リクエスト | ナノ


子供三人

「おお! おとーさんのやしきよりひろいな!」

郊外にあるショッピングモールに訪れた私と政宗は、駐車場ではしゃぐ蒼華を見てクスッと笑いあっていた。蒼華に感化されたのか、蒼もベビーカーから身を乗り出してキャッキャはしゃいでいる。

蒼華の言うとおり、このショッピングモールは郊外に建てられたこともあってとにかく広い。一日では全エリアを回りきれないほどだ。お父さんの屋敷、つまり伊達本家の屋敷より広いとわかるなり、さっきから蒼華はこの調子だった。蒼華にとって伊達の屋敷より広い場所はそうそうない。それは彼女の行動エリアが狭いせいだが、五歳の子供の行動エリアなんて高が知れている。故にショッピングモールではしゃぐのは無理もないということだ。

「そりゃそうよ蒼華。あんなものとここを比べちゃ駄目。お父さんが可哀想でしょ?」
「オレの実家はあんなものかよ……」
「ほら、お父さんもすっかりヘコんじゃっている」
「今のは華那のせいだろ!」

政宗の屋敷もかなり広い。しかしショッピングモールと比べるのは間違っているというものだ。子供はときどき純粋故に残酷である。

「ところでここでなにするんだ? おとまりか?」
「いくらここが広くてもホテルじゃないからお泊りできないわよー」

蒼華の本気か冗談かわからない発言(たぶん本気だと思う)はスルーして、私達は駐車場を後にしてモール内へと向かう。今日ここに訪れた理由は、蒼華がどこかに行きたいと騒いだためという、あまり面白くない極々普通のものだった。どこかへ行こうにも遠出するには微妙な時間だったので、急遽ここへ来たというわけである。蒼華からすれば車に乗って移動するイコール遠出になるので非常に楽だ。

「でもお泊り道具なら揃ってそうだし、警備員に見つからなければ案外本当にできちゃうと思わない?」
「それはただのかくれんぼだ。見つかったら不審者として警察に突き出されるぞ」

アウトドアの道具だって売っているわけだし、その気になったら一晩くらい泊まれそうな気がしなくもない。おまけに警備員に見つかってはならないというスリル付きだ。想像するだけでワクワクしてくる。

「おかーさん、あれはなんだ!?」
「あれはアイスクリーム屋さん……ってしまった……」

お洒落な外観をしたお店の前を通ったときである。まだ英語や漢字を読めない蒼華は、ここが何のお店か訊ねてきた。お店のたて看板にはおすすめのアイスが可愛らしいイラスト付きで書かれており、私は特に何も考えずアイスクリーム屋だと答えてしまう。自分の迂闊さを呪った。アイスクリーム屋だと答えればどうなるか、わかりきっているためである。

ちらりと蒼華の様子を窺うと、案の定瞳をキラキラと輝かせながらお店の中を覗いていた。蒼もアイスという言葉の意味をわかっているのか、蒼華と一緒で瞳を輝かせながらじっとお店を見つめている。いつもなら有無を言わさずそそくさとお店の前を立ち去るのだが、今日はおでかけ、遊びに来ているということが私を妥協させた。

「はいはい、わかりました。ただし一個だけだからね?」
「やったー!」
「たー!」

蒼華はチョコ、私は蒼が食べることも考えてバニラ、政宗はミントを注文した。蒼華は二段アイスがいいとごねたが、そこは断固として却下である。お店の奥にあるテーブルに座り、四人でアイスを食べることになった。しかし、大人しく終わるはずがない。

「はい蒼、あーんしてー」
「あー」

スプーンでアイスを少しだけすくい、蒼に食べさせる。仕方がないこととはいえ、蒼の口の周りはアイスでべとべとだった。ティッシュで口を拭っていると、蒼華の口の周りもべたべたということに気づかされた。私はアイスを食べることを放棄して、蒼華と蒼の口の周りを拭うことに専念した。

