所詮この世は不公平でできている | ナノ

だってやっぱり好きだもん

九月五日―――テスト当日。しかし私がテストを受けることはなかった。あれほど嫌がっていたテストが急になくなったというわけではない。学園の生徒達の祈りが神様に届き、叶ったというわけでもない。テストは行われたのだ。ただ、私がそのテストに参加できなかっただけである。

「………くしゅん!」

時刻はお昼の一時をまわったところ。テストは午前中までなので、生徒達は帰路に着いている頃であろうか。何が悲しくて布団の中でゴロゴロと転がっているんだろう。これが自分の家のベッドならまだいい。よりにもよってどうして人様の家……もとい政宗の家の客間なの!?

昨晩、政宗によってプールに投げ込まれた私は見事に風邪を引いた。今朝には熱があったものだから、結局政宗ンちで療養する羽目になった(ヤクザに脅されては逆らえません)。政宗ンちの客間って無駄に広い。政宗の部屋だけは無理を言って洋風にリフォームしたらしいが、それ以外の部屋は全て和室。当然、私がいるこの部屋も和室だ。だだっ広い部屋に布団が一つ。虚しい、虚しいんすよすごく!

「―――大人しく寝てたか、honey?」
「寝てましたよー……お願いだからハニーって呼ばないで、余計に悪寒が……」

すっと音もなく襖が開いたと思いきや、学校が終わったらしい筆頭のお帰りです。せめて「入るぞ」の一言くらいほしいと思います。突然すぎてびっくりしますし、仮にも私は女の子ですよ。生着替えの最中だったらどうすんだこいつ。

「テストどうだった?」
「このオレだぜ? perfectに決まってんだろ」

あらまぁ、相も変わらず自信がおありで。

「ただなんか屋敷全体がソワソワしてるっていうか。落ち着きがないというか浮かれているというか……なんかめでたいことでもあるの?」

今朝から屋敷全体がソワソワと動き回っていた。リーゼント頭の人達なんてそこら中を駆け回ってたし。ほんと、何かあるのか?

「あー……それは、だ」

どういうわけか残念そうな顔つきになった政宗。そういえば昨日も明日は何の日だって訊いてきて、私が「石炭の日」とか「ルイルイの誕生日」とか言ったら拗ねたような顔したっけ。うーん、さすがに良心が痛むなぁ。もうそろそろからかうのはやめて、素直になろうか、自分?

「なーんてね。今日は政宗の誕生日だもんねー。みんなパーティーの準備かなんかしてるんでしょ?」
「―――!? 華那、お前覚えて……?」

そ、そんな目を見開くほどのことじゃないでしょ。もしかして私って信用されてなかったのか? 私だってさー、政宗の誕生日くらいちゃんと覚えてるっつの! ただ……プレゼントは用意してないけど。そう言ったら「Why?」と聞き返された。う、プレゼントくらいでそんなに怒んなくてもいいじゃんか、金持ちのくせして。

「だって何あげていいか分かんなかったんだよ! 政宗のことだから、ほとんどの物持ってそうだし。私なんかがあげる安っぽい物なんかより、もっと高価なプレゼントとか貰うはずだし……」

あれれ? なんで私泣きそうになってんの? 俯いて政宗に顔を見られないようにしているが、声が震えてきてるのでおそらくバレている。なんでかなー、どうしてこんなに惨めな気持ちになっているんだろう。でも私なんかがあげる物より良い物を貰っているのも確かなことで。私の他に「おめでとう」と言う人達も大勢いることだろう。

みんなと同じ「おめでとう」なんてイヤ。みんなより劣るプレゼントなんてあげたくない。ああもう、こんなことばっかり考えてたせいでテストがあるってこと忘れてたんだ。夏休みはずっと政宗の誕生日どうしよーということばかり考えていたんだから。私の夏休みを返しやがれ。

「……………誕生日おめでとう、政宗」
「thanks」

政宗の指が私の顎に触れる。ひょいと上を向かされ、否応なしに政宗と視線が交わった。今の私はどんな顔をしている? が、そんなことを考える余裕を奪われてしまった。何が起きたのか分からなかったけど、私と政宗の間に距離がないってことだけは上手く回らない頭でも理解できた。

ゼロ距離―――もう何も考えられそうにない。ああ、またキスされちゃったよ私。もう少し抵抗とかすればよかった。唇が離れ、なんだかちょっと淋しいと思ってしまった。もう少しこうしていたかったなとか柄にもなく思ったり、なんならもう一度……と、欲深いことまでも考えてしまう。

そんなことを考えていたときに政宗が耳元で「愛してる」なんてことを囁いてみろ。いくら私だって、限界というものがあるんだよ。つーかお前の誕生日だろ、これじゃあなんか逆じゃないか? こういうときは私があんたに告白するんじゃないの?

ああもう、グダグダ考えるのは性に合わないんだよ。言葉で伝えるとか苦手なんだ。やっぱり私は直球思考の持ち主みたい。言葉よりも―――態度で表したほうが素直になれる気がする。だから今度は―――私から政宗にキスしてあげる。

「やっと認める気になったのか?」
「悔しいけど認めてあげるよ。私はあんたのことが大好き。正直あの女の子に嫉妬した。政宗に近づく女の子全てに嫉妬してた」

そう言うと政宗は「最高のbirthday presentだぜ」と、私を自分の腕に閉じ込めながら満足そうに呟いた。

完