リクエスト | ナノ


不器用同士ニ晴天アレ

伊達政宗。彼を現す言葉は色々ある。彼を好意的に見ている女子達は眉目秀麗、容姿端麗、才気煥発などと、どちらかといえば褒め称える言葉をよく言っていた。しかしただ一人だけ、そのような言葉を言わない女子が存在する。

政宗のことをバカ宗、エロ宗、ドS筆頭などという悪口しか言わない彼女は、政宗を己の天敵と認識していたのだ。その理由は至ってシンプルで、いつも自分に構ってくる政宗が鬱陶しいというものである。

華那の思考回路も厄介なもので、何故いつもちょっかいをかけてくるのかを考えないのだ。どうしていつもちょっかいをかけてくるのか、どうして追い払っても毎日ちょっかいをかけてくるのか、そこまで執着する理由が何かを考えようとしないのである。

「今日のケンカの理由は? 簡潔に述べよ」
「―――なんとなく!」

今日も今日とて派手なケンカをした。いつもなら口喧嘩で終わるところを、今回華那は政宗の右頬を力の限り引っ叩いた。そのため彼の右頬は、綺麗なほど真っ赤な手形の痕がくっきりと浮かんでいる。

そんな痛々しい政宗の姿を偶然見てしまった遥奈は、現在中庭にて元凶である華那に問い詰めていた。元凶から返ってきた答えは―――なんとなく。胸を張ってはどこか自信たっぷりと言う華那に、遥奈は頭を抱えてしまう。

「なんとなくじゃないでしょ。そんな理由は佐助だけで十分事足りているわ」
「本当になんとなくだもん。それ以上でもそれ以下でもないよ」

ぶーっと不満気に頬を膨らましている華那の姿は、男性の目からすると相当可愛く見えるのだろう。元々童顔である彼女は、こういった表情が男性にはウケるのだ。最も、そのことを華那は自覚していない。自覚していないからこそ自然な可愛らしさがあるわけで、普通にしていたらモテるのに、と遥奈は少々残念に思っていた。これで口が悪くなければ、と切実に思う。

「だってアイツ、いっつも私にちょっかいかけるんだよ? 今日なんて「俺と子作りしてくれ!」って言ってきたんだよ!? 会うなりいきなり、それも廊下のド真ん中で! 信じられない、今日はいつも以上に信じられない! なんであんな男が学校一モテるのよ!」
「いつもはどんなことをされているのよ?」
「まずよく触れたがる。頭撫でたり、髪をクシャクシャっとしたり、酷いときは後ろから抱きついてくる。なんかペットを構っているみたいな感じ!」
「………ペット、ねえ」

それはどう考えても、不器用な政宗の愛情表現ではないだろうか。そう言いかけた遥奈だったがぐっと我慢して飲み込んだ。政宗が華那を好いているということは、目の前にいる彼女以外が知っていることだ。が、政宗は告白をされたことはあってもしたことがなかった。そのためどうやって告白したらいいか、どうやって愛情を表現したらいいか、彼にはわからないのである。

元々かなり俺様な性格をしているために、何を言っても上から物を言っているように聞こえてしまうことも相俟って、愛を伝えるどころか逆に華那を腹立たす一方だった。先ほどの「俺と子作りしてくれ!」という言葉も、裏を返せば直情型の愛情表現の一種なのだが、哀しいことに、この積極的なアプローチは彼女に届かなかった。その他大勢の女子生徒達なら、そんなことを言われたのであれば、自分に気があると思い舞い上がるというのに、何故か華那にだけ通じないのである。

「だってアイツ無類の女好きだよ。誰にでもこういうコトしているんでしょ、どーせ」

女好きというより、来るもの拒まず去るもの追わずだけという気がしている遥奈なのだが、ここは何も言わないで限る。へたなことを言ってしまえば自分に火の粉が飛んできてしまう。しかし何も言わないのも政宗が可哀想だと思い、遥奈はやんわりと華那の発言に異を唱えた。

「けど彼がそういった行為をしている姿、私は見たことがないわよ?」
「それはあれだよ。人目を避けてもっとヤバイことやっているのよきっと!」

あくまで完全否定の姿勢を崩さない華那は、こう見えてかなりの頑固者なのだ。一度こうだと思ったら、なかなか自分の意見を撤回しない。

「それに話すといつもケンカ越しになるしサ」
「それは性格でしょう、お互い」

政宗ももう少し言葉で表せばよいものをと、遥奈は内心で溜息をついた。彼はどちらかと言うと言葉よりも態度で表す人間だった。でもいくら態度で表しても華那は全く気付かない。ここまで鈍い彼女には、はっきりと好きだと言ったほうが伝わるのではないかと思うのである。人間言葉で言わないとわからないこともあり、言わないと繋がる絆も繋がらないというものだ。

「………ここまで鈍いとは、幸村といい勝負ね」
「誰が鈍いの? 私はユッキーほど鈍くないよ」
「………そう思っているのも本人だけでしょ。例えば好きな人がいても自分の想いに気がついていないでしょ、アンタは」
「本当だって! だって私ちゃんと政宗のこと好きだもん」
「……………今、なんと?」

遥奈は思わず我が耳を疑った。気のせいか、華那の口から「好き」という単語が聞こえたような気がしたのが、きっと気のせいだろう。うん。そうだ、気のせいだと遥奈は自分自身に暗示をかける。

「だから! 私は政宗のことが好きだし、アイツの気持ちも大体だけど気付いてる」

どうやら気のせいではなかったらしい。遥奈は目を丸くさせながら、「だったらどうして!?」と声を荒げた。

「だったらどうしてあんな態度をとるのよ。好意を持って接してきている相手に、あれはないでしょう!?」
「だって………恥ずかしい」

聞き取れるかどうか微妙な小さな声で呟いた華那の顔は真っ赤だった。真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしいのか、彼女は目を吊り上げ口を尖らせている。

―――なるほど、そういうことか。全てを察した遥奈は困ったような笑みを浮かべた。華那の今までの態度は、全て照れ隠しのため。好きだけど恥ずかしい、だから素直になれずにあんな態度をとってしまう。

「華那って意外と不器用だったのね。知らなかったわ」
「うるさい!」

真っ赤な顔で凄まれても全然怖くない。それどころか逆に可愛いと思ってしまう。政宗と同様、華那もまた不器用なのだ。そしてきっと政宗は華那の不器用な愛情表現に気づいている。でも気付いてほしいと思う反面、気付かないでほしいと思う気持ちもある。この関係が気持ち良いから、それ以上になるのが怖い。もし一歩踏み出したら、この関係は暗転してしまうかもしれない。
だから、今のままでもいい。それでも―――踏み出したいと思う自分が確かにいる。
お互い好きという気持ちなら、時間はかかってもいつかは繋がるはずだ。遥奈はいつか二人が笑いながら並んで歩く姿を想像しながら、真っ赤になっている華那の頭を軽く撫でた。

「不器用同士に晴天あれ」

完 

30000HIT企画/寒天さまへ
政宗学園夢
頂いたお題のセリフは「俺と子作りしてくれ!」でした