青空の下で | ナノ

ガツン!
逞しさを感じさせる女性の腕が、キバの頭の上に拳骨をふらせた。

「いってええ!」
「この馬鹿息子!どこほっつき歩いてるって思ったらよりによってこんなとこかい!」

彼女の名前は、犬塚ツメ。他でもないキバの母親だ。
・・・・・・森の中からところ変わって奈良家の門前。
そこにいたのは、私とシカクさんと、キバとツメさんと、シノとシビさんだった。



『結局どうしてここにいるの・・・』



森の中。
直後、キバの抽象的な説明によって何とか理解したことを説明するとこうらしい。
キバは、自分達が修行する場所以外にもいいところはないか散歩をする中で探していたようだ。
そして、どこをどううろついてたどり着いたのかは分からないが、恐らくその体力で走り回った上だろう、
奈良家私有地の森を見つけ、ここを修行場に出来ないかと思ってここに来て、例の怪我した小鹿を見つけたのだと言う。
親同士知り合いだった、シノも誘っての行動だった・・・。

そして今、門前に私達がいる理由。
キバのことを侵入者だと勘違いした私が・・・いや、実際侵入者という点は合っていたが・・・。
その時に異変を知らせるようお願いしたあの鹿がシカクさんを連れてきてくれて・・
私と、何故かいたキバとシノを見つけて一瞬驚いた顔をして、事情を聞いてから奈良の家に上げたのだ。
きっちりツメさんとシビさんに連絡を入れてから。

「・・・すまなかったな、シカク。息子が迷惑をかけてしまったようだ・・・」
「申し訳ないです」

流石シノのお父さんというか、たんたんとした様子でシビさんはシカクさんと話をする。
それにあわせるようにツメさんもキバの頭を無理矢理下げさせた。

「全く!勝手に行動するような真似はもうするんじゃないよ!」
「うええ、ごめんなさい・・・」

キバも母さんには叶わないらしい、反省した様子を見せた。

「まあまあ、そんな謝らんでも。お前達の子供だから安心したし」

それに、
そう言葉を続けてシカクさんは私の腕に抱かれている小鹿を見た。

「小せえ子は、ちっちゃな怪我でも見逃すとすぐ死んじまう・・
お前達の子が発見してくれて実際助かったしな、なあロク」
「う、うん!」

その通りだった。
あのままだったら大勢の鹿の中、あの小鹿の怪我に気付けることはなかったかもしれない。
可愛い可愛い我が子達を死なせるわけにはいかないのだ。

「でも、まあ。奈良一族以外が来るとすごい警戒するからな。今度からは気をつけてくれよ二人とも」
「「はい・・・・」」

しょぼん、とした二人。
あやすようにシカクさんはシノとキバの頭を撫でた。

「なんだ、案外素直でかわいいガキじゃねえの。お前らの若い時とは全然違うなあシビ、ツメ」
「貴様に言われたくないぞシカク」
「あんたにゃ言われたかないねシカク」
「ひでえ!」

私とシカクさんを交互に見つめる視線が二人分、少し恥ずかしくなった・・。
見るとシノもキバも少し笑っている。
つられて私も少し笑った。






「じゃあ、今度アカデミーでね・・・!」
「おーう!合同演習で会えたらいいな、なっシノ!」
「・・・・・ああ・・・・」

別れ際、そう言って彼らの帰る姿を見送った。

「ロク?」
「なあに?おとうさん・・」
「あいつらは乱暴だけどなあ〜、結構いい奴らなんだよ、シビもツメも。
いい友達になれると思うぜ、あの子らならよ」
「・・・うん、私も・・・そう思った・・・!」

ふ、とシカクさんが昔を懐かしむように彼らが帰った道を見ていた。

「よし、続きすっぞ続き。父ちゃんも休みはそう長くとれないからなー」
「うん!」

私達はまたあの森へと戻っていった。
先程まで抱いていた小鹿は、もう歩けるようになっていた。
キバ達の帰った方向をじっと見つめてから、
私達の後をついてきた。
小鹿はどこか、また会いたそうな顔をしていた・・・そっとその頬に手を当てる。

「また遊びに来てくれるよ・・・」

明日からまた、アカデミーは騒がしくなりそうな気がした。

- ナノ -