレだ、本気だから手が出せないってヤツじゃねぇの?」
「意外と純情なんだねー」
「華那のvirginは俺が奪う。他の野郎なんかにみすみす渡すか!」
「…………私を間にしてヤバイ会話するなァァアアア!」

まぁ健全な十代の男子の頭なんて、煩悩の塊みたいなものだしね。とりあえず夜寝るときは鍵でもかけとこうかな。けどこいつらなら壁を這ってでも来るような気がするのは気のせいでしょうか……?

完