リクエスト | ナノ


二人の距離感

どこの世界にも高嶺の花というものは存在する。極々身近なところだと婆娑羅高校三年一組の一組の男女がそれに当てはまる。女の名前は音城至華那。成績も外見もそこそこ良く、人懐っこい性格から学校ではそこそこ有名人だ。

男の名前は伊達政宗。全てにおいてパーフェクトという、こいつ本当に人間か? という疑念が過っても仕方がない男だ。この二人は幼馴染で、その付き合いはとても長い。付き合いが長いからこそ互いの長所、短所は明け透けで、正直嫉妬に近い感情を抱きそうになる。

「音城至さんって伊達くんと仲がいいよね?」
「………どうしてそう思うのですか?」
「え、だって二人の会話ってなんだか入り込めない何かがあるっていうか……。やっぱり幼馴染なんだーって思わされるときがたまにあるもん」
「私はそんなつもりはなかったのですけれど……もしかして不快な気分にさせてしまいましたか?」
「ううん、そんなことないよ。ただちょっと羨ましいなって思っただけ」

お昼休み、仲の良いクラスメイト達と昼食を食べていたとき、このようなことを言われた。華那からすればあれのどこが仲の良い会話なのだろうと不思議に思っているわけだが、そんな彼女のことなどお構いなしにクラスメイト達は話を続けていく。

彼女達はみんな政宗に好意を抱いている子達だ。恋は盲目というのか、彼女達からするとただ政宗と話ができるだけでも羨ましいと思えるのだろう。言われてみれば政宗の傍には特定の女の子という存在がいない。そんな中華那だけが政宗の傍に居続けていることができていた。まるで自分だけは特別だと言われているような気がして、嬉しかった。どうして嬉しかったのかと訊かれればわからない。

女の子が勇気を出して告白しても、そのたびに彼は断り続けていた。どうして付き合わないの? と以前訊いたことがある。そしたら彼は「なんとなく気が乗らねえ」とだけ言った。あれはどういう意味だろう。まさか何十、何百もの告白を、気が乗らなかったという理由だけで断り続けたとでもいうのかあいつは。さすがにそれは無理がある。何か他の理由があって断り続けているはずなのに、彼は本当の理由を幼馴染の華那にすら話そうとしない。

私にくらい話してくれてもいいじゃない……。何故かそう思うと、胸のあたりがチクリと痛んだ。

*** ***

「政宗って音城至さんと仲がいいよな?」
「………なんだよ急に」

お昼休み、仲の良いクラスメイト達と昼食を食べていたとき、このようなことを言われた。あまりに突然のことだったから、政宗は不審者を見るような目つきでそいつを見てしまった。仲が良いと訊かれても、果たしてあれが仲の良い姿なのか政宗は首を傾げたくなる。華那とは幼馴染で、小さい頃からなんでも言い合ってきた仲ではあった。

だが彼女の態度はとても冷やかなもので、政宗以外の人達には敬語で接し、どこかよそよそしい態度をとる。そのあからさまな態度の違いに何度も腹を立てたものだ。だが今は違う。今はその態度の違いを嬉しく思っていた。みんな同じように接するということは、みんな同じように見ていると言い換えることができる。同じ存在だと思っているからこそ、みんな平等に同じ態度で接することができるのではないか。彼女が嫌いな人間にも同じ態度で接していることを政宗は知っている。

ならば唯一その平等ではない扱いを受けている自分はどうだ。詳しくはわからないが、華那にとって政宗はただ一人、彼女の均衡を崩す存在なのかもしれない。そう考えると、非常に嬉しかった。自分だけは特別だと言われているような気がしたからだ。

昔から華那が好きだった。彼女の態度はとても素っ気なくて、何も知らない奴が見たら嫌われていると勘違いされることがよくあった。そのたびに何も知らない馬鹿の戯言か、と内心で皮肉ったものである。

「頼む政宗! どうやったら彼女と仲良くなれるのかその秘訣を教えてくれ!」

このとーり! と土下座をするクラスメイトに、政宗は呆れて何も言えなくなった。どうやらこいつは華那と仲良くなりたいらしい。彼女に好意を抱いていることは明白だ。冗談じゃない。これ以上敵を増やすような真似をしてたまるか。

「おいおい、いくらなんでも訊く相手を間違えてるって。こいつが普段音城至さんにどんな扱いを受けているか知ってるだろー?」

もう一人のクラスメイトが口を挟んだ。政宗が普段華那にどのような扱いを受けているか知っていたからこそ、このようなことを言ったのだろう。普段から素っ気ない扱い受けている政宗は、傍から見ると華那に嫌われているようだった。嫌われている相手に仲良くなる秘訣を訊くのは間違っている、このクラスメイトはそう言いたかったのだろう。

「それもそっか、悪ィな政宗!」

ヘラヘラと笑いながらそう言ってきたクラスメイトの顔がやたらと憎らしくて、政宗は有無を言わさず顔面に強烈なパンチをお見舞いした。

*** ***

放課後、とくに何もなければ政宗と華那は一緒に帰ることが多い。今日もごく自然に一緒に帰ることになった二人は、互いに昼休みに起きた出来事を話しながらとぼとぼ歩いていた。

「華那と仲良くなりたいっつー野郎が一人いたぜ」
「奇遇ね、私のほうも一人いたわ、そういう子。政宗と仲良くなりたいんですって」

お互い興味がないといった口ぶりだった。

「けっこう可愛らしい子だったけど、どう?」
「どうって言われてもな……」
「また、気が乗らない?」
「まーな」

気が乗らないと言って政宗が他の女の子に興味を示さない姿に、柄にもなく安堵している自分がいることに華那は前々から気づいていた。だが気が乗らない理由がわからなくて、少しだけモヤモヤとした気持ちが残っているのもまた事実。せめてその理由を話してくれたら楽になれるのに、その理由を訊ねるたびにはぐらかされていた。今日も理由を訊ねたところではぐらかされるに決まっている。

「華那こそどうだ? お前と仲良くなりたいっつー貴重な男だぜ?」
「それはどういう意味かしら。でも私も政宗と同じ」
「気が乗らねえ、か?」
「ええ、まあね」

この素っ気ない態度が政宗には嬉しかった。周りからどう見られようが関係ない。彼女にとってこの素っ気ない態度こそ、特別な存在の証だ。周りがどう思おうと、これが二人の距離感。言葉にこそ出さないが、お互いが特別に想っている。今はただ、それだけでいい―――。まさか互いが内心同じことを想っているなどと知らない二人の日常は、特に変化もなく、今日も穏やかに流れていった。

完 

40万筆頭企画/蓮様
政宗学園夢
蓮様に考えていただいた夢主の設定は、名前は龍姫蓮。政宗の幼馴染で同い年。超高嶺の花。基本的に誰にでも敬語で接するが政宗には冷やかに話す、ツンデレな女の子。……というものでした