頂き物(小説) | ナノ

恭夜さまから

どういう経緯でこうなったのか、頼むから誰か一から十まで解説付きで説明して欲しいと、本気で思う今日この頃。隣を楽しそうに笑いながら確りと歩いてきている彼女の姿を見るたびに、どうしようもなく重く深い溜息が腹の底から零れ落ちそうな状況に陥る。賑やかで人通りがある歌舞伎町のとある街道で、オレは憎たらしい程に青い蒼い空を、睨みつけるように仰いだ。

それは久しぶりの休日の日から始まった。ここ二週間ほど、根気詰めで休みが一切無かったオレにとっては久しぶりの休日で、やっと羽根の伸ばせる日がやってきたと心中は喜びに満ちていた。

仕事の忙しさと同時にあまり構ってやれなかった恋人である華那へも、この休日に会いに行こうと考え、アイツの好きな食べ物を買いに行く時間を考慮した上での起床時間を決めたりと、休日をどう過ごそうかという計画を仕事中に頭の片隅で密かに思案しながら、それでも休み前日の仕事を着実にこなしていた。そうして待ちに待った休日の早朝、要らぬ電話がオレの携帯に掛って来たのが事の始まりだったなと、今思えばあの時何故その電話を取ったんだと後悔の念に苛まれる。

上司である近藤さんからの呼び出しを無下に出来なかったオレは、少しだけ時間を割くと決め向かい、何故アンタが居るんだと云いたいこれまた上司である松平のとっつぁんに捕まったのが運の尽きだった。呼び出した話の内容は、前にも一度聞いたことのある話。詰まるところ彼の溺愛している娘の松平栗子が働いているバイト先で、彼女にアプローチを掛けている同僚達を諦めさせるというものだ(本当は抹殺してくれとかいう物騒な事を平然と云いのけていたが、此処は何とか考え直させた)。

親馬鹿と名高い彼ならではの話に、面白がって悪ノリした近藤さんと総悟の計三名を止めるため、仕方なくオレが動いたのだが。それが何をどう間違えたのか彼女に惚れられ、遂にはデートまでする事になってしまった。

正直の話、間違いや誤解が生んだ結果であっても、この様な行為を恋人である華那に聞かせる、或いは見せられる筈も無い。この前の休みは結局その話で大半を費やし、その日華那に会う事など出来なかったのに、その間にこんな事になっていました等と口が裂けても云えない(云ったら間違いなく嫌われるか或いは半殺しに合うこと確実。その上、華那自身が傷付くことは明白だった)。結果、華那へ知られる前に彼女を諦めさせる必要があった。

だが、純情とも思える彼女を傷付けることなく断るにはどうしたらいいのか、全くもって案が浮かばない。面と向かって「オレには大切な奴がいる」などと直球に云っては彼女を傷付けてしまう。かといって彼女に優しく接し過ぎると、更なる誤解を生む可能性だって高い。前にも後ろにも動けないこの状況を打破するためにと頼んだのが、あのムカつく野郎が営む万事屋だった。だが、彼等が提案した内容は心の度量が大きい(といっていいのだろうか不明だが)彼女には何にも通用しなかった。

(どうしろってんだよ、本当に)

今でもこの傍から見たらどう見ても最低と云えようデートプランを、喜び無邪気にはしゃぎ楽しむ彼女はある意味大物だと心底思っていた。後方を付いてくるあの野郎含める三人も、その部分には納得している様子だって見せている。多分、華那に同じような事をしようとするなら、はっきりと「頭、大丈夫?」と云われていただろう。やっているオレが云うのもなんだが、こんなことをやられたら絶対に引いている。

「綺麗な夕陽でございまするね、マヨラ様」

結局、何も良い結果を残せないまま、ズルズルと引き摺るように一日の大半が過ぎてしまった。一本木の下で、空を茜色に染める夕陽を眺め感嘆の吐息を洩らして呟く彼女の隣で、オレは力ない相槌を打つことしかできなかった。そんなオレの態度にも気にすることなく、彼女はまた楽しそうに、嬉しそうに一人淡々と語っていた。

その姿を横眼で見ながら、静かにゆっくりと彼女から離れ近くの茂みへと逃げ込む。そこには半分諦め、半分面倒といった表情をした万事屋の連中が座っていた。

「もう無理だ。オレはもう知らねぇ。オレは逃げる」
「逃げるって…でも土方さん」

精神的に最早限界に近かったオレは、半ば投げやりの言葉を吐くほどに追い詰められていた。その姿を目のあたりにした志村は、オレの心境を悟ってかあまり強くは云ってこない。華那との関係を知っており、尚且つ一番に考慮として考え、最善の案を提案していたのだが、その全てがこと如く空振りしている。もう自分では打つ手なしと思った彼はそれ以上励ましも何も云えなかったのだ。

