鬱陶しいなあ、もう。 思わずそう、口から吐きだしそうになってしまった。 頼まれた仕事も一通り終わり、伸びきった足の爪にペディキュアを塗るべく中庭のベンチに座っていると、ひょっこりとやってきたシャルルカン。何か用?とだけ聞いたが、特にないとの返答だ。集中したいのに、視界の端でウロウロと鬱陶しい。 「あー、もう!」 「んだよ、いきなりデカい声出すんじゃねーよ」 「何なの?!邪魔くさい!」 「はぁ?邪魔なんかしてねーじゃねーかよ」 「その動きが邪魔だっつってんのよ!」 苛々をぶつけるように振り回した拳ははいとも簡単に避けられ、更に私の怒りは増長することになる。 塗り終わったにしても、乾くまでが勝負なのだ。乾いたかなと思って油断したところでヨレてしまうことなんてざらにあるし、むしろここからが慎重にならなくちゃいけないところで。そんな時に傍にいるのがシャルルカンとは、何とも不運というか。 「もーあっちいってよ」 「なんで」 「ジ ャ マ な の。聞こえなかった?」 「可愛くねぇなー、お前って」 「うっさい。可愛くなくていいです」 「そんなんだからモテねぇんだよお前は。すぐイライラし始めてでけー声出すし?」 「私がモテないなんて何であんたがわかるのよ!いい加減な事言うのも大概にしなさいよねこのド変態!」 「なっ、誰がド変態だよ?!このチンチクリン女!」 「チンチクリン〜〜〜?!」 思い切り頬を抓んでやろうとした右手も案の定すんなりと避けられ、シャルルカンは私の手の届かない場所へと身を動かす。私がいま身動きがとれないことをわかってるんだ、この人は。 「…ムカつく」 「へェ〜?今日は殴りかかってこねぇの?」 「動けないの知ってるくせに……!」 「ざまーみろ」 「こンの……ッ」 数年前、初めて会った時、私は彼のことを素直に"格好いい人だな"と思った。なのになんだ、この有り様は。こんな風に言い合いをするようになるなんて思いもしなかったのに、私のあの時の一瞬のトキメキを返してほしい。(本当に、ほんの一瞬ではあったけど)一瞬のトキメキとは、ただの幻想にしかすぎないのだ。 「そーか、動けねぇのか」 「そーよ」 「っし、じゃーちょっと借りるぜ」 「は?」 ドカッと私の横に座ると、私の方に身を委ねるように首を傾ける。この状況も理解できないが、瞬間的にカッと私の頬が熱くなった意味も理解できない。 「ちょ、何してんのバカッ」 「ちょっと休憩。おやすみー」 「やめ、やめなさいよっ!」 「ホラ、動くとハゲるぞ」 「ねぇほんとに…っ」 誰かに見られたらどうするんだ。そんな私の心配をよそに、人の肩の上でスースーと寝息をたてるシャルルカン。起きたら絶対、グーパンチしてやる。 ときめきと嫌悪の紙一重 title:クワリフの朝 ×
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