頂き物(小説) | ナノ

綺来原さまから

「いやぁ―――!」

華那の声がした。しかも大きい。
俺は読んでいた本とかけていた眼鏡をはずし、隣の家を眺める。
結構…声大きかったよな、俺の家まで聞こえたし。
いくら家が隣だからって、普通は声は聞こえないだろう。いや、あれは声と言うより叫びに近かった。
大丈夫だろう、と思いつつも(華那はすぐ叫ぶから)何かあってたら大変だと思い、様子を見に行こうと今まで座っていたソファから立ち上がる。
…その時だった。

俺の家のリビングの扉が勢い良く開き、人らしき影が飛び込んでくる。
そして、その影は俺に近づいてきて…俺に抱きついて止まった。

「…おい、その服なんだよ。しかもクリーム付いてるぜ」
「そこ!?私の心配…っていうか来た理由を聞いてくれてもいいんじゃない!?」
「Reason…?…聞いてやろうじゃねェか…」
「本当!?…あのね、出たんだよ…アレが」
「アレ…?」
「頭文字がGのやつっ!」

華那はそう叫んだ後、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
あぁ、コイツは昔から虫が嫌いだったよなァ…。この年になってもそれが変わらないのかよ…。少し呆れながら俺は華那を見下ろす。

「くだらないとか、まだ虫が嫌いなのか、とか思ってるんでしょう?」
「当たりだ、よく分かったなァ…」
「いかにも、思ってますーって感じの顔だったもん!今まで、伊達に幼馴染してませんー!」
「そうか…でも、この季節にねェ…Ha!お前、ツイてないよなァ、あまりこの季節は出ないはずなんだぜ?」
「でも…出たんだもん」

華那の今の服装はエプロン姿だ。しかもクリーム付き。
大方、クリスマスも終わったのにケーキでも作っていたんだろう。
コイツは甘いものが大好きだからな。…ったく、作ったって誰が食べるんだよ。
どうせココに持ってきて「一緒に食べようー!」とか言い出すつもりだったんだよな…きっと。まぁ、それはそれで成実は喜んで食べそうだが。
けど、製作途中にアレが出てきて、焦ってココに来た、ということか。

「ねぇ、政宗!聞いてるの?今すぐ私の家に行こう!そしてアレをやっつけてー!」
「お前の親やあのシスコン兄貴はいないのかよ?」
「居たら部屋から速攻呼び出してお兄ちゃんにやっつけてもらってますー!居ないから政宗の家に来たのにっ!」
「居ないのかよ…」
「さぁ、行こう!今すぐに。だって、急がないと逃げちゃうじゃない!」

そう言って俺を引っ張っていく華那。
今から行っても、もう遅いと分かりつつ、「ったく、しょうがねェなぁ」と、華那に大人しくついて行ってやる俺は華那に甘いという証拠だよな。
きっと俺は、華那が弱みになってしまうのだろう。
愛しさも、恋しさもすべて、コイツが俺の心を独り占めしているんだから。

Sweet Sweet Princess