「別れて逃げれば女なんて三日もすれば忘れるアル。ここはハッキリ云うべきネ」
「そんな身も蓋もないことを…」

チャイナ娘に至っては、現実的で最終手段と云える提案しか出さない。女は傷付いた分だけ強く大きくなれるというが、それを今オレがやるのは流石に不味い。そもそも付き合っていない(とオレはずっと思っている)奴に、面と向かって別れるような台詞が云えるはずもない。それに下手をして、松平のとっつぁんの耳に入った暁には鉛弾の雨霰が降り注ぐだろう。

「ったく、なんでオレがこんなことに巻き込まれなきゃなれねぇんだよ…!」

最早愚痴でしかないその言葉を、しかし云わずには居られなかった。やはり最終手段を取るしかないのか、と悩み苦しむオレをずっと黙って見ていた野郎は、しかし静かに口を開く。

「…お前、華那の事本気で好きなのか?」
「…あ?」

唐突に、一体野郎は何を言い出すかと思えば…。そんな言葉を野郎に云おうと顔を上げ、しかしその言葉は出ることなく呑みこんでしまった。目の前にいた野郎には、いつものようなふざけた表情はなく、ただ真剣にオレに問いかけていた。中途半端な答えなど求めていない、ただオレ自身の本音を云え。そんな風に語る野郎の姿にオレも、ただ静かに、しかし確りとした声で答えていた。

「ったりめぇだ」
「………そうか。なら、アイツの為にも一肌脱ぐとしようかね」

その言葉には、何か別のものまで取れたような感覚がした。現に野郎の顔はスッキリしたというか、晴れやかな表情を映していて、その姿に、何となくだが察してしまったオレは、やはり野郎と根本的な部分が似すぎているのだろうと、ただ一人で納得し、ただ一人で苦笑していた。野郎はただ、オレの覚悟を確かめたかっただけなんだ、と。

「お前ら、準備しろよ」

重たい腰を上げながらかったるそうな音色で、それでもシャンとしている野郎の姿に、ムカつきと嫌味の意味合いも込めて、ただ鼻で小さく笑っていた。

+ + + + +
 
日中の昼下がり。人通りもそこそこある歌舞伎町の中心街にあるとある甘味処の中、私は前の席に座る友人が興奮して騒いでいる姿を、頬杖を付き目の前のにあるメロンパフェを口に運びながら聞き流していた。

「だから、アンタにとってすっっっごく重要な情報なんだってば!!」
「へぇ。そうなんだ、凄いねそれは」
「聞く気ゼロよねその反応。完全に棒読みだもんね、目線なんかメロンパフェしか見てないもんねっ!?」

そりゃ、誰だって目の前に自分の好きな食べ物があったらそこに釘付け、或いは夢中になるものだと思う。けど、私は敢えてそれを云わず、ただ黙々とメロンパフェを頬張っていた。

仕事であるバイトが休みだった今日の朝、ぐっすりと夢の中へ旅立っていた私を現実世界に引き戻したのは、目の前の友人が掛けた一本の電話だった。一体何の用なのかと、眠たい目を擦りながら携帯に出たところ、この場所へ何時に来てという何とも短い誘い電話だった。折角の休日なのだからもっと寝かせて欲しいと願いを口にしたところ、友人がパフェを奢るという言葉一つだけで動いたのは、ご愛敬ということで。

それで友人と合流したのが十分ほど前。それから中に入るや否や、メロンパフェを二つ頼んだことに突っ込みをいれられたが気にせず、またちゃっかり二つを奢らせることを約束させたのがつい先程だった。私的には、目当てであるパフェにありつけたのだから最早用はなかったのだが、友人はどうやら自分が仕入れた情報を公開したくてウズウズしているようだった。どちらかというと友人のこの手の話には、私は苦手だった。

何せ、無駄に焦らして無駄に長いのだ。今も尚焦らそうと一生懸命遠回りな言葉ばかり並べている。私は単刀直入に云って貰いたいわけで、結局友人から手っ取り早く話を聞き出すには、無視するのが一番だと知ったのは随分昔のことだった。
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「はあ…。わかった、アンタにはやっぱり直球しかないわね」