こうなることを予想してコーンではなくカップにして正解である。私がアイスを食べる頃には、既にアイスは半分以上溶けてしまっていたのだった。アイスを食べられて満足したのか、それ以降蒼華の足取りは軽かった。普段なかなか目にすることがない専門店を見るたびにはしゃぎ、正直よくもまあ疲れないものだと感心させられるほどである。何かあるたびに蒼華に「これは何?」と訊かれ、そのたびに私も答えていたらいつの間にかすっかり蒼華のペースに乗せられていたことに気がついた。

問題はこれだけではない。子供という生き物は油断も隙もあったものじゃない。片時も目を離すことができないのだ。ほんの一瞬なら大丈夫だよね? という悪魔の囁きにのってしまったら命取りになる。とある雑貨店を覗いていたときだ。可愛らしいものから綺麗なものまで、お手ごろな値段からちょっとお高いものまで、とにかく沢山の雑貨を扱っている店で、何かいいものはないかと物色していたときである。

「ねえ政宗。これなんてよくない?」
「Hum……そうだな、いいんじゃねえのか?」

蒼華の意見も聞こうと隣に目をやると、そこにいたはずの蒼華がいない。慌てて近くを探すと、少し離れた場所で高い場所にある商品に手を伸ばしていた。背伸びをしないと届かない高さにあるので、見ている限り蒼華のバランスは非常に危うい。身体がプルプル震えている。そんな状態で商品を取ろうとしたらどうなるか。商品はグラグラと揺れ動き、今にも落ちてしまいそうなほど不安定だった。

「こっちもなかなかいいと思うぜ……っておい、華那?」
「蒼華ーーー! ストップゥゥウウウ!」

政宗を無視して蒼華の傍に駆け寄り、グラグラと揺れていた商品をサッと支える。割れ物ではなかったとはいえ、乱暴に落としてしまうのはまずい。蒼華は上を向いたままボーっとしていた。何が起きたのかわかっていない様子である。

「上にあるものを取りたかったらお母さんに声をかけること。わかった?」
「う、うん」

もしこれが割れ物だったら……想像しただけで身震いした。高いものだったらどうしよう。弁償なんて恐ろしい! そんなお金うちにはありません!

***

帰りの車の中は行きと違い静かなものだった。はしゃぎ疲れたのか、蒼華と蒼が後部座席で仲良く眠っているからだ。二人の寝顔を窺いつつ、私は運転している政宗に話しかける。

「疲れた……子供とおでかけするのは楽しいんだけど、やっぱり疲れるわー。親になってわかる親の苦労。今度お母さんに何かプレゼントしようかしら……?」

自分が親になってみてわかることもある。私が今思っていることは、きっと私の母だって思ったはずだ。そう思うとなんだか迷惑をかけてごめんなさいっていう気持ちが生まれてきた。今度何かプレゼントしよう、本気で。

「そういえばどうしたの? 今日はやけに大人しかったじゃない」

気のせいだろうか。今日一日政宗とあまり話していないように思う。今日一日の記憶を思い出そうとすれば、蒼華と蒼のことはすぐ思い出せるのに、政宗のことになるとあまり思い出せない。蒼華と蒼にかかりっきりで、政宗のことまで気が回っていなかったせい……か?

「もしかして政宗……拗ねてる?」
「ンなわけあるか」

と否定するが、そう言う政宗の声には少しとげがある。拗ねている子供というか、不貞腐れた子供というか……面白くないという表情をしている彼を見て、私はたまらず笑い声をあげてしまった。すると政宗は少し顔を赤らめ、ますますつまらなそうな顔をした。仕方がない。今晩はすっかり拗ねてしまった旦那様のために、いつも以上に甘えさせてあげようか?

完 

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政宗夢/幼馴染は伊達組筆頭シリーズ
頂いたリクエスト内容は幼馴染は伊達組筆頭シリーズ未来編でヒロインが子供二人ばかり可愛がり政宗が拗ねてしまうお話でした