あた婚! | ナノ

失礼な話だがアレに女の魅力を感じたことがないのだ

はっきり言ってしまえば意外の一言だった。

失礼な話だがアレに女の魅力を感じたことがないのだ。まあ彼女も元親をそういう目で見ることはないのでお互い様か。会社の同僚だから、という理由を差し引いてもアレに女としての魅力が感じられない。プライベートをほとんど知らないので、職場以外での彼女の顔を長曾我部元親はほぼ見たことがない。せいぜい飲み会くらいだ。外見も仕事の能力も人並みで、とりわけ目立った何かがあるわけでもない。

いや、ある一つだけ目立つ部分がある。口の悪さだ。めちゃくちゃ乱暴とまではいかないが、女としてそれは如何なものかと窘めたくなるときがある。何もそこまで言わなくてもと思わずにはいられない瞬間は両手では足りないほどだ。

恋愛対象として見ることはないが、だからといって嫌いというわけではない。現に二人の意識関係は職場の同僚であり、友人でもある。会社の飲み会以外でもたまに飲みに行ったりしている。元親としては失礼ながら男友達と飲みに行っている感覚に近かった。彼女もそのことに気がついているが何も言わない。彼女も元親を恋愛対象で見ていないためだ。

そんな彼女が男と一緒に歩いていたのだから、その光景を目撃した元親の驚きっぷりは尋常じゃなかった。横にいた佐助も似たような反応をしている。きっと佐助も元親と同じ感想を抱いているのだと思う。まさかあいつに男がいたとはなァ……。驚いたがショックは微塵もない。一瞬よぎった心が締め付けられるような気持ちには気づかないふりをする。仲の良い友達が自分以外の友達と親しげにいるのを見て、寂しいと思ってしまう……きっとそんな感覚だ。

相手はどんな男なんだろう。軽い気持ちだった。軽い気持ちで彼女の名前を呼んだだけだ。しかし彼女はこちらを振り向くことなく、脱兎のごとく逃げ出してしまった。逃げる二人に元親と佐助の反応が僅かばかり遅れてしまう。まさか逃げられるとは思ってもいなかったからだ。逃げられると追いかけたくなるのが生き物の本当というものである。相手の男を紹介できない理由があるのか。あるとすれば一体どんな理由なんだろう。気になる。とっても気になる。元来好奇心旺盛の元親だ。このまま黙って見逃すはずがない。いい年して……とは思うが、そんなことはどうでもいい。横にいる佐助も元親と同じようで、二人は互いに顔を見合わせると黙って頷いた。街中が範囲という鬼ごっこの始まりである。

散々走った挙句逃げられて、翌日なんとか捕まえ問い詰めたオチが―――兄。それも妹がボロカスに貶すというオプション付きだ。何か面白いことでもあるのかと期待していたのに、逆に顔も名も知らぬ兄に同情を覚えてしまった。兄妹だからといっても、あれは言いすぎだ。可哀想過ぎる。思い返すだけで目頭が熱くなる。

その日はずっと外回りだった佐助と終業後に合流し、そのまま飲みに向かった。その席で今日聞いたことを佐助に報告する。彼もまた相手のことを気にしている様子だったからだ。元親は話しながら兄というオチに佐助も自分と似たような反応をすると思っていた。二人で昨日あんなに走ったのに意味なかったなーと笑い飛ばす……そうなると思っていた。現にそうだった。佐助は「なんだよそりゃ」と言って元親同様笑っている。

しかし――――その笑顔の奥に一瞬安堵のようなものが窺えたのは気のせいだろうか?

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