帰ってきた俺様伊達男 | ナノ

ついにバレました、じゃなくてバラしました

全校生徒のみなさん、聞いてください! どうやら私に、最初で最後かもしれないモテ期が到来しました。やったね華那、初めて男の人から告白されたよ。でもなんでそれが……番長などとふざけたヤツなんでしょうか?

「……………ほ、惚れた?」

顔を真っ赤にさせている番長と、それとは正反対に真っ青な表情を浮かべている子分達。政宗は表情を失くしていて(アホ面)、当の私といえば学校にある銅像のように固まっている。おもいっきり蹴ってしまったから殴られると構えたのに、番長は私を殴ることなく。

―――それどころか指を胸の前でモジモジとさせていた。照れてる……のだろう、これは。気持ち悪いことこの上ない。顔は三十代のおじさんっぽいのに、恋する乙女のような恥じらいを見せているのだよ。モジモジモジモジ……さっきから意味もなく指を弄っている。さっき食べた物が逆流しそうになってんですけど。乙女としてリバースだけは避けたいです。

「………アノォ、聞キ間違イデスヨネ? 「惚レタ」デハナク「腫レタ」ノ間違イデスヨネ?」

不自然な日本語で、真っ青な表情で立ち尽くす子分達にこう訊ねた。このときばかりは子分達は私に味方してくれたようで、何度も激しく首を縦に振る。同意してくれたのは嬉しいが、あからさますぎてなんだか腹が立つ。

「聞き間違いなんかじゃない! オレはあんたに惚れた!」
「蹴られた相手に惚れるか、オイ!?」

私だったら惚れないよ。惚れる要素がどこにある。蹴られた相手を蹴り返すのが関の山。やられたらやりかえせの精神に則り、正々堂々と復讐することを誓います! ってこれじゃあ体育祭の開会宣言じゃん。

「とにかく私はあんたみたいなごっつい顔はタイプじゃないのでお断りします。ごめんなさい」
「な!?」

こういう男には何事もハッキリと言ったほうがいいんだ。変に有耶無耶にすると後が面倒くさい。

「じゃああんたはどんな男がタイプなんだ!? オレは君の理想になってみせる!」

うわ、暑苦しい。イヤですって断ってんだから素直に引き下がってよ。第一、私の理想になってみせるてどういう意味? もしかして私が理想とする男性の外見になってみせるということなのか? 

でもどんな男性が理想なのか、正直よく分からない。というか考えたこともなかった。だって今までそういった話には全くといっていいほど縁がなかったし、男自体に興味がなかったというのも大きな理由だ。

だから理想の男性なんてよく分からない。教室を見渡し、どんな男が果たして自分の好みなのか物色する。理想に適うものはいない……はずだったのだが、私の視線は一点で固定された。

「An?」
「うーん……………」

悔しいけど、政宗にだけ毎日ドキドキさせられてるんだよね。オレサマだしサドだし、いつも私を苛めて楽しんでいる最悪な男。でもそれ以上にかっこいい。そう、何よりかっこいいんだよこいつは。気がつけばいつもこいつを目で追っている自分。やることがなければ政宗のことを考えている自分。私の生活はいつの間にやら、政宗中心になっている。

どんな人間にだって言えることが、自分が世界の中心。自分が物語の主人公で、世界は自分を軸に回っていると思うことだろう。でも私にとって世界の中心は政宗。政宗を基準にして全てを計り、政宗を中心にして動いていく。それがいかに愚かな行為だろうと知っても、やめられないんだ。

「What?」
「―――悔しいけど、私の中心はあんただなーって思っただけだよ」

抽象的な言葉だったのに、私が何を言わんとしているかこいつには伝わったらしい。口角を上げて、いつもの―――獣の笑みを浮かべる。こういった笑みを浮かべるときの政宗はいつにもまして妖艶だと思う。

「Bullyu」

政宗がまァたわけの分からない英単語を口にしたよ。分からないのは私だけでない。番長や子分達も分からないようできょとんとしていた。しばらくたっても動こうとしない私達に焦れたのか、政宗はもう一度大きな声で同じ英単語を口にする。だからそれだ! その英単語の意味が分からないから反応が返ってこないって気づけ。馬鹿にしてるのか?

