ジーザスジーザスジーザス!!! | ナノ


「……で、本当のところはどうなんだ?」

小次郎と別れ、政宗と一緒に帰路についているときだった。突然そんなことを訊かれても、何に対しての本当のところかわからず華那は首を傾げる。

「食事会のことだよ。小次郎が言ったことは本当なのか?」

政宗の言いたいことがわかり、華那は「あー……」と間延びした声を漏らした。

「まあだいたいは合ってる、のかな。私の父が小次郎君の伯父さんに私のことを話したらしくて、どういうわけかその話が小次郎君に伝わった……らしいよ」

相手のほうはともかく、こちら側は本当に何も知らないのだろう。少なくとも小次郎が政宗の弟と知っていたら、華那の父が彼を交えての食事会など許可しないからだ。父は未だに政宗を嫌っていて、彼との交際を反対し続けている。

「……そういやさっきから気になっていたんだが、なんだよその小次郎君って」
「別に変じゃないでしょう?」

そういうわけじゃねえんだが。と内心でボヤいても鈍い華那に伝わるはずもない。そもそも華那の口から自分じゃない男の名前を聞くだけでも面白くないのに、その名前が自分の嫌いな男の名前ならさらに面白くない。というか胸糞が悪い。

おまけに今の華那は普段の彼女と違い、可愛らしいドレスを纏い、うっすらと化粧までしていた。いくら本人の意思ではないといえ、小次郎と会うためにそこまでしたのかと思えてくる。面白くない、非常に面白くないのだ。

「どうしたの政宗?」
「いや……」

華那が鈍いのは昔からでもう治らない。政宗は心を落ち着かせるために長い溜息をついた。こんなことでいちいち腹を立てて噛みついてもキリがないし、自覚がない彼女に文句を言っても自分が疲れるだけなのだ。

やはりこの女は非常に疲れる。普段ならこんな面倒な女は即刻縁を切るのだが、惚れた弱みなのか、どんなに痛い目に遭わされても手放せない。そのまましばらく無言で歩き続けると、華那の家が見えてきた。

「送ってくれてありがとう、政宗」
「別に構わねえよ。だが今日言ったことは忘れるんじゃねえぞ」

小次郎には近づくな。小次郎には気をつけろ。伊達政宗としてでなく伊達組当主としての忠告だ。華那も政宗の真剣な言葉に気づかないわけがない。どうしてそこまで言うのかわからないところも多いが、こういったときの政宗の言葉は無条件に信じられる。何より自分の身を案じての言葉なのだ。疑う余地はない。

「わかった。これからは気をつける」

迷いのない返事に少し安心したのか、政宗は柔らかい笑顔を浮かべた。最後に唇が触れ合う程度の短いキスを交わし、二人は別れたのだった。

***

ドレスから普段着に着替え終わってしばらくしたのち、玄関のドアが開く音とともに父の「ただいまー」という声が二階にまで響いてきた。階段を少し降りたところから玄関を見下ろすと、ほろ酔い気分の父親が靴を脱いでいる最中だった。

「マイスイートハニー!」

華那の姿を見つけた父は聞くだけで鳥肌ものの寒い言葉を、階段から覗き込んでいる娘に投げつけた。案の定華那は一瞬で北極に放り投げられた気分になる。寒い、寒すぎる。あの政宗でさえこんなことは言わないぞと内心で呟いた。

そして華那はひそかに決意していた。それはホテルでこっそりとした決意である。実の娘を気絶させ、着たくもない服を着せられ、参加したくない食事会に参加させられたのだ。父親を一発殴らないと気が済まない。

華那は勢いよく階段を駆け下りる。目標は顔が緩みきっているほろ酔い気分の父親だ。彼女の目は既にターゲットをロックオンしている。そんな娘の心情を知るはずのない父親は、階段を駆け下りてくる娘を、両腕を広げて待ち構えていた。自分の胸に飛び込んでおいで! そんな感じだった。華那は最後の一段でおもいっきり跳躍し、ドロップキックを父親の顔面に叩きこんだのであった。

完