所詮この世は不公平でできている | ナノ

どんなに祈ってもカミサマは公平でした

政宗の後を尾行しようとこの計画を決行したのに、なんでこんな場面に遭遇しちゃったかな。

***

あれこれ訊きたがっていた遥奈だったが、そこで丁度チャイムがなり席に着くことになった。ガラリというドアの開く音とともに先生が現れ、遥奈も「あとで色々教えなさいよね!」とだけ言って自分の机へと戻っていく。

「ったく、しつこい女だ。……どうした、華那?」
「…………別にィ」

さっきから同じことしか言っていない自分に気付く。私は政宗と隣同士。訊こうと思えばいつでも訊ける距離だ。だからこそ、今はそれが苦痛に思えて堪らない。変に近すぎて、政宗の気配をいつでも感じられるこの距離がイヤ。いつもなら………むしろ嬉しいって思えていたくらいなのに。悔しいけど安心してたんだよ、あんたが隣にいるってだけで。

でも今は政宗の目を見ることができない。政宗の声を聴きたいとも思わない。私が口を開けば、きっと嫌な言葉しか出てこないと思う。本当に「嫌われても仕方ないよね」と思える言葉しか浮かんでこない。

頭では、「そっか、あんたもついに女の子と付き合うかー、いやーオメデトウ」。と、祝福してやりたいと思うけど、口を開けば出てくるのはそれとは間逆のことばかり。頭と心が別物のような気分だ。どんなに頭ではオメデトウと言いたくとも、それを心が拒否しちゃってるんだもん。きっと……心のほうが本心なんだろう。

駄目だ、こんな気持ちじゃとてもじゃないけど落ち着かない。政宗の隣ってだけでも十分爆弾抱えてる気分なのに、ますます酷くなる一方だ。何よりこんな自分が嫌になる。…………席替えとか、しないかなァ。

「今日は前々からお前達が言っていたことを叶えてやるぞー」
「えー、なんなの先生ェ?」
「俺達の希望だよなー。もしかして実力テストが中止になったとか!?」
「そんなわけあるか!」

消沈の私のことなんか露知らず、先生とクラスメイト達はなにやら盛り上がっていた。会話を全然聞いていなかった私には、なんで盛り上がっているのか見当がつかない。

「今日は席替えをしたいと思う! 有難く思うようにっ!」

なんですと? 席替えするって言ったよね、先生っ! 席替えとはいつもドキドキして楽しいイベントだが、今回はいつにもまして嬉しいという気持ちが大きい。政宗と離れられる、それがまさかこれほど嬉しいとは。

「Shit! めんどくせェと思わねェか、華那?」
「そ、そうか……なァ?」

政宗と目を合わせることがなんだか怖くて、私は不自然に目を泳がせてしまった。あんたと離れられるならどこでもいい。みんなが嫌がる一番前とか(先生が近い)、一番後ろとか(プリント集めるの面倒臭い)気にしないから! どこでもいいし誰でもいいから、政宗と離れさせてくださいカミサマ。

信じていないカミサマに一心不乱に祈りを捧げる私って典型的な日本人だ。外国みたいに絶対この人っていうカミサマを信仰する習慣がないこの国では、自分達に都合の良いイベントがあると、その日だけそのカミサマに祈りを捧げたり便乗してお祭りをする。かく言う私もその一人なわけで、私の願いを聞き入れてくれた世界中のカミサマに感謝の意を述べたいと思います。

席替えの方法は公平でくじ引きとなった。先生が事前にせっせと作ったのか、箱には小さく折られた番号が書かれたくじが入っている。それを席順に順番に回していくというものだ。潔くパッと選ぶ者、何度も箱の中をかき回しゆっくり選ぶ者、一度引いたくじを戻してやっぱりこっちにすると言う者……くじ引き一つでそれぞれの個性が出るなァ。

「はい、音城至さん」
「ありがとう……」

そして前から箱が回ってきて、ついに私の番となった。私はこういうとき迷わない性質なのだが、今日は違う。今日は政宗と離れるという重大な目的がある為、いつも以上に時間をかけて慎重にくじを選ぶ必要性があるのだ。ごそごそと箱の中身を引っ掻き回す。その後じーっと数あるくじを見て吟味する。最後は直感的にこれだ! って思うものを力の限り引くのだが……。

「……あ、あの、音城至さん?」
「シッ! 黙って……!!」

私の後ろの席の男子が早く回してくれとさり気なく催促する。しかし私はそれどころではなく(余計な邪念は捨てなくては!)、箱を見ながら鋭く小さな声で叱責する。迫力に負けたのか、後ろの男子は「…………は、はぃ」とシュンと項垂れてしまった。どうするどうするどれにする!? これか!? いや、やっぱりこっちか? いやいや、これも捨てがたい………。

「Make it early! 後ろが支えてンだよ!」
「あだっ!?」

私がなかなか決めないものだから、政宗にグーで頭を殴られてしまった。しかも今朝殴ったところと同じ箇所だった為に、なんだかさっきの痛みも思い出したような気がする。なんか殴られてばっかじゃないか、私?

「ったく往生際が悪いンだよ、華那は。なんならオレが引いてやってもイイぜ?」
「や、それだけは遠慮したい! えーと……こ、これっ、これでいいから!」

直感が大事とかあれこれ言ってたくせに、政宗に引かれてたまるかという一心で適当に一枚のくじを手に取る。……嗚呼、折角ゆっくりと慎重に引こうと思っていたのに。その後、政宗はどれでもいいようでサッとくじを引き、箱はどんどん回っていく。全員が引き終わったところで、くじを開けて中に書かれた番号を確認。

「……私はっと、二十一番か」

書かれていた番号を黒板に書かれている座席表の番号と照らし合わせ、自分の席が決まる。私はグランド側の窓際、後ろから二番目の席。日当たりもいいし、グラウンド側の窓際だし、なかなかいい席を引き当てたようだ。あとは政宗がどこの席か、これにかかっている。

「政宗はどこの席だった?」
「オレか? オレは……二十二番だな。華那は何番だ?」

二十二番……ってことは、うそまさか!? 私は政宗のくじと黒板を忙しなく交互に見る。座席表で二十二番と書かれている場所はグラウンド側の窓際、一番後ろ。つまり―――私の後ろ。

「私は……二十一番」
「Oh! てことは、オレの前の席か……また近いな、オレ達」
「………うそん」
「オレと華那は離れられない仲ってことか? ククッ……」

……そういうことは彼女に言え!

続