リクエスト | ナノ


スキ、だからキライ

目の前にあるものは、山のように高く積まれたアルバム達。あまりの量に信じられなくなった私は右へと視線を逸らす。が、そこにも沢山のアルバム達がドンッと構えていたものだから、私は驚きのあまり目を見開いてしまった。

慌てて今度は反対の左へ視線を移すが、そこにもやっぱりというかなんというか、山のように積まれたアルバム達がいたものだから、いい加減耐え切れなくなった私はついに悲鳴を上げてしまったのである。

「な、何なのよこの辺りを埋め尽くさんとしているアルバムの山は一体!?」

私のこの悲鳴に反応を示したのは、隣でそのアルバムをしげしげと眺めている成実であった。彼は一緒にいる良直さんと一緒に、次々にアルバムに手を取ってはなにやら楽しそうに話し合っている。

「何って見てのとおり、政宗に送られてきたお見合い写真だよ」
「お、お見合い写真……!?」

平然と答える成実に対して、私は内側からふつふつと怒りが込み上げてきていた。政宗はまだ高校二年生だ。それなのにお見合いって……いくら伊達組筆頭という肩書きがあるといっても、所詮はまだ子供じゃないか。沢山の会社を経営しているからお金もたんまり持っていそうだからといって、こんな子供にまで手を出しちゃうんですがお姉さま方は。み、見境というものがないのかしら全く。そもそも! 私という存在がありながらこういった物を送りつけやがるとはどういう神経をしていやがるんだ!? 

「これは私に対しての宣戦布告と受け取ってもいいのよね。よし、成実。蔵からちょっとヒト一人くらい簡単に殺せそうな武器を持ってきて」
「なんで俺が持ってこなきゃいけないんだよ!」
「なんか自分パシリですけど何か? 的な顔をしているじゃない。なるみちゃんって」
「そんな顔した覚えはねえし! つか華那、どうしちゃったんだよ」

どうしちゃったんだよ、ですって? どうしたもこうしたもないわ。成実が蔵から持ってきた武器で、このお見合い写真に載っている女達をちょっくら殺りに行くだけじゃない。どうして成実と良直さんったら、青い顔なんかしちゃっているのかしらね。

「とりあえず落ち着けって。確かにこれは全部お見合い写真だけど、政宗なら断るに決まってんだろ!?」
「そうッスよ。筆頭には華那さんっていう大事な人がいるんですから!」
「………そう言うわりには二人とも、随分楽しそうにお見合い写真を眺めていたわよね?」

私が鋭く目を光らせると、二人はビクッと肩を大きく揺らしやがった。成実はふよふよと視線を泳がせ、良直さんに至っては立派なリーゼントがゆさゆさと揺れているではないか。明らかに動揺を隠しきれていない二人に、私は「ハァ……」と短い溜息をついた。この私の反応を見て観念したのか、最初に口を開いたのは良直さんだった。

「いや、その……この写真に載っている女性方が綺麗なもんで、オレもこんな人を嫁さんに貰いてェなと思って」
「そ、そうそう! やっぱ政宗くらいの容姿となりゃ綺麗な女が寄ってくるからさー。俺達もこんな女性をお嫁さんにできたらなー……なんて」

……本当にそう思っていたんでしょうね? という疑いの眼差しを二人に向ける。二人は引き攣った笑みを浮かべながら何度もコクコクと首を縦に振っていた。

「ま、そういうことにしといてあげるわ。で、この写真の女性達って、政宗とはどういった繋がりがあるの?」
「ああ、ほとんどがヤクザの組長の娘さんとか、伊達組が経営している会社と取引している会社の繋がりかな。会社関係だと社長の娘やら孫が多いよ」

……親御さんとしては政宗と娘や孫を結婚させて、少しでも伊達組と自分達の繋がりを強固なものにしたいと考えているのかな。一昔じゃあるまいし、第一それじゃあ自分の子供の気持ちを無視いていることになる。本当に娘の幸せを願うなら、好きな人と結婚させてあげるのが一番じゃない。

「それがそうでもないんだよね。だから余計に性質が悪いっつーか……」

歯切れの悪い成実の言葉に首を傾げる。

「そりゃあこの写真に載っている女性達に好きな人がいるなら、好きでもない人と結婚したくないって向こうも縁談を破談させようと考えるかもしれない。でも大抵の人は見合い相手が政宗だと知るとその気になっちゃうんだってさ」
「………つまり親としては伊達組との仲をより強固にできて、娘からすれば顔もよくてスタイルもよくて、ついでに権力もある男と結婚できるから、双方ともに万々歳ってことォ!?」
「ま、そういうこった」

な、なんでこったい……。成実の話では例え相手の女性に好きな男性がいても、政宗の写真を見るなりお見合いします! って言ってしまうってことだよね。好きな人には「お見合いすることになっちゃったから別れよう」と言って、自分はお金持ちで美形の男と結婚する……なんとも酷い話である。

「でもほんと、みんな綺麗なんだよね。華那とは大違い。写真から知性が滲み出ているね、うん」
「何よそれ。どうせ私は馬鹿ですよ知性のちの字もないですよーだ!」
「華那さん、どうしたんスか? さっきから怒ってばっかりじゃねえスか!」
「ああ、大丈夫だよ良直。華那はただこの女性達に嫉妬しているだけだから」
「そ、そんなわけないでしょ! なんで私が嫉妬? いくら女性として羨ましいものを持っているからって、そんな嫉妬なんてするわけ……う、羨ましくないもんねー。ちっとも羨ましくないもんねーだ!」
「……こんなところで何やってんだ、お前ら?」

