中編 | ナノ

豪華に着飾るべし

政宗の思考はまるで読めない。それは昔も今も変わらない。だから時々、こいつの行動の意味が全く理解できないときがある。

「…………政宗サン、何ガシタイノカワカリマセン」

しばらく車を走らせて到着した場所は、私の想像を遥かに越える場所だった。あ……本当に運転巧かったです。運転する横顔に見惚れてしまったなどとは口が裂けても言えませんが。意外なほど安全運転で辿り着いた場所は(てっきりハンドル握れば性格が変わるかと思っていたのに)、高級そうなお店が何軒も立ち並ぶ、所謂お金持ち御用達のショッピング街。そこのとあるブティックの前で、私は呆然と立ち尽くしていた。

先を歩いていた政宗が、いつまで経ってもやってこない私に痺れを切らしたのか、気だるそうに首だけ振り返り「早くしろ」と捲くし立てる。いや、だってねぇ……場違いじゃないですか、私。こう、外観からして普通のお店と違うんですもん。私が普段よく行くお店じゃない、入るだけで一庶民は臆してしまうようなお店なんですよ。入り口からとてつもなく高慢な威圧をうけているような気分だ。貧乏人は入ってくるなー的な。なんでこんなお店に連れてこられたのか。政宗の一連の行動がますますわからなくなりました。

「―――いらっしゃいませ、伊達様」

勇気を出して(政宗に脅されて)中に入ると、私の庶民の心はさらに打ちのめされた。小奇麗な格好をしたお兄さんお姉さん達が、政宗を挟むように並び頭を下げたのだ。―――それも恭しく。

その一連の動作、格好を見て、このお店の接客レベルに驚きを隠せない。私が普段行くお店でこんな接客をしてみろ、似合わなさ過ぎて笑えてくる。客の層というかターゲットが違うから、仕方ないことだと思うけど。政宗の服装はスーツ。店員さん達もシックなスーツを着ている中、私だけがジーパンにジャケット。それだけで十分に居心地の悪さというものは誘えるようで、無意識に政宗の背中に隠れようとしたら、彼の手が私の腕を掴み強引に前へと押し出した。こ、こんなボロい格好をした私を晒すか普通!? 少しはオンナゴコロっていうものをわかってほしい。

「連絡はしておいたはずだ。色はそうだな……青がいい」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」

沢山のお姉さん達に促され、私は店の奥へと連れて行かれそうになる。連絡はしておいたってどういうこと。これから私の身に何が起こるの!? 急に怖くなった私は政宗に縋るような視線を投げる。すると彼は笑いながら、早く行けとでも言うようにシッシと手を振るだけ。

「せいぜい綺麗に仕立ててもらうことだな」
「はぁ? 意味わかんないし」

が、政宗が言った言葉の意味をすぐさま理解してしまった。連れてこられたのは俗に言うVIPルームみたいなところで、沢山のドレスが並べられていた。他には靴に化粧道具、アクセサリーなど、お洒落には欠かせない物は全て揃っており、それら全てが高級そうな代物ばかり。うおお、キラキラと輝いてる……! 貧乏性なのか、頭の中で総額いくらになるか考えてしまった。おそらく、一生手にすることができない金額はすると思う。

「……では早速ご試着していただいても構いませんか?」
「へ、これ私が着るの!?」

素っ頓狂な声を上げると、お姉さんは優しい笑みを浮かべた。その笑みには逆らえない何かを感じる。笑顔な人ほど腹が読めない。

「伊達様が青色と仰りましたので、こちらで青色のドレスをご用意させていただきました。何か気に入った品はありますか?」そのさっきから気になってたんですが、「伊達様」ってなんですか。なんでお客の名前を知ってるんですか。ドラマや映画でしか見たことがなかった世界が、どういう経緯を辿ったのか私の身に降り注いでいる。

ごめんなさい。なんかごめんなさい。こんなド庶民にお金持ちと接するような接客をさせてごめんなさい。ただ政宗の連れってだけでVIPルームに入っちゃってごめんなさい。心の中で何回も謝ってた。肩身が狭いことへの裏返しだ。

「どうかされましたか?」
「い、いいえ!」

まさか生まれて初めての経験に怯えてます、なんて言えっこないし。とりあえずドレスを選ばないことにはこの空間から逃れることはできない。早くドレスを選ばなきゃ。色々と見た結果、私の目に入ったのは胸元に大きなバラがあしらわれたミニドレス。肩はレースみたいな素材でできていて、そこから薄っすらと素肌が見え隠れする。これなら足のラインがくっきりでることもないし(だってフワリとしてたから!)、私のような貧相な体をしたやつでも大丈夫だろう。言ってて虚しくなったけど。

「では次はアクセサリーと靴、それにメイクですね」

ドレスに着替え終わった私を待っていたのは、さらなる地獄だった。着ていた服は袋に入れてくれると言ったので心配はないが、こんな高そうなドレスを着させてどうするつもりだ政宗よ。だって生地からして明らかに違うってわかったから。触った感じが今まで触ったことがないような手触りだった。ヤバイ、これ予想以上に高いかも。

「って……え、ええ!?」

お姉さん達の突然の行動に、私は奇声を上げてしまった。色々なアクセサリーと靴を持って私に付けていくんだよ。ってこのアクセ、宝石っぽいものがあるんですけど。高校生に宝石はないだろう……って靴くらい自分で履くってば。履かせてくれなくて結構ですってば。どっかの貴族じゃないんだし! 

挙句髪型も勝手に弄られていく。ドレスに似合う髪形にするんだって言ってくれたけど、何もかもしてもらうってすっごく気が引ける。アクセくらい自分で付けるって言ったら、「お客様がそのようなことをなさらなくて結構ですよ?」と断られちゃうし。昔のお姫様ってこんな感じ(もしかするともっと凄い)なのだろうか。とにかくされるがままの私は、ただただお姉さん達の無言の圧力に屈するしかなかった。

続