ホスト連載 | ナノ
おにいちゃんは真剣に悩んでいるんです!

それはまだ政宗が大学生だった頃の話である。同じゼミの長曾我部元親とは何かと気が合い、よく一緒につるんで行動することが多かった。政宗には珍しく、一緒にいて飽きないタイプだ。構内を歩いていた政宗は後ろから元親に呼び止められ、一体何の用だと怪訝な表情を見せた。しかし彼が呼び止めた理由の検討はおおよそついている。

「おい聞いたぜ政宗。お前また女と別れたらしいじゃねえか」

………やはり予想通りだった。一体情報源はどこにあるのやら。元親は政宗が付き合っていた女と別れたという話を毎回嗅ぎつけてはやってくる。

「これで何人目だ? そんなに女をとっかえひっかえしてると、いつか背中を刺されるぜ?」
「これでも一応選んで付き合っているからその心配はねえ。そんな性質の悪い女を相手にした覚えも、するつもりもねえよ」

どこか楽しげな元親とは裏腹に、政宗の態度はげんなりとした、投げやりなものだった。つい最近まで付き合っていた女の話なのに、もう興味がなくなったとでも言うのだろうか。たしか今回も女のほうから告白してきて、政宗が別れを切り出した。付き合うところから別れるところまで、政宗は毎度同じパターンの繰り返しである。

自分から告白して付き合うことになった彼女ではないので、別れた後もそれほど執着していないなどとふざけたことを抜かしやがったら問答無道で張っ倒してやるところだ。
政宗と違い元親はここ数ヶ月の間、彼女がいた記憶がない。単なる僻みと言えばそれまでの話である。最近の政宗は特に変で、告白されて別れるまでの期間が、約一ヶ月と非常に短かった。最短だと一週間もつかもたないかというレベルになる。

「そんなに女をとっかえひっかえしていやがると、まるで付き合った全ての女に本気じゃねえみたいだぜ」
「………本気じゃないねえ。ま、言われてみればそうかもな」
「どういうことだ?」

政宗の思わぬ言葉に元親は食いついた。そんな彼を政宗は横目で見ながら、何かを考える仕草をする。しばらく考えた後、滅多に見せない真剣な表情で「笑うなよ?」と念押しまでし始めた。あの政宗がこんなことを言うなんて、一体何を言うつもりなんだろう。その気はなくとも、元親はごくりと生唾を飲み込んだ。

「オレ……ロリコンかもしれねえ」
「あ?」

今コイツハ何テ言ッタンダ? オレ、ロリコンかもしれねえ。オレ……ロリコン。―――ロリコン!?

「ロリコンー!?」
「ばっ、声がでけえ!」

政宗は鋭い声で叱責しながら、掌で慌てて元親の口を塞いだ。

「わ、悪ィ。いやだってよ……いきなり何を言い出すと思えば……プッ」
「だから笑うなって言っただろうが! オレは真剣に悩んでんだよ!」

それは元親も気がついていた。最近の政宗はよく考え込むことが多い。何か悩みであるのかと周りの連中も心配しているくらいだ。当然その中には元親も含まれている。しかし無理に聞きだすよりも、政宗の口から話してくれるまで待とうと決めていた。それなのに、まさか肝心の悩みがオレ、ロリコンかもしれねえ……だったとは。真剣に心配していたこっちの身にもなってほしい。

「けどよ、なんでいきなりロリコンかもしれねえって思うようになったんだよ?」

元親の勝手なイメージだが、政宗が今まで付き合ってきたタイプは、見た目だけなら可愛いよりも綺麗、美人といった言葉がよく似合う女が多かった。
思い返してみても可愛いというタイプの女はいない。そのため政宗は綺麗系の大人びた女が好みだと元親は勝手に思い込んでいた。それとは真逆にあたるロリコンという要素は皆無である。

「……たかが中学生のガキが可愛く思えてしかたねえんだよ。立派なロリコンだろ?
「中学生だァ!? 成程ねえ、たしかにそりゃロリコンだな」

元親が笑いながらそう言うと、本気でショックだったのか政宗の落ち込みっぷりは相当なものだった。政宗の周辺だけ闇に包まれた、そんな錯覚さえ見えたほどだ。

「おい、いくらなんでも中学生に手を出そうとすんじゃねえぞ? さすがに犯罪だぜ」

政宗の落ち込みっぷりを見て彼の本気度を垣間見た元親は、真剣な口調と眼差しで政宗を諭した。すると政宗は凄まじい形相で元親を睨みつけてきた。お前オレをなんだと思っていやがる。政宗の目はこう物語っていた。これにはさすがの元親もたじろいで、慌てて冗談だと付けたす羽目になった。

「……試しに色んな女と付き合ってみたが駄目だったんだよな。アイツのことが頭から離れねえ」
「アイツって……その中学生のガキのことか?」
「ああ……」

つまり政宗が今まで付き合ってきた女は全て、自分はロリコンじゃないと証明するために付き合っていただけだということなのだろうか。その中学生の少女が好きという自分を受け入れることができず、試しに大人びた女性達と付き合ってみるも、結局その少女のことが頭から離れず、結果として政宗は付き合ったり別れたりを繰り返していた、ということになる。そんなことをずっと繰り返していたせいで、政宗もついに自分がロリコンだと認めざる得なくなったのかもしれない。

「昔っからオレにひっつきまわっていたガキなんだが、最近急に色気づき始めてな……」

最初は妹ができたような感覚だった。何かあれば真っ先に自分を頼ってくれることが嬉しかった。無条件に自分を受け入れ、慕ってくれることが純粋に嬉しくて、政宗もついついあの子に構うようになっていった。が、ある日を境に、時折彼女は少女ではなく女の顔を見せるようになった。本人は気づいていないと思う。きっと男だから小さい頃からずっと彼女を見てきた政宗だからそう見えただけかもしれない。それでも彼女の女の顔は、政宗に新たな感情を芽生えさすには十分な威力があった。

「たしかに女って急に変わるよな。ちょっと前までガキだと思ってたら、いつの間にか十分女していやがるぜ」
「まさにそれだな。いつの間にか化粧まで覚えて、服装も段々大人びてきやがる。中学の制服が辛うじてガキっぽさを残しているくらいだ」

聞けばその少女とは五歳差らしい。大学生と中学生、たしかにこうしてみるとロリコン臭い。しかし冷静に考えてみればたかが五歳差だ。大人になってしまえば五歳差なんて気にもならなくなる。それどころか、五歳差の夫婦なんて山ほど存在しているのだ。

「気をつけろよ。女の成長はまじで早いからな。政宗が言うそのガキも、あっという間に成長して、お前が驚くくらいの良い女になるかもしれねえぞ」
「成長するならするで、さっさとしてほしいぜ。いくらなんでも中学生じゃあんなことやこんなことができねえからな。これじゃあ生殺し状態だ」

さっさと大人になってもらわねえと、なんにもできねえじゃねえか。いやでも手を出しちまったらこのオレが正真正銘のロリコンになっちまうよな!? そんなことで真剣に悩む政宗に元親は同情の眼差しを向けたのであった。

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