三人で騒いでいたら噂の張本人である政宗が現れた。彼は私達三人の姿を見るなり、少しだけその鋭い隻眼を丸くさせる。良直さんは政宗が現れたことで背筋を伸ばし姿勢を正したが、私と成実は今にも取っ組み合いのケンカでもする勢いで睨み合っていた。

「つか華那。お前うちに来てたんならオレに顔を見せろってんだ」
「だって今日政宗のうちに遊びに来たのは成実と遊ぶためだもん。政宗に会うためじゃないもーん」
「ンだとテメェ……。その生意気な口をオレが塞いでやろうか……?」

早くも政宗のこめかみに青筋が浮かび始めた。どうやら私の言葉が気に食わなかったようである。しかし私はそんな彼をあっさりと受け流し、それどころかプイッと明後日の方向へと顔を背けた。そんな私達のやりとりを見て、成実がさりげなく助け舟を出した。

「それより政宗。見てみろよこれ」

そう言って成実は沢山積まれているお見合い写真を政宗に見せた。政宗はうんざりした、どこか疲れたようにも見える表情を浮かべながら長い溜息をつく。その彼の表情で私はこういったお見合い写真が送られてくるのは、なにもこれが初めてではないと安易に想像がついた。

きっとこういったお見合い写真を何度も見せられているのだろう。そしておそらくそのたびに断ってきた。政宗からすれば何度送られても結果は同じだから、こうやってお見合い写真を見せられても困るという以外の感情は抱かないはずである。どうせ何を見せられても断るのだ。だったら見ても見なくても結果は同じ。もしかしたら見る時間自体無駄とすら思っているのかもしれない。

……それはそれで、このお見合い写真の女性達が可哀想だと思えてしまう。だってこの人達は政宗に気に入られるためにこうやって綺麗に着飾って、とっても素敵な笑みを浮かべているのだ。なのに見向きもしないと知れば……誰だって悲しくなる。しかしそんな気持ちを全く考えていないのか、政宗は冷たい一言を言い放った。

「ったく、アイツらもしつこいな。Hey 良直。この写真全部燃やしておけ」
「い、いいんですかい筆頭!?」
「ちょっと政宗、何も燃やすことはないでしょう!?」

狼狽する良直さんに「構わねえから燃やせ」と言い捨てる政宗に、私は思わず声を荒げた。だって折角こんなに綺麗なのに……。同じ断るとしてもせめて一度くらい目を通したってバチは当たらないはずである。まさか私が反対するとは思っていなかったのか、政宗は意外そうに目を丸くさせ私を凝視していた。

「お前な……オレには華那っつー女がいるんだぜ? 将来結婚するのも、オレのガキ産むのも、オレは華那しかいねえと思ってる。オレの横にいることができる女はただ一人だけだ。他の女共が入れる余裕なんてもうねえんだよ」

あっさりと言ってのける政宗に、成実は冷やかしの声を上げ、良直さんは「さすが筆頭ッス……!」と、わけのわからない感動で身体を震わせていた。さすがにこうもきっぱりと言われると私も恥ずかしい。私の意志など関係なしに頬が赤くなり、身体中が熱を持ち始めた。政宗がこう言ってくれるのはとても嬉しいことだけど、だけどね……。なにも成実と良直さんの前で堂々と言わなくてもいいと思うんだよね。

二人の冷やかしのせいもあり、いつも以上に恥ずかしくなってくるんだよ。政宗は当たり前のことを言っただけだっていうような顔をしているし、成実は変な冷やかしばかりしてくるし、良直さんなんて男泣きしているじゃないか。前の二人ならともかく、どうしてそこで涙が出てくるの?

「………必要以上にモテる政宗に私や成実の気持ちなんてわかるわけないよーだ」
「オレがモテるのは当たり前だからな。僻むのはお門違いってヤツだぜ華那」
「なんでモテない分類に俺も入ってんだよ! 俺を華那と一緒にするなよな!」
「しっ仕方がないでしょうが! どこの世界に好きな男が他の女にモテる姿が好き! なんていう奴がいると思うわけ? 腹が立つ以外の感情を抱けっていうほうが無理ってモンでしょ!?」
「そりゃただのjealousyだろ? いいじゃねえか、愛されているっつー証拠だろ? いやァオレは幸せモンだな。こんなに華那に愛されていたとは」

政宗は少しだけ頬を赤らめ、フッと優しい笑みを浮かべた。その笑みからは「喜び」という素直な気持ちが滲み出ているように窺える。邪な気持ちなど一切ない、純粋な喜びから溢れる自然な笑顔。そんな笑顔をされちゃ、私は口を噤むことしかできない。他にもまだ言ってやりたいことは沢山あったのに、何も言えなくなってしまう。ずるい―――。

「そんなcuteな顔で不貞腐れても、全く効果はねえんだよ。それどころかますますオレを惚れさすだけだぜ?」
「ひゃー、さすが政宗。俺には到底恥ずかしくて言えないセリフをあっさりと言いやがった」
「筆頭、華那さん……やっぱりお二人は最高ッス!」

もうこの際外野の二人は気にしないように心がけよう。今は目の前の政宗のことだけに意識を集中させなければ。今の彼には何を言っても、どんなことをしても無駄なように思えたからだ。目の前で優しく微笑む彼を赤らむ顔で睨みつけながら、私は半ば諦め、それでも素直に認めてしまうのは癪だったので、彼のおでこに頭突きを一発かましてやった。直後、彼の表情から優しい笑みが消え去り、いつもの肉食獣のような危険な笑みへと戻ってしまったことは言うまでもない。

完 

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政宗夢/幼馴染は伊達組筆頭シリーズ
頂いたリクエスト内容は幼馴染みは伊達組筆頭シリーズで「政宗に嫉妬する主人公」でした