「どういう意味?」
「ガキ大将っつー意味だ。Understand?」
「はーい。じゃあさっきのは番長さんを呼んでいたのか。すぐに返事できなかったってなんかかっこ悪いよね。なんならもう一回今のシーンやり直す?」
「そのほうが余計にかっこわりィだろ……。で、番長サンよ。そういうわけだ、こいつはオレの女。勝手に口説いてんじゃねェよ」

何度も言っている気がするが、私はあんたの女になった覚えはない。でもまぁ独占欲の強い政宗のことだ。オレの女と言っても、オレのおもちゃみたいな意味合いで言っているのだろう。ん? それでもやっぱりおかしい。だって私、あんたのおもちゃになった覚えもないぞ。

「嘘付け! 嫌がってんぞ、彼女!」

その点については番長さんに同意を示す私です。だからと言って番長さんに惚れるということはないが……。

「テメェはオレの大事な子分にも手を出したんだ。ぐだぐだ言わず、これでケリをつけようや!」

やっぱり番長って馬鹿というか単細胞というか、物事を深く考えない傾向があるようで。口であれこれ言うのが面倒臭くなったのか、いよいよ己の拳で物を言わそうとしてきた。

ようやく番長の本領発揮というせいか、今までぽかーんとしていた舎弟達も「おおー!」と歓声を上げる。思えば最初、この人達は殴り込みというか喧嘩を売りに来てたんだよね。が、ぽかーんとしていたのは舎弟達だけではない。クラスメイト達もぽかーんと見守ってたんだよね。振り出しに戻った今、教室には女の子の悲鳴や男の子の興奮した声も一緒に響いている。

「Ha! テメェ如きで、このオレを倒せると思ってんのか!?」

政宗も政宗で、すっかり臨戦態勢に入ったらしい。表情も活き活きとして、凄く楽しそうだ。え、なんでこの状況でそんなに楽しそうなの!? 何か面白いことが一つでもありました?

「Hey 華那、お前も楽しめよ!」
「だから何を楽しむの!?」
「決まってんだろ? 喧嘩だ!」
「はいィ!?」

喧嘩を楽しむなんて出来るわけじゃないでしょ! 暴力反対とは言わないけど平和主義者なんだよ私は。矛盾してるかもしれないけど、暴力だって時には必要ってもんなんだよ。例えば政宗を黙らすとか、政宗を黙らすとかね。

「って全部オレ限定じゃねェか!」
「政宗以外に何かあって?」
「だから無視すんなってつってんだろうが!」

番長が繰り出した右ストレートが、確実に政宗の顔面を捉えた。私は咄嗟のことで反応が遅れ、ただ番長の右ストレートが政宗の顔面に直撃する時を待つことしか出来ずにいる。周りの生徒達は顔を両手で覆うか、目を見開いて事の成り行きを見守ることしか出来ない。

「Ha! 誰に喧嘩売ったと思ってンだ?」

全ては一瞬だった。番長が政宗の間合いに入ったと思ったら、番長の右ストレートが顔面にヒットする前に、政宗が強烈なボディーブローを決めたのだ。それは抉るように番長の腹部に入り、あまりの衝撃に当たった瞬間、番長の目玉が飛び出そうに見えたくらいだった。痛そうなんて言うレベルじゃないぞ、これ……。キャーキャー騒いでいた野次馬達も呆然としていて、痛いくらいの静寂がお昼休みの教室を包み込む。

「て、テメェ、よくも番長を! 殺す!」
「いいぜ、殺れるモンなら殺ってみな。このオレ―――伊達組筆頭伊達政宗を敵に回す覚悟があればの話だがな」

舎弟達が一斉に戦闘モードに入ったが、政宗のこの一言でその戦意はみるみるうちに小さくなっていく。この近辺であまりに有名すぎる「伊達組」。知らないやつはモグリと言っても過言ではない。伊達組とはおそらく日本で最大を誇る任侠一家の名前であり、同じ世界で生きる者だけでなく私達一般市民まで知っているくらい有名なのだ。ましてや不良達がその存在を知らないわけがない。そんな伊達組のトップである政宗を敵に回すということは……考えただけでもおぞましい。こんな小さな場所で粋がっている不良共なら殊更だ。

「ンな冗談、信じられるはずねェだろうが!」
「Jokeねェ……ならjokeかどうか―――試してみるか?」

果敢にも政宗に喧嘩を売った舎弟達と復活した番長は、結果的に全治一週間という怪我を負いました。そして政宗が伊達組筆頭だという事実がこのお昼休みという僅かな時間で一気に広まり、お昼休みが終わる頃には、既に全校生徒が知っているとことになってしまいましたとさ。

続