リクエスト | ナノ


週末ディペンデンス

休みの日でも起床時間は朝の七時。仕事がある日だと五時や六時起きが普通なので、遅いと言えば遅いのだがそれでも休日で考えるとかなり早い部類に入る。普通ならここで「まだ早い」と二度寝などするところだが、彼女はそうではない。

そのままベッドから出ると、服を着替えて洗面所に向かい顔を洗う。サッパリしたところでリビングに向かい朝食を食べるのだが、ここで問題が浮上するのだ。彼女は、料理ができないのである。コーヒーくらい淹れることができるだろうと思ってはいけない。それすらもできないほど、家事に関しては不器用なのだ。

いつもなら彼女が起きる頃にはテーブルの上に朝食が並べられているのだが、生憎と休みの日となるとそうはいかない。彼女は髪を乱暴に掻き乱しながら舌打ちをする。そして足早にリビングを後にして同居人の部屋へと移動、そのままノックもなしにドアを開けた。

その部屋の中には、未だ夢という摩訶不思議な世界にいるであろう、スヤスヤとベッドで寝ている同居人の姿があった。彼女は同居人に近づくと、肩を揺さ振って起こそうとしたのだがふと思い止まる。このまま起こせばどうなるか。きっと五体満足でこの部屋を去れないことだろう。最悪の場合、生きてこの部屋を出ることも出来ないかもしれない。

故にこのまま肩を揺さ振るのはあまりに危険であまりに無謀。安全かつ短時間でこの敵を起こすにはどうするべきか? 敵前逃亡は決してしない。何故なら―――逃げたら朝食どころか昼食も食べられないのだ。おそらくこの同居人は自分の気が済むまで寝ているだろう。

「しっかし……どうやって起こすべきかしら?」

その一。布団を引っぺがす。その二。遠くから物を投げて起こす。その三。命を捨てる覚悟で果敢にも叩いて起こす。

「………駄目ね、どれも命の保障はないわ」

その一だと、意地でも布団を放さないだろう。凄まじい握力で、どんなことをしても握り締めていそうな気がする。その二だと、本能で物を避けるだろう。避けるどころか自分も物を投げてきそうだ。その三だと、朝から流血沙汰で病院に直行する羽目になるかもしれない。

ああでもないこうでもない。そんな考えを巡らせていたら、今まで目を閉じて眠っていたはずの同居人の目がバチッと開かれた。お互い至近距離で見詰め合うこと数秒。その間無言で瞬きすらしていない。微妙な沈黙が流れる中、先に口を開いたのは同居人の方だった。

「………さっきからじっと人の顔を見ていて楽しいか?」
「目が覚めていたのなら早く起きてよバカ宗」

朝に強いとはいえここまではっきりとした口調ということは、少なくともたった今目が覚めたというわけではないだろう。大方いつもの意地悪で、華那の様子を窺っていたに違いない。その証拠に政宗の顔には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

「そんなとこに突っ立ってないで、もっとこっち来いよ」

政宗は布団の中から腕を伸ばし、華那の腕を取り強引に自分のほうへと引き寄せた。バランスを崩した華那は、そのまま彼が眠っているベッドへと倒れこむ。政宗に覆い被さるように倒れてしまった華那の腰に手を添え、彼はグイッと強引に抱き寄せた。起き上がろうともがく華那はがっちりと抱え込まれてしまい、身動き一つとることができなくなってしまう。

「まだ七時じゃねえか……このまま一緒にもう一眠りといこうぜ」
「あたしはお腹が減っているの。さっさと起きてごはんを作ってよ」
「嫌だ」
「もう! また今日も朝ごはん抜きなの……。たしか先週も、その前の週も、同じことが原因で朝ごはん抜きだったじゃない!」

華那は口を尖らせながらも、こうなってしまっては政宗の意思を曲げることは不可能だということを知っている。彼が嫌だと言えば死んでもしないということは、もはや学習済みである。仕方がない、今日もお昼までごはんはお預けね。華那はぐー…っと鳴るお腹を我慢しながら、政宗に言われたとおりゆっくりと瞼を閉じた。

完 

30000HIT企画/匿名希望さまへ
政宗現代夢
頂いたお題のセリフは「もっとこっち来いよ」でした