やっと諦めて本題に入るようになった友人は、しかし今度は右脇に置いていた鞄から携帯電話を取り出すと、カチカチッと何かの作業をし始めた。一体何の情報を得たというのだろうかと、小さく首を捻っている私の目の前に、その作業が終わったらしい携帯の画面を見せつけるように目の前に翳した。それはそこに表示されている何かを見ろと云っていることを理解した私は自然そちらに視線を持っていき、そして数秒間、固まっていた。

「これ、アンタの彼氏でしょ?」

私の反応に満足気な表情を見せた友人を、これほどまでに殴りたいと思ったことは、多分今まで無かった。それほどまでにムカつく表情をしているのだが、その表情をさせたのは間違いなく私である。そのために、何も云えずただそこにある画像を見ることしかできなかった。そこに写るのは、夕陽の中、一本の木の下に佇む一人の女性と、マヨネーズの被りモノを被った、私の知り合いにして……私の恋人。十四郎の姿が確かにあった。

「華那、この事知ってるのかなあと思って聞いてみたかったの」

勿論、こんなシーンなんて記憶に一つもない。寧ろ彼がこのようなふざけた格好をするなど、オタクの霊を浄化するとして動いた時以来見たことがない。人違い、という線も考えられるが、悔しいが彼を見間違えるような眼を私は持っていなかった。

+ + + + +

結局、松平のとっつぁんに彼女とのデートがバレ、結果大量の書類整理を捌かなけらばならなくなった。折角休日前に終わらせた仕事が倍になって返ってきた事には、重く深い溜息しか出てこなかった。せめてもの救いは確り別れを告げてあるということで、銃弾豪雨に襲われることはなかったことだった。

「ったく……結局アイツにも会ってねぇってのによ」

自室に篭ってどれぐらい経っただろうか?やっと半分ほど捌ききった頃には、部屋の窓から差す光は紅く、外が夕暮れ時であることを知らせていた。休憩がてらにと、一服吸おうと煙草をくわえ火を付けたと同時に、背後の障子が開く音がした。部屋に入ってきた気配に覚えを感じ、反射的に振り返ったそこには、つい先程まで愚痴を零してまで会いたいと思っていた華那の姿があった。

「相変わらず、部屋で篭り作業なのね。十四郎って」

クスリ、華那は楽しそうに小さく笑う。その表情はとても綺麗でいつもは好きな表情なだけに嬉しく頬を緩める筈なのだが…何故か、その笑みを見た瞬間、頬がヒクリと引き攣った。障子を静かに閉め、丁寧に正座をしたその姿を目で追っていたが、別に異変はない。いつもと変わらない華那そのものだ。だが、纏っている気配が、僅かに違う気がした。そう、云うならば―――…。

「ねぇ、十四郎」

静かだった室内に、凛とした華那の声が響く。その言葉に返事ができないオレに気にすることもなく、ただ淡々と何かの作業をしてた。取り出したのは、華那愛用の携帯電話。数回、カチカチと何かの作業をした後、それを両手で握りながら下に向けていた顔をゆっくりと上げてオレへと向けた。それはもう、素敵なぐらいに『笑顔』と云える笑顔を浮かべて。冷や汗が、背中を、頬を伝う。いつの間にか張り詰めた空気は冷いような、痛々しいほどの棘が混じっていた。

「これ、一体何?」

そう云って差し出された携帯の画面に映っていた画像に、オレが硬直したのは云うまでもなかった。

結局、豪雨を避けるのに必死だったオレは、そこに交じっていた大振りの雹への対策は不完全だったことは、確かだった。

END

あとがき
BOSEI様から頂いたリクエスト『114話の土方に恋人がいた場合』
ということで筆跡を進め完成した今作品。今回は 動画を見ながらの筆跡だったため、かなり時間が掛ってしまい、その割には、なんとも微妙な作品に仕上がってしまった気がしてならないです。 動画に釘付けになって手が進まないという、なんとも間抜け極まりない落ちが多かったことは、確かです…(苦笑)銀魂、 や漫画はいつ観ても・読んでも楽しいのです。楽しいのです(大事な事なのでニ回云いました)。結果、この様に妄s……ゴホン。想像する力が強くなり広がっているのです(←誰に説明してるんだ、それ??)
リクエストして下さったBOSEI様、私の技量ではこの様な小説しか書けませんでしたが、良ければどうぞ貰ってやって下さい。機会がありましたら、気軽にまた参加していただけると嬉しいです。本当にありがとうございました。BOSEI様以外お持ち帰り禁止です。
管理人:蒼神恭夜