フッ・・・と、美朱の瞳が開いた。

「・・・あ・・・れ・・・?」
「気がついたか?」
「・・・お兄・・・ちゃん・・・」

頭が・・・グラグラする・・・・。

「あたし・・・・」
「疲れてたんだよ。お前、いきなりぶっ倒れたんだ」
「・・・・あ」

あの時のことを思い出したらしい。
その表情が、固まる。

「美朱、よく聞け。・・・・元の世界へ帰る方法が見つかったんだ」
「え・・・」
「嘘じゃない、本当だよ。さっき星宿達から聞いたんだ」
「・・・帰れるの・・・・?」
「ああ、そうだ」

疲れきった表情・・・・辛そうな身体。
・・・こんなに近くにいたのに・・・・様子がおかしいことに気付かなかったなんて・・・。

「何でも、太一君っつー神様がいる"大極山"って山に行かなきゃならないんだと。結構遠い場所らしいけど・・・俺達が、必ず連れてってやるよ」
「え!で・・・でも・・・この国あたしとお兄ちゃんいなきゃ困るんでしょ?その前に七人探して・・・」
「いいんだよ、今はお前の身体が大切だって・・・皆も言ってくれた。もう無理しなくていいんだ」

ぽん、と美朱の頭に手を置いて優しく撫でる。

「それに、な・・・・それ以外にも、帰らなきゃいけない理由が出来た」
「え?」
「唯ちゃんのことだ」

親友の名前が出てくるとは思っていなかったのだろう、鳩が豆鉄砲くらったような顔している。

「・・・・唯ちゃんも、俺らと一緒にこの本の中に吸い込まれてたんだ・・・・」
「う、うそっ・・!?」
「しかも・・・・俺の見てる前で・・・攫われたんだ・・・・」
「さ・・・っ!!?」

思い出すだけで、何も出来なかった・・・。
いや、何もしようとしなかった自分が憎らしくなる・・・。

「攫われたって!?どういうことよ、唯ちゃんは・・唯ちゃんはっ!!」
「焦るな、落ち着け!!ほら、お前あの時のこと覚えてるか?ほれ、お前が捕まって城に連れて来られた時の・・・」



カッ!!



・・・視界を覆うような朱色の閃光を・・・・。

「う、うん・・・覚えてるけど、それが・・?」
「こっからだ、よく聞いとけ。あの光は多分、俺達本の世界へ入って来た奴を元の世界へ戻すためのものだったんだ」
「うん・・・・それは、あたしも感じてた」
「あの時俺ら二人は同時に身体が光って・・・自分の意思で、ここに残った。
だけど、考えても見ろ・・同時に唯ちゃんにも同じことが起こってたらどうする?」
「・・・・あ!」

そう。
あの時・・・・本の中に入った人間は元の世界に戻されようとした。
この世界に来たのは紅蓮、美朱・・・・それに唯だっていた。
自分達にあんなことが起こったのだから・・・恐らく、唯にも・・・。

「唯ちゃんは・・・元の世界に?」
「・・・それが、今のところハッキリ分からねぇんだ。だから元の世界に帰って・・・あの子が無事だったのかを確認したい・・・」
「・・・・・うん・・・・分かった。ならあたしも帰るよ」

紅蓮は、きつく美朱を抱きしめた。

「・・・・おにい・・・ちゃん・・・?」
「ごめんな」

何故、兄が謝るのか。
・・・美朱には分からなかった。

「ごめんな。俺・・唯ちゃんが連れてかれる時・・・何も出来なかった・・・助けられなかった!!」
「お兄ちゃん・・・・」
「ほんと・・・・ダメな兄ちゃんでごめんな・・・!俺、お前のことしか考えられなかった・・・・」
「・・・ううん・・・・ちっとも、ダメじゃないよ」

美朱が紅蓮の頭にそっと手を置いて撫でた。

「・・・・お兄ちゃんがあたしの為に頑張ってくれてるの・・・知ってるもん。だから、お兄ちゃんは全然悪くないよ。
ね?落ち込まないで・・・・唯ちゃんのこと、一緒に探しに行こうよ」
「美朱ぁ・・・・・・」

柄にも無く、目元を赤くしてぼろぼろと泣いた。

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