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宮古さまから

「私とマヨネーズ…どっちを取る?」

今まさに私は正念場という奴を迎えている。
私の目の前には、ずっとずっと好きだった土方十四郎という男が普段開いている瞳孔をさらにおっ開げて私を見ている。

今がどんな状況かというと、私が土方に告白されて数分経った状態だ。
いや、嘘じゃないぞ。
マジだ、マジ。

急にメールが来たかと思えば、「屋上に来い」なんてまるで今からリンチするぞみたいな誘い文句で。
行ってみればなんか恐ろしい顔をした土方が一人。
そしてつかつかと歩み寄って、ガシッと肩を掴まれて一言。

「好きだ…!」

これにはさすがにキュンときた。
なんて男らしい…
そう思って「はい」と言おうとして、はたと思い出した。

『土方さんはマヨが原因で女と別れたことがあるんでさァ』

以前、私が土方のことを好きなのを知り、からかってきた総悟がこっそり私に耳打ちをしたことがある。
マヨネーズで別れるって、なんてアホらしいと思うが、自分が付き合ってマヨネーズが原因で別れるなんて死んでもごめんだ。

マヨ溺愛の土方のことだ。
大方、「彼女よりマヨのほうが大事だ」みたいな発言でもして、女の子が涙ながらに別れたのだろう。

だから聞いてみたのだ。
私とマヨネーズ、どっちが大切なの!的な感じで。

「お前…何言ってんだ?」
「だから、私とマヨネーズ、どっちを取るの?」
「あ?」

訳がわからないという風に土方は首を捻る。
その仕草は可愛いが、今は気にしない。
本当は頭撫でくり回したいけど、気にしない。

「あのね、総悟から聞いたの。土方は昔、マヨが原因で女と別れたことがあるって」
「…あの野郎」

土方はため息をついて、ポケットから出した煙草に火をつけた。
様になっているからなんかムカつく。

「だから、マヨネーズ如きで別れるくらいなら最初から付き合わない方がいいかなって。終わりが見える恋なんてやだもん」

マヨネーズであっさり壊れるくらいなら、今のままでいい。
虚しいじゃない。
浮気とか心変わりなんかじゃなく、モノのせいで別れるって。

私はマヨネーズで別れた彼女の二の舞にはなりたくない。

「…お前は俺が嫌いか?」
「はぁ?好きだから言ってんでしょ。ずっとずっと土方が好きだったから、アホらしい別れなんてしたくないの。てか、付き合うんなら別れたくないの!」

なんて恥ずかしいこと言ってんだ、自分…
でも、これが私の本音なのだから仕方がない。

そんな私とは裏腹に土方は安堵の表情を浮かべていた。

「なんだ…安心した」
「は?」
「振るときの常套句かと思った」
「バカだね、違うよ。振るならもっと潔く振る。それより早く答えてください」
「あー、お前かマヨネーズ取るか、だっけか。ンなもん決まってんだろ」

グイッと腕を引っ張られ、土方の胸に私はダイブする。
煙草の匂いが私の鼻を擽った。

「いつもスーパーで買えるマヨネーズなんかより、今ここにひとりしかいない、俺を想ってくれてる華那を取るに決まってる」

ぎゅっと身体を抱き締めながら言われた言葉に、不覚にも骨抜きにされてしまった。
応えるように土方の背に腕を回し、顔を擦り付ける。
土方の体温がじんわりと伝わってきて、言いようのない愛しさを感じた。

ふん…マヨネーズめ。
ざまぁみろい!

「……土方」
「あ?」
「大好き大好き大好き」
「あぁ、俺もだ」
「幸せにするからな!」
「そりゃ俺の台詞だ」

二人でくすくす笑って、鼻の頭を擦り寄せ、軽いキスをする。
土方はすごく優しい顔をしていた。

……ねぇ、土方。
本当に……本当にアホらしいことなんだけどさ。

私がもし、マヨネーズに妬いてた、って言ったらどうする?
「アホだな」って笑う?呆れる?

…まぁ、今はとても幸せだから…

このアホらしい感情は腹の底にしまっておくことにしよう。

誰より私がいちばん!

(てかなんでマヨネーズで別れたの?)
(あ?あっちが土方スペシャル見てあり得ねぇとか言うから別れただけだ)
(…あ、そうなの…)

実にくだらない理由